非常に複雑といわれる地方交付税の算定根拠
このコラムでは、算定根拠について簡単に解説すると共に、市の施策との関係について分析します。
なおこのコラムは2009年の10月12日から19日までにブログにアップしたものです。
1.基準財政需要額は誰が決めているか。
・総務省です。
2.決めたものは何に書かれているのか。
・概要はこちらに(総務省HP)。
・法令としては地方交付税法及び普通交付税に関する省令
に書いてあります。
3.何によって決まるのか。
基準財政需要額の算定式を数式で表すと
Σ{(単位費用)×(測定単位)×(補正係数)}となります。
例えば、道路ならば
(道路の長さあたりの費用)×(道路の長さ)×(補正係数)
で道路に関わる金額がでます。
同様に、消防、公園 等々を算出し合計したものが基準財政需要額になります。
4.どのような項目があるか
まずはどういう項目があり、何に比例するのかあげてみましょう。
・消防費 : 人口に比例
・道路 : 道路の面積と延長に比例
(面積比例費用)×(面積)+(延長比例費用)×(延長)
という計算です。○○に比例とあったら同様の計算です。
・港湾 : 施設の延長に比例
・都市計画: 人口(都市計画区域内)に比例
・公園 :人口と公園面積に比例
・下水道 :人口に比例
・その他土木費:人口に比例
・小学校 :生徒数、学級数、学校数に比例
・中学校 :同上
・高校 :(市立の)教員数、生徒数に比例
・その他教育:人口、幼稚園児数に比例
・生活保護:人口に比例
・社会福祉:同上
・保健衛生:同上
・高齢者福祉:65歳以上、75歳以上人口に比例
・清掃費:人口に比例
・農業費:農家数に比例
・林業水産業:従業者数に比例
・商工費:人口に比例
・徴税費:世帯数に比例
・住民基本台帳:世帯数、戸籍数に比例
・地域振興費 : 人口に比例
・地方再生費 :人口、耕地と林野面積に比例
・地域雇用費 :人口
・公債費 : 一定の公債費の残高に比例
一定の公債費:減税補てん債・臨時財政対策債。合併特例債など。
ここまでの記述でもわかるように、おおよそ人口に比例する指標が多くなっていますが、道路や港湾などその施設の量に比例するものもあります。特に道路の延長は人口というよりもその市の面積に比例するので、人口一人当たりにすると面積が大きく、人口密度の低い市の方が財政需要が大きいと計算されることになります。
道路については、実際に道路の量が多ければそれだけ行政需要が多くなるのは間違いがないですが、必要な道路については必要なだけお金が入るということになれば、本当に役立つのかとかいったことを考えず整備しがち、というマイナス面も考えられます。
人口一人当たりの道路の延長は東京の1.86m、大阪の2.1mに対し、全国平均は9.3m、最大は島根県の24mと大きな差があります。
また生活保護や社会福祉費(日野市では児童福祉と生活保護以外の福祉ですが、交付税の上では老人福祉と生活保護以外の福祉のようです。)は人口に単純に比例しており、実際の福祉の需要やサービスレベルとは関係なく定められているようです。
特に生活保護の割合(平成18年度)は、大阪府の25.1‰(千人あたりの割合)から富山県の2.3‰まで10倍もの差があり、例えば同じ大阪府内では大阪市は40‰を越すなど差があります。
市の負担は総額の1/4とはいえ、保護率の高い市では基準財政需要額にカウントされない行政需要が多額に発生することとなります。
基準財政需要額の算定式で、日野市の場合それぞれの行政需要の項目(道路だとか公園だとか)について計算したものが、事務報告書の財政課のページにあります。
これを見ると、国の基準による需要と実際の費用とのギャップが確認できます。
なお、地方交付税は一般財源なので、比較対象はそれぞれの費用にかかった一般財源と比較しなければなりません。決算書から拾うのは大変なので、財源が明示されている予算書と比較しました。
差があるものを主に取り上げます。
左側が基準で、右側が実際の費用単位は百万円。
消防費 2127→1791 (人口密度が高いので効率よくできるということ?)
道路橋梁 541→349
都市計画 225→784 (区画整理などがあるため?)
下水道 324→1952 (下水道事業への投資と借入返済が続いているため?)
小学校 862→1592
中学校 366→811
その他教育 1106→2763
(投資があるからか、サービス水準が高いからかは不明。)
生活保護 758→710(全国平均よりは低いといことか?)
社会福祉 2388→8689
(サービス水準が高いため?全国基準の定め方がかなり大雑把なためというのもある。)
徴税費 441→258
個別の項目を見ていくとかなりずれがあることがわかる。
これをどう評価すべきかはよくわからない。基準の算定のぶれの問題か、全国基準を当てはめることが適切ではないのか、独自のサービスが多いからなのか。
中途半端な結論で申し訳なし。
5.補正係数
今日は補正係数について
以前の回で、基準財政需要額=Σ(単位費用×測定単位×補正係数)と説明した補正係数です。
補正係数とは例えば同じ道路の管理費用でも、積雪が多い地域では管理費が高くなるとか、そういったことを補正するための係数です。
係数そのものは余りにも複雑なので、紹介しません(できません。)が、どういう補正があってどういう考え方なのかを簡単に説明します。
○種別補正
・道路や港湾の種別により補正。なぜか国道や県道は増加方向で補正。
○段階補正
・一般に人口が多くなるほど、スケールメリットがでることから、人口が多くなるほど単位費用が少なくなるように補正するもの。
○密度補正
・人口密度が低いほど、費用がかかることを補正するもの。
・保育園の入所人員が多いほど、基準需要額が増えるような補正係数もここに組み入れられているようです。
○態様補正
・生活費が高い地域(東京は都心に近いほど高い)が高くなるように補正(給与を高くしなければならない)
・都市化の度合い(ごみ処理などは高く補正。農林関係は低く補正)
・中核市や特例市、保健所設置市は高くなるよう補正(業務が県から移譲されている)
・投資的経費の必要度合い(道路の未整備延長などを考慮するらしいが・・・・)
○寒冷地補正
・寒かったり雪が積もった入りするところを増やす
○数値急増(急減)補正
・人口などが急増又は急減しているところを増やす
○合併補正
・合併したところを増やす
○財政力補正
・地方債の元利償還金の割合が多いところを増やす
それぞれについては、確かにそれなりに理屈があるのですが、具体的な数値は毎年変わり、計算式も複雑なので、市の財政担当者にとっては予見可能性が低くなっています。
例えば平成21年度日野市は予算の段階では交付税が6千万円もらえる予定でしたが、結局ふたを開けてみればもらえないということになっています。