仕事帰りで夜遅く帰ると、いつもの通勤路は暗く、大きな音も聞こえてこない。そういう時に五感の内でよく働くのは、私の場合は「鼻」かもしれない。小さい頃からなぜか人より嗅覚が鋭く、雨が降る前も鼻からわかる。この2ヵ月ほどは、この夜の時間の花の香りに癒されている。そしてそれは人が植えた樹木の方がより強い香りを放っているように感じる。沈丁花、ミカン、ハゴロモジャスミン、ツツジ…。
野の花も次々と咲き、こちらは香りというよりも色や数で迫ってくる。風景の一部として通り過ぎてしまいがちだけれど、出かけ先から家までの道すがら、花が咲いていたら写真を撮ってみようと思いつつ歩いてみると、先に進めないくらいにたくさん出会った。誰も何もしなくても、その時が来るとそこでこうして毎年咲いているのだろう。ナガミヒナゲシ、タンポポ、小判草、オオキンケイギク、コメツブツメクサ…。
初夏になり、北の桜もそろそろ終わったことだろう。最初の一輪は皆心待ちにしているけれど、最後の一輪を気にする人は見たことが無い。私も最後の一輪を見たことが無い。それでも草木は最後の一輪まで咲かせ、散っていく。そして次の生命につなげていく。そこに生きるエネルギーを感じるのは、その向こうにある大きな力が働いているのを感じるからだろうか。子ども達も自然教室の「自然の教室」からその生命のエネルギーをたくさん分けてもらってきたことだろう。
「野の花がどのように育つのか、注意して見なさい。働きもせず、紡ぎもしない。しかし、言っておく。栄華を極めたソロモンでさえ、この花の一つほどにも着飾ってはいなかった。今日は生えていて、明日は炉に投げ込まれる野の草でさえ、神はこのように装ってくださる。まして、あなたがたにはなおさらのことではないか 」
(マタイによる福音書 6:28~30)
A.K
この記事を読んでくださったあなたにお尋ねします。あなたの「好きな匂い」はなんですか?
特定の花の匂いでしょうか?森林の匂い?干してふわふわになった洗濯物の匂い?(いわゆる、おひさまの香り)お気に入りの香水の匂い…など、いわゆる「万人受け」するような「いい匂い」は世の中にたくさんあります。でも、人によっては、ちょっと人には言えないような、不思議な匂いが好きな人もいるはずです。
ちなみに、私も、「おひさまの香り」や水仙の花の匂いなども好きですが、特に好きな匂いが2つあります。
一つは「草刈り機で草刈りをした後の匂い」。もう一つは「ある特定の、地下鉄の匂い」です。
なぜこの2つが好きかというと、この匂いを嗅ぐと自分が小さいころにいた家のことを思い出すからです。(特定の匂いが、過去の記憶や感情などを呼び起こす現象を「プルースト効果」と呼ぶそうです。)
まず、「草刈り後の匂い」は、特に昔住んでいた家のことを思い出します。私の父が草刈りをしていたのか、隣の家の人が草刈りをしていたのかは覚えていませんが、摩擦熱で少し焦げたような匂いと草の青臭い匂いが絶妙に合わさった、特定のバランスを保った匂いが大好きです。(こういう匂いの蚊取り線香が発売されたら絶対買うのに…)
また、「ある特定の、地下鉄の匂い」は、私が住んでいたところの近くにあった飛行場が、この匂いでした。これは満員電車から出てきたムアっとした香りに近く、新品の絨毯を少し燻して押し入れに3日間くらい入れた匂いなんですが、おそらく清掃に使われている洗剤の匂い?らしいです(この辺りでは確か、横浜の市営地下鉄のある特定の駅か、東京メトロのある特定の駅で嗅げます。)
昔の記憶は写真に撮っても、その鮮やかさは失われていきます。でも遠い記憶を思い起こさせる強烈な何かが、どの方にも必ずあるはずです。
小学校で働いていると色々な匂いがしてきます。子どもたちのお弁当の匂い、子どもが汗だくになって帰ってきた教室の匂い、図工室の絵の具の匂い…いつか、私が年老いた時に、新たな「好きな匂い」が増えるのが楽しみです。
知恵は老いた者と共にあり 分別は長く生きたものとともにあるというが 神と共に知恵と力はあり 神と共に思慮分別もある。 (ヨブ記 12:12~13)