没年調査

イントロダクション

没年調査、すなわち、ある人がいつ亡くなられたのかを調べること。なぜそんなこと調べるかというと、著作権が関係するから。

今の法律では、著作権の保護期間は、その作品を書いた人が死んでから70年となっている(以前は50年だったけど、2018年に変更)。だけど、いつ亡くなったのかわからないと、著作権がいつ切れるかわからないので、その人が書いた作品はずーっと使えない。これは困った、なんとかしましょう、というので登場するのが没年調査。

これまで、青空文庫の関係で、没年調査をいくつか行なった(「伊東英子井沢衣水をさがせ」など)。さいわい、この2件は没年が判明したが、没年がわからず困った状態におかれている作品は、ほかにもたくさんある。

国会図書館の没年調査

没年がわからなくて宙ぶらりんの作品をなんとかしよう、ということで、国立国会図書館では2003年から「著作者情報公開調査」というものをやっている(※1)。

くわしくは「著作者情報公開調査」のサイトを見ていただくとして、これまでの調査状況は【表1】のようになっている(※2)。

最初の2003年は、情報提供がたくさんあって、連絡先や没年もたくさん判明している。その後しばらくは情報提供の数が少なくて、低調だったみたい(調査期間によって調査対象者の数が違うので、一概にはいえないけど)。

また、現在の調査期間の情報提供数をみると、2015年5月から2023年1月末までの件数が1,519件となっているけど、そのうち当方が報告したのが900件ほどあるので、それを引くと600件あまりという数になり、1年では80件ほど。ま、以前の数とくらべれば、まずまずか。

情報提供の数がなぜこんなに少ないのか、というと、没年調査がむずかしいから、だろう。この調査の対象者は、国会図書館のプロが調べても、没年がわからなかった人たち。当然、国会図書館が持っている事典や辞書、そして国会図書館で使えるデータベースは調査済だろうから、同じツールで調べてもダメ。となると、それ以外のもので調べる必要があるわけで、たとえば、特殊な専門資料とか、国会図書館が持ってなさそうな郷土資料とか? なんか大変そう。

それが、最近になって情報提供の数が増えているのは、一つは、国会図書館が調査した以降に発行された事典類や、新たに公開されたデータベースが使えるようになったから。もう一つは、国立国会図書館デジタルコレクションGoogleブックスといった、テキストの全文検索をする手段が飛躍的に進歩したから。まあ、それ以外にもあるだろうけど、大きいのはこの二つかな。調査開始から20年も経っているのだから、いろいろ進歩しているわけ。

コタツトップ・ディテクティブ

さて、当方が没年調査を始めたのは、先に書いたように青空文庫の関係からだが、国会図書館の「著作者情報公開調査」には、れとは別に興味をもっていて、2015年から将棋関係の人物などを何件か報告していた(※3)。

本格的にやるようになったのは、2020年の8月から。コロナで外出もままならない時に、たまたまみたのがこの「著作者情報公開調査」。調査対象者の著作者リスト(この時点では47,897人だった)がExcelで公開されていたので、それをダウンロードして、つらつらとながめてみる。暇つぶしに、ちょっとやってみるか。コロナのせいで図書館へ行くのはアレなので、自宅からネットだけでどこまで調べられるかな。うむ、これはアームチェア・ディテクティブ(安楽椅子探偵)ならぬ、デスクトップ・ディテクティブだな。いや、ウチの場合はコタツトップ・ディテクティブか。Googleブックスなど、ネットでつけた情報でテキストが閲覧できない場合は、それこそ国会図書館の側で確認してもらえばいいし。そう、できるとこまでやって、あとは国会図書館にお願いしよう

そんな軽い気持ちでとりかかったのだが、Excelの著作者リストを見ていたら、いくつかアヤシゲな点に気がついてしまった。そこで、まずは「データのそうじからはじめることにした。

次に、国会図書館の中の人がやってないことはなにか、と考えて、著作者リストの人名ネットで公開されている人名データとマッチングさせて、候補者を絞って調べてみた。その際、報告しやすいようにひな型となるテキストを出力するようにした。

そして、実際に調査をするとき、いろいろな検索サイトに同じ人名を貼り付けるのは面倒なので、「貧者の横断検索」を作って、楽ができるようにした。

こんな感じでシステマチック(?)に没年調査をすすめた結果、2020年に報告したのは142件、2021年は316件、2022年は445件で、計903件となった。われながらよくがんばったものだ(※4)。

実際の手順

えー、実際に調べる手順は説明がめんどうなので、「著作者情報公開調査」にある説明や、国会図書館のリサーチ・ナビにある「著者の没年を調べる」「人物文献(伝記など)を探す」でおおまかな流れをつかんで、最近出版された『調べる技術』(※5)でも読んで工夫してください、とお茶を濁そう。あと、ししょまろはんラボでは、毎年「没年調査ソン」をやっているので、そのときの資料なんかも参考になるかも。

要は、その人の情報が見つかったら(名前によっては同姓同名の別人じゃないことを確認してから)、情報をまとめて提出、かな。ま、実際にやってみないとわからないこともあるからね、なんてのは書くまでもないか。あー、おせっかいかもしれないが、報告する前にもう一度、見落としがないかを確認したほうがいいよ。ちょっと時間をおいてからのほうが、冷静に見れるからね(※6)。

最後に、「著作者情報公開調査」に報告した実例として、栗塚竜子の報告をあげておこう。たぶん、一番の力作。

2023年3月19日作成/2023年4月1日修正

追記(2024/2/11):

2023年の調査結果をまとめて、「陸軍・海軍」のページを追加した。 

※1 国会図書館で著作者情報の公開調査が2003年に始まった背景には、2002年に国会図書館が公開した「近代デジタルライブラリー」(後の「国立国会図書館デジタルコレクション」)がある。資料をデジタル化して、さあ公開というときに引っかかったのが著作権、というわけ。

※2 "著作者情報公開調査". 国立国会図書館, https://dl.ndl.go.jp/openinq, (参照 2023-04-01). にある「2-3. これまでの調査」より。

※3 河村古僊、鈴木重陽、中村乾二、大橋鐐英、伊藤蓮窓、渋江桂蔵、川井房卿など。

※4 とはいえ、当方の報告を一つずつ確認するはめになった、国会図書館の著作権処理係もたいへんだったと思う。オツカレサマであります。

5 小林昌樹著. 調べる技術 : 国会図書館秘伝のレファレンス・チップス. 皓星社, 2022.12, 183p, ISBN 978-4-7744-0776-0.

※6 没年調査ってのは、しめきりがあるわけじゃないから、見つけた/即報告の必要はないよね(発見したときの喜びを、だれかに伝えたくなる気持ちはわかるけど)。それよりも、ていねいな報告をしたほうが、受け取った側には喜ばれるんじゃないかな(自戒を込めて)。