開き王手(※1)と、両王手(※2)。詰将棋ではよく見る手筋だが、その基本について考えてみたい。
開き王手とは、王と「飛(龍)・角(馬)・香」の間に駒が1枚あって、その駒が移動することで、利きが通った「飛(龍)・角(馬)・香」が王手をかけること。
移動した駒を「移動駒」、王手をかけた駒を「王手駒」とすると、開き王手が成立する駒の組み合わせは次の表の通り。
移動駒と王手駒が同じだと、開き王手は成立しない。また、王手駒が香の場合、香と同方向の利きがある飛や、香と同方向にしか動けない歩との開き王手は成立しない。
両王手は、開き王手の特殊な場合で、移動した駒でも王手をかけることにより、同時に2つの王手をかけること。王手をかける駒が2枚のため、合駒ができないという特徴がある。
移動して王手をかけた駒を「移動王手駒」、移動せずに王手をかけた駒を「王手駒」とすると、両王手が成立する駒の組み合わせは次の表の通り。
両王手が成立する駒の組み合わせは、開き王手のときより少ない。また、王手駒が角で、移動王手駒が桂か香か歩のときは、移動王手駒が成るときのみ両王手が成立する。
次の詰将棋は、開き王手と両王手を含んだ3手詰である。
初手は5五桂。角が王手駒、桂が移動駒の開き王手。
2手目は3三玉と逃げる。
3手目は4三桂成。角が王手駒、桂が移動王手駒の両王手で、これで詰んでいる。
初形/詰め上がり
将棋のルールでは、同時に3枚以上の駒で王手をかけることはできない。
しかし、初形で、攻方の王に3枚以上の駒から王手をかけられているという、奇妙な詰将棋が存在する。たとえば、「詰将棋パラダイス」2008年5月号掲載の草野翔吾作では、初形で8枚の駒から王手をかけられている(8重王手)。
初手は当然、この8重王手の状態を解消するために攻方王を移動させ、同時に受方玉に王手をかける手になり、その後は通常の将棋のルールに従った指し手になる。
この作品には、次のような主張が込められているようである。
「詰将棋の初形は、指し将棋の終盤を切り取ったものというが、かならずしも将棋の実戦の初形に戻せるものばかりではない(たとえば、煙詰など、攻方王を置くすき間さえないものがある)。
その意味では、詰将棋の初形は、将棋のルールに従っていない。
それならば、初形が多重王手など、将棋のルールに従わないものがあってもいいのではないか」
詰将棋の初形の解釈については意見がわかれるところだが、とりあえず、普通の詰将棋では、手順中に2重王手(=両王手)はあっても、3重以上の多重王手は存在しない、と書いておく。
草野翔吾作「詰将棋パラダイス」2008年5月 51手詰
2020年7月17日作成/2025年2月27日修正
※1 「開き王手」は、「空き王手」「明き王手」「アキ王手」など、いろいろな表記がある。チェスだと「discovered check」。
※2 チェスだと「double check」。