ここでは財政健全化法について学びます。
2009年4月から5月にかけて連載したものなので、若干内容が古い可能性がありますが、基本的な仕組みは変わっていないと思います。
また連載した内容そのままではなく、若干加筆修正をしている部分があります。
はじめに <2009年4月16日投稿>
夕張市の財政破綻を契機に、財政健全化法(正式名称 地方公共団体の財政の健全化に関する法律)が平成19年6月に制定され、平成19年度決算から新しい指標による財政状況の公表が義務付けられました。
各市の決算状況を報告する広報などで指標が発表されているのを目にしているかと思います。
その一方でこの指標の公表について唐突な印象を持ったり、よくわからないという印象を持っている人も多いでしょう。
このコラムは「日本一わかりやすい財政健全化法の指標の説明」を目指し作ってみました。
書いている本人も勉強中なので、時間がかかったり、わき道にそれたりするかと思いますが、ご容赦ください。
第一回 市の財政破綻とは ~ 民間と違う考え方
財政健全化法が制定されたきっかけは夕張市の財政破綻といわれています。
ところで市が財政破綻するとはどういうことでしょう。
実は調べてみると、市の財政破綻と言っているものは、民間企業や個人の財政破綻(倒産や破産など)とはかなり異なるものであることがわかりました。
民間企業や個人の財政破綻についてごく簡単にまとめると
○どういうときに財政破綻というか
・支払いができないとき
例えば会社の場合、手形が2回決済できない(支払期日に銀行の残高が足りない)と銀行取引停止になり、倒産します。
個人でも払いきれない借金がある場合は破産の手続をすることがあります。
・債務(借金など)が多すぎるとき(会社の場合)
資産(財産)よりも債務(借金)が多いとき ~債務超過といいます。
○それでどうするか
・財産を換金して借金を返す。
→ その上で返せない部分は免除。(破産の場合)
又は
・債務を圧縮 → 計画に従って経済再建を図る(民事再生などの場合)
となります。
それでは、市や町の場合はどうかというと、例えば借金の支払いができないという状況になった市や町はいまのところありません。
(海外では国や地方自治体が借金を期限どおり返済できなくなったことはあります。これをデフォルトといいます。)
その理由は「最終的には国が面倒を見てくれる」ので銀行は貸し渋りをすることもなく、資金が供給するからと考えられます。
日本の市や町の場合には、財政の悪化度合いを示す数値がある程度以上悪くなったら、国が支援することになります。
その代わり県や国が承認できる財政再建のための計画を作成することが条件となります。
そしてその計画に基づき、県や国の監視の下財政再建を図ることになります。
個人の場合でいえば、大金持ちの放蕩息子が借金を背負った場合(金貸しは親が金持ちなのでいくらでも貸す)、息子に自由に金を使わせる権限を奪い(カードを取り上げて小遣い制にするとか)、監視をつけて働かせるなど、自分の管理下におくことにより、借金を返済させるようなものでしょうか。
(財政破綻した市が放蕩息子だといっているわけではありませんので念のため)
夕張市の財政破綻により地方自治体の財政健全化に関する法律が変わったのですが、「借金を免除してもらうのではなく、財政再建のための計画を立てて健全化を図る」という基本的な考え方は変わっていません。
それでは新しい法律により、何が変わったのでしょうか。次回はその点を解説しようと思います。
第二回 財政健全化法前の法律 ~ 市が財政破綻したらどうなるか<2009年4月23日投稿>
新しい財政健全化法以前は「地方財政再建促進特別措置法」(以下「再建法」と略します。)という法律がありました。
「民事再生法に基づく再生手続開始の申立て」することを一般的に「倒産する」というように、
「再建法に基づく財政再建団体の申請」をすることを、「市が財政破綻する」といっています。
夕張市も2006年に申請することで、財政再建団体となっています。
財政再建団体になるとどうなるのか。前回の大金持ちの息子の話の話と対比しながらごく簡単にまとめてみました。
わかりやすさのため、たとえ話の方は青色の文字で記載しています。また市町村の場合ということでまとめています。
(以下黒字の部分についてはWikipediaの記事を参考として書かせて頂きました。)
○どういうときに財政再建団体になるか?
実質収支比率*1(その年の赤字の標準財政規模*2に対する割合)の赤字が20%を超えた場合。
このような状態になると借金が自由にできなくなるため、財政再建団体の申請をせざるを得なくなります。
たとえて言えば、大金持ちの息子の家計が非常に悪化した状態。親が定期的に銀行の残高などをチェックしているので、ある程度悪化すると銀行に手を回してお金を息子が借りられないようにするので、息子は親に泣きつかざるをえなくなるというようなものです。
*1実質収支比率:実質収支の標準財政規模に対する割合のこと。
実質収支とはその年度の歳入と歳出の差から翌年に繰り越すべき財源を差し引いた額のこと。
個人にたとえるならば、その年の赤字の基本給に対する割合とでもいいましょうか。
「翌年に繰り越すべき財源」とは例えば、子どもの学費に充てるために親からお金をもらったけど学費は翌年に払った場合の「学費に充てるためのお金」のようなもの。
*2標準財政規模: 自治体が通常水準の行政活動を行ううえで必要な一般財源の量。 (通常の状態で収入されるであろう一般財源という説明もあり。)
個人に例えるならば、家族手当や住宅手当などを含んだ正社員の経常的な給与にあたるでしょう。
○どうやって財政再建をするのか?
財政再建団体に指定されたら、県の指導に基づき「財政再建計画」を作成します。それにより借金ができるようになります。
親に泣きついた息子は、「今後はこのようにすることで家計を立て直します」ということを親に約束することを条件に、お金を借りられることになります。
○財政再建団体になるとどうなるか ?
財政再建団体になると、予算の策定をはじめとした財政運営を県の管理の下、進めていくことになります。
実質的に自治権を取り上げられたような状態になります。財政の再建が優先されるため、税率や手数料などの負担は最大に、市民サービスは法の許す限り最小になり、市民生活への影響は多大なものになります。
財政破綻をした夕張市が大変な状態になっていることはニュースなどでみなさんもお聞きだろうと思います。
金持ちの息子の例でいえば、お金の使途についていちいち親の目が入ることになり「外食禁止」「11時消灯」「自動車売却」「残業推奨」など非常に厳しい条件をつけられたなかで生活をすることとなります。
このような「再建法」による財政再建の仕組みですが、夕張市の財政破綻をきっかけに見直されることとなりました。
次回は、なぜ再建法が見直されるようになったか、その理由について説明します。
第3回 以前の法律(再建法)の問題点<2009年4月26日投稿>
再建法は夕張市の財政破綻により見直され、財政健全化法が制定されたわけですが、実は夕張以前から問題点は指摘されていました。
ひとつは、普通会計以外の第三セクターや土地開発公社などの赤字が見えないこと。
夕張の前に財政再建団体*1であった赤池町は土地開発公社の赤字を取り込んだため、財政再建団体となりました。
逆に3セクなどの膿(うみ)を出す決意をしなければ、膿がたまったままどんどん財政が悪化することとなります。
*1正確には「準用財政再建団体」、再建法は本来「昭和29年のみ」の臨時の法律であり、この規定を昭和29年以外に準用(似たような場合に適用するという意味)するため、”準用”財政再建団体という名称になりますが、簡便のため「財政再建団体」といいます。
例の大金持ちの息子の例えを使えば、「自分が設立している会社の連帯保証」を含めず、家計の状況を評価しているようなものでしょうか。
もうひとつは、財政再建団体となるかどうかの判断の指標となる「実質収支比率」が操作可能なこと。
例えば「借金をすると実質収支がよくなる」ので、財政再建団体となることをさけるために借金をするというわけのわからないことがおこります。
夕張の場合には一時借入金を他の会計と行ったり来たりさせることで、この数値をごまかしていたようです。
例えば、総務省の決算カードをみると平成13年から16年まで実質収支比率は0.0%でした。
ところが、平成17年には突如37.8%の赤字、平成18年は791.1%(!)、平成19年は730%の巨額の赤字を計上しています。
これは既に財政破綻していたものをごまかしていたものを平成17年度以降に一気に吐き出したことにより生じたものです。
大金持ちの息子でいえば、銀行の残高を保つためにサラ金から借金をして、家計が赤字でないように見せかけていたようなものです。
平成16年は夕張市の歳入の約半分(100億円弱)が”諸収入*2”というものでした。
*2諸収入は、「それ以外の収入」として、延滞金、預金や貸付の利子、受託料収入など雑多なものです。一時借入金も含まれます。
収入500万の家計に例えれば、一年に1000万円サラ金を借りて収支を均衡させていたようなものです。
後からみれば誰の目にも破綻しているといえそうですが、法律上財政は破綻していないとされていたのです。
また再建法では、早期に是正を促していく機能がないことが指摘されていました。
再建法により現在財政再建団体に指定されているのは夕張市ただひとつです。
ということは1800以上ある自治体で最も財政が悪化した自治体にしか適用されていないということでもあり、そこに至るまでなんら是正がなされないということになります。
そのため事態が非常に深刻化してからの再建となり、市民生活に与える影響も甚大なものになってしまうというのです。
このような問題に対し、新しい法律「地方財政の健全化に関する法律」では
①公営企業を含めた財政情報の開示
②フロー(実質収支)以外にストック(借金の負担など)を含めた評価指標の開示
③イエローカードの基準を定めることで早期発見、早期健全化を図る
ことを定めました。
(参考URL http://www.soumu.go.jp/iken/zaisei/kenzenka/index.html)
第四回 新しい財政健全化法について<2009年4月29日投稿>
今回は、新しい法律による評価指標について説明します。
評価指標自体の算定方法は、実務上はかなり細かいので厳密に知りたい方は次のHPの「健全化法関係資料」の「基本資料」から「財政指標(pdf)」を見ていただければと思います。http://www.soumu.go.jp/iken/zaisei/kenzenka/index.html
このページではそれぞれの指標の趣旨とイメージ、そのほかコメントを記しました。
財政指標は4つ+α。①実質赤字比率 ②連結実質赤字比率 ③実質公債費比率 ④将来負担比率
と公営事業の資金不足比率。です。
①実質赤字比率
・家計でいえばこれまでの赤字の累積のその年の給与対する割合と考えればよいでしょう。
②連結実質赤字比率
・特別会計を含めた実質赤字比率。
・家計でいえば、自分の事業を会社としている場合の会社の赤字を含んだものというイメージでしょうか。
・「連結」というと関係するところが全て含まれるというイメージがありますが、
含まれるのは各種特別会計と公営企業までで、一部事務組合や第三セクターなどは含まれません。
・日野市でいうと、一般会計と特別会計(国民健康保険、区画整理、下水道、介護保険、後期高齢者医療、受託水道)
及び公益企業である日野市立病院が含まれます。
・含まれないのは、土地開発公社、企業公社、一部事務組合*1です。
*1一部事務組合
複数の市町村がまとまって一部の行政サービス(例えば病院や火葬場、ゴミ処理場)を行うために組織する組合。日野市の場合は競輪、競艇、斎場、後期高齢者医療など7つの一部事務組合に加盟しています。
一部事務組合で建物を建てる場合、事務組合で借金をしますが、利用者負担でまかなえない分は基本的には組合に加盟する市からの繰入金などでまかなうことになるため、将来の市の負担として上記③④の指標に反映されることとなります。
③実質公債費比率
・普通会計が負担する借金の返済(利子と元本)の標準財政規模に対する割合。
・家計で言えばローンの支払額(主宰する会社の借金等含む)の、その年の給与に対する割合と考えればよいでしょう。
・実質公債費比率の算定では、②で計算の対象となった特別会計と公営企業に加え、一部事務組合分も対象となっています。
④将来負担比率
・一般会計が将来負担すべき実質的な負債の標準財政規模に対する割合。
将来負担すべき実質的な債務には、③で計算の対象となった特別会計や公営企業、一部事務組合の借り入れに加え、債務負担行為*2による支出予定額、第三セクターの損失補償額なども含まれます。
*2債務負担行為
債務負担行為とは、区画整理など事業に長期間を要するものの事業費の確保に備える等のために、翌年以降の支出の予定額と期間をあらかじめ定めておくものです。
これは将来とはいえお金が出て行くことを予告するものになるので、議会の承認が必要です。
家計でいえば、自動車の買換や住宅の購入、子どもの将来の学費を予定しておくようなものでしょうか。
一言で債務負担行為といっても、割賦払いのようなもの(クレジットカードの30回払いのようなもの)や債務保証(子供の借金の保証のようなもの)、単に将来の事業の予定(子供の学費の予定)などいろいろな性質のものがあります。
・家計で言えば、ローンの残高の年収に対する割合といえるでしょう。(貯金がある場合には相殺)
ただし主宰する会社の借金や友人との共同事業による借金負担分、連帯保証の保証債務なども含むような感じです。
・①~③がフロー指標であったのに対し、この指標だけが唯一ストック指標です。
・そもそも公会計についてはフローの情報しかなく、ストック情報の整備がなされていないこと(企業でいえばバランスシートを作る基準があやふやな状態)、将来負担の中には確実に払うべきものと、未確定のもの、債務保証のような偶発的なものが混じっていること。
などから、課題が多い指標といわれているようです。
+α 資金不足比率
・地方公営企業(下水道や病院など)の実質赤字比率(①と基本的には同じ)。
これは、個別の公営企業ごとに求める(合計しない)もののようです。
第五回 新しい財政健全化法について(続き)<2009年4月29日投稿>
今回は第四回で紹介した指標についての判断基準です。
前回あげた①~④の指標のうちのうちひとつでも財政健全化基準(いわゆるイエローカードの基準)を超えると、自主的な改善努力による財政健全化を求められます。 このように早期に財政悪化状態を見つけ出し、是正を図ろうというのが新しい財政健全化法の一つのポイントです。
それでは、その指標はどれぐらいかということですが、市町村の財政規模によって幅があります。
①は11.25~15%
②は16.25~25%
③は25%
④は350%
αは20% となっています。
また①~③については財政再生基準を超えると国などの関与による確実な再生が行われる段階となります。
①は20%(旧財政再建法どおり)
②は30%
③は35%
④はありません。(この指標がいくら高くても財政再建団体にはならない)
αについても④と同様の扱いとなっています。
ところで、新しい財政再建法は夕張市の財政破綻を踏まえたものであるということですが、この指標があれば夕張の財政状況を見抜くことはできたのでしょうか?
財政破綻前の平成15年の夕張の決算カードを見ても、残念ながら普通会計以外の指標が不明なので、チェックできたかどうかは判断できません。
この点のチェックが指標や基準などの作成の際に行われたか知りたいところです。
第六回 新しい財政再建法の影響<2009年5月4日>
この制度は始まったばかりであり、行政活動への影響は未知数です。
都下の自治体ではイエローカードにかかりそうなところはなさそうなので、直接的にどうというより、議会や市民の参画のひとつのきっかけになればと思っています。
(といいつつ、個々の健全化指標自体のチェックはしづらいと感じますが。)
財政健全化法に関する課題として、類書を斜め読みすると以下のことが指摘されているようです。
○公共サービス低下の懸念
・公営企業ごとに資金不足をチェックすると、公共が事業から撤退してしまい、サービスの供給者がいなくなるのではないか。
→これに対しては、事業の性質上計画的に出てくる赤字でやむをえないものを、「解消可能資金不足額」として資金不足額に算入しないことにするという配慮がなされています。
が、この配慮に対してもう一方からは「解消可能資金不足額」に恣意性が入る余地があり、無用な延命になるのではないかという懸念を表明されています。
うーん、難しい。
○公会計制度との関連
・フローだけではなくストック情報もというが、公会計自体がストック情報を扱うように整備されていない。
→第4回でのコメントのように、将来負担比率にはいろいろな性質の債務が一緒くたになっているという問題があります。
実は偶発的な債務や資産の評価損は企業会計基準においても議論があるところであり、もともと難しい分野です。
だからといってそんな指標は意味がないというのではなく、さらによい指標になるようブラッシュアップしていくべきなのだろうと思います。
(総務省の都合でしょっちゅう変わるようでは問題ですが。)
○そもそも論
・財政悪化の原因は国の政策に負うところが多いのになぜ地方が責任を取るのか。
・国で画一的な基準を決め、国が監視・管理をするのは地方自治の原則に反する。
というところかと思います。
個人的には、イエローカードを食らうボーダーラインの設定が、国の監視の目が行き届く範囲の数に収まるように設定されるようなので、かなり財政状況が悪化している自治体のみがエローカード(財政健全化団体)となると思われます。
しかしそのような背景を知らない市民から見れば「基準値を超えていない=財政は健全」と思ってしまわないか。
そのために、行政健全化の努力がそがれてしまわないかという点を心配します。
総務省の研究会では破綻法制(債務の減免)などについても議論されたようですが、財政健全化法では債務の減免が行われることは前提としていません。
話は民間の倒産に戻りますが、倒産(破産)の意義付けとしては以下のように言われているようです。
1.個人の再生。事業の失敗など一度の失敗により一生を棒に振るのではなく、債務を軽くして再チャレンジできるようにすること。
2.事業価値の保全。債権者が借金のかたに、その会社の資産を個別に換金してしまうと、土地や建物、機械、社員が一体となって経済的な価値を有していたものが、価値が毀損してしまい、社会的な損失が生じることから、それを防止するため。
3.不適切な経営者の退場。倒産により社会の資源を有効に使えない経営者の退場を促し、社会全体としての経営資源の有効活用に役立てるため。
夕張市のケースを個人に当てはめると、一生かかっても返しきれない借金を背負って食べるものも減らして、寝る時間も減らして働かされているように見えます。
個人であれば破産をして、債務の免除を図ることでしょう。自治体財政は家計と似ている*1ということを考えると、いったん破産して再出発をするのがよいように思います。
(とはいえ、先進国ではアメリカ以外に自治体の破産を想定している国はありませんが。)
債務の減免が許されなかった理由を私なりに考えてみました。(あくまで個人的な見解にすぎません。)
債務の減免には2つのやり方があると思います。
ひとつは貸し手責任ということで、金融機関に債務の減免を求めること。もうひとつは国が面倒を見ること。
前者(金融機関が負担)を仮に実施したとすると、「次はあの町か」ということになり、財政状態の悪い町が資金繰りができない又は、金利がやたらに高くなってしまう。というようなことが起こると想定されます。
おそらく大都市の地方債や国債の信頼にまで波及することが予想されます。
そうなると債券の価格が下がって破綻する銀行が出るかもしれません。
低金利で何とか持っていた国の財政が破綻することもあるでしょう。
おそらくそのようなリスクは国としては取れないと思われます。
それでは後者(国が負担)の場合はどうでしょうか。そのようにした場合の問題点として、モラルハザードがあります。
最後には面倒を見てくれると思えば、苦しい思いをして財政をよくしようという試みは萎えてしまいます。
また自主的な再建をあきらめて国になきつく町も相当出てくるのではと思われます。
ということでこれも国としてはやりにくいということになります。
という状態の中、夕張市は金融機関にも国にも助けてもらえず、体力を失いながらも返せない借金を返そうとしているというような状態に陥っているようにも見えます。 あるいはこのような状況が全国に報道されることで「財政が悪くなるとこうなるんだぞ」と国が脅しをかけているのかもしれませんが。
財政健全化法の本格的な運用は平成21年度からです。関連する動きについては、目先のセンセーショナルなものに惑わされず、じっくり注視していきたいと思います。
*1自治体の財政は家計に似ている。: 営利企業は利益の最大化を主な目的としています。
一方個人(家計)は家族の幸福の最大化を目的としているといえるでしょう。
それでは自治体はどうか?となると考え方としては家計の方に近いのではないかと、つまり自治体の構成員(企業を含む)の効用(平たく言えば幸せ度合い)を最大化することを主な目的としているといえるのではないかと。 という意味でのこのフレーズです。
ところで、利益の最大化にしても、幸福の最大化にしても、長期的な視点と短期的な視点があります。四半期ごとの利益の最大化が長期的な利益の最大化に直接結びつかないように、短期的な幸福の最大化と長期的な幸福の最大化は違います。
家計ではできる長期的な幸福の考え方が、多人数多様な利害関係者から成り立つ自治体(国全体がそうだともいえよう)においてはできていないのではないかと。市の財政を自分の家計のように思って考える人を少しでも増えればよいなと思います。
その後の関連記事
ブックレビュー スラスラわかる! 自治体財政健全化法のしくみ<2009年4月27日投稿>
月刊「地方財務」編集局編 ぎょうせい 2007年12月発行
図書館で借りてきました。 コラムを書くにはやっぱり本を参照するのがよいかなということで、借りたものです。
自治体の職員(財政関係以外)向けです。
健全化法ができた経緯がわかりやすく書いてありますので、「財政健全化法ってなんだろう?」と思っている人にお勧め。
中盤以降は、各指標の具体的な計算や健全化計画などの手続きの説明になっていくので、行政職員や財政をある程度知っている人でないと読みにくいかも。
この本の初版の出版段階では、財政健全化の4つの指標は示されているものの、どこまでいったらイエローカードでどこまでいったらレッドカードかの具体的な数値が決まっていませんでした。それだけに、その数値がどのへんに設定されるのかという推察がされており、非常に興味深い。
イエローカード状態になると「各自治体が策定した財政健全化計画を監視」する必要が生じるため、あまりに多くの市町村がこれに該当すると監視するのは大変になるため、ある程度の数に収まるように設定されるであろうことが書かれています。
ということなので、財政健全化の基準というのは絶対的なものではなく、あくまで相対的なものであり、総務省や県が監視しできる範囲で財政の悪いほうからある程度の自治体が指定される。 というような性質を持つものであることが推察されます。
つまり財政健全化の指標が基準を超えないということは、必ずしも財政が健全であることを意味しないということであり、(超えると健全ではないとはいえる。)それについては市民が常に注視していなければならないということだと思います。
夕張市財政再建計画など<2009年6月22日投稿>
夕張市の財政再建情報です。 http://www.city.yubari.lg.jp/contents/municipal/rebuilding/index.html
いろいろデータがありますが、一番下の「財政再建計画について」の古い日付のものから順に読むとよいでしょう。
財政再建計画の変更計画書は一番最後のページでどこが変わったかを見ればよいと思います。
財政再建計画の内容を見るとかなり恐ろしい。
返すべき負債が360億円、これを標準財政規模45億円、市税10億円の市が返すために、最低の住民サービスを最高の住民負担で行い、借金を返している状況です。
一方、850兆円ともいわれる借金を、88兆円の予算規模、税収44兆円である日本国の財政は夕張市と比べて格段によいとはいえない状況です。
夕張市の状況が日本の未来の姿にならないよう一人ひとりが政治や財政をチェックする視線を持たないといけないと思います。
そんな中 東京都から若い職員2名が夕張に派遣されています。
http://www.soumu.metro.tokyo.jp/03jinji/yuubari/index.htm
大変なこちらのほうが状況がよりリアルに伝わります。その中での若い職員の報告にはさわやかな感動すら覚えます。
白書作りとは関係なくお勧めです。
⇒註:このとき派遣された鈴木さんがその後都庁職員の職を捨てて夕張市長に立候補、当選しています。
早期健全化団体21市町村<2009年9月21日投稿>
読売新聞社調査によると、全国21市町村が早期健全化団体に指定されることが明らかになったとのこと。
早期健全化団体とは地方自治体財政健全化法に基づき指定されるもので、「実質収支比率」(これまでの赤字の累積)や「実質公債比率」(借金の元利払い負担の重さをあらわす)などが一定の基準を超えると指定される。
指定されると財政健全化計画の作成が義務付けられ、国の監視が厳しくなります。
この記事では、早期健全化団体になりそうな自治体のリストがありますが、このブログで取り上げられた自治体も多く含まれています。
双葉町 : 決算が議会に認定されなかったニュース
泉佐野市:財政健全化団体へ
御所市:財政健全化団体へ
財政非常事態宣言をした自治体:泉佐野市、王滝村、御所市、香美町
ちなみに鳥取県の日野町も含まれています。
朝日新聞10/13記事
「財政悪化を警告するイエローカードといえる「早期健全化団体」に、双葉町が今月認定された。全国で21市町村あるが、原子力発電所のある自治体は双葉町だけ。原発マネーと呼ばれる豊かな税収と交付金に恵まれたはずの町が、なぜこうなったのか。」
悪化の原因として、この記事では
・ 90年代に下水道や保健福祉施設のために多額の借金をしたこと。
・ 巨大な施設を作ったため、維持管理費が財政を圧迫していること。
・ 原発が所在している町の中で原子炉の数が少ない
・ 事務所が町にないため、他の原発所在町に比べ法人町民税が少ない
と指摘しています。
また以前固定資産税の記事でも紹介したように、原子炉からの固定資産税は多額であるものの、年の経過に伴い税収が減少していくという現象が起こります。
突然多額の税収があれば、市民や議会からの「あれもこれも」という要望に応えないことは難しいと思いますが、それが年々減っていった際に昔に戻れるかというとなかなか難しいし、箱物を作ると維持管理費がかかる。
個人でも同じですが、急にお金持ちになることが必ずしもよいこととはいえないようです。
双葉町では原子炉の増設を東電に求めているとのことで、「原発の次も原発頼み」という状況。財政は豊かになったけれども地域振興・産業振興には結びついていないようです。
⇒ その挙句に3.11ですから、本当に考えさせられます。