○決算の概要
日野市立病院のHPがリニューアルされて、決算書が載るようになりました。
が、病院の決算書はわかりにくい。
例えば3ページ目の事業会計決算報告書には医業収益として57.17億円とありますが、数ページ後の損益計算書では57.06億円と微妙に違う数字があり、その違いがなんなのかさっぱりわからない。でも明細書をみると決算報告書の数字と一致しているようなので、こちらのほうの数字を使います。
病院の会計の考え方は
医業収支:病院の事業そのものの収支、費用には減価償却費も入っています。
医業外収支:資金収支や病院運営への国や都、市からの補助が含まれます。
上記二つに過年度の調整を含めたものを収益的 収入と支出とし、
資本的収入 : 一般会計からの出資金や借入金
資本的支出 : 固定資産の購入や借入金の返済、貸付金
を別建としています。
企業会計でいえば、収益的収支が経常利益又は当年利益、
資本的収支はキャッシュフロー計算書の投資CFと財務CF部分にあたるといえるでしょう。またバランスシートもあるようですが、資本の考え方が一般企業のそれとかなり違うようです。
○決算の詳細
平成21年度の決算の詳細です
医業収入
入院34.87億円 延べ82048人 一人当たり42,500円
外来20.27億円 延べ199,987人 一人当たり10,136円
その他1.91億円
(特別室7800万、集団検診・予防接種6400万、個人検診など3000万など)
合計57.06億円
医業支出
給与32.91億円
(医師10.12億円 37~40名。看護師13.14億円 193~7名。
医療技術員3.60億円 37~41名。事務員1.85億円 21名。
労務員940万円 1名)
この他法定福利費3.07億円、退職金1.03億円
材料費17.38億円
(薬品10.41億円、診療材料6.41億円、給食材料0.53億円、
医療消耗・備品287万円)
経費14.82億円
(主なものは 委託料8.86億円(医療事務など)、賃貸料2.38億円(装置など)、
水光熱費1.50億円
修繕費0.74億円、消耗品0.40億円、保険料0.35億円、手数料0.23億円)
減価償却費4.71億円(建物4.07億円、器械備品0.58億円、構築物560万円)
資産減耗158万円
研究研修費 1566万円(図書525万円、雑費(学会参加費など)670万円)
合計69.99億円
~ 医業収益は-12.93億円
減価償却を考えると資金的には8億円強マイナス
医業外収益
負担金交付金 5.13億円 市からの負担金と思われるが。決算書からは読めない。
都補助金 3.50億円(市町村公立病院運営費補助金 ほか)
国補助金 0.03億円(医師臨床研修補助金) ~ 実質的に国からの補助はない。
その他(社宅使用料、託児料など) 0.77億円
他会計補助金 0.21億円(市立病院改革プラン実行環境整備補助金)
合計9.64億円
医業外費用
支払利息 1.94億円
消費税 0.07億円
合計 2.01億円
医業によるマイナスを都や市からの補助により賄っている構造になっている。
資本的収支にあげられている項目としては
収入
都の補助金 0.69億円 ~ 借入金返済に対する補助
一般会計からの出資金 1.97億円 ~ 借入金返済と固定資産購入への補助
他会計補助金 0.90億円 市立病院改革プラン実行環境整備補助金
ちなみに平成21年度の一般会計の決算には先ほどの0.21億円と合計した金額が計上されている。
他会計からの長期借入金 一般会計からの貸付6億円
支出
固定資産の購入 0.93億円
主なものは富士通の病理システムDr.ヘルパー 1969万円。
GEの超音波診断装置 1785万円
日本アルコンの白内障手術装置 1300万円
助産師や看護師への貸付 709万円
借金の返済 3.48億円
貸借対照表
資産は116.6億円
そのうち病院の建物89.2億円 器械備品14.1億円など有形固定資産が90%以上
流動資産は現金は約8700万円、未集金が9.66億円と多い(診療報酬が基金から払い込まれるのに時間があるためと思われる。)
負債は12.04億円
先ほど紹介した一般会計からの借入金6億円と、未払い金5.71億円がほとんどを占める。 ただし、企業債92.3億円がなぜか資本の部にはいっているので、これを合計すると104.3億円
資本は104.6億円
だが先ほどの企業債を除くと12.3億円。
・資本金58.25億円
・補助金など18.02億円
・欠損金がマイナス64億円。
市からの補助がないと借金も返せないし、実質的な債務超過に陥るということがわかります。
○平成20年度決算との比較
平成20年度の大きな出来事として6月に小児科医が退職し、安全のため産婦人科の分娩が12月まで休止となったことがあります。このため、入院患者数は前年の延べ73,600人から69,000人に6%減となりました。
このような状況を受け2月に改革プランを作成しました。
平成21年度は6月に元副市長が専門監に就任、その効果か
救急の搬送件数が前年の1125件から約2400件と倍増、病床利用率も63%から74.9%に上がりました。
(搬送件数が少ないということは、救急をお断りしていたということ。公立病院が必要な理由として救急など採算の合わない部門を抱えていることがいわれますが、実はそこに対応できていなかったということ。)
入院数も82000人と前年から約20%増えたようです。
一方平成21年度の特殊要因として新型インフルエンザがあり、そのために特別棟を借り上げたため賃借料が増えています。
(主な経営指標の変化)
平成20 平成21
外来 18.86万人 20万人
外科 1.9万人 1.6万人
産婦人科 1.0万人 1.3万人
循環器科 3.7千人 1.0万人
(循環器科が増えたことが大きいようです。)
入院 6.9万人 8.2万人
内科 2.1万人 2.4万人
外科 1.6万人 1.4万人
循環器科 3.3千人 9.1千人
産婦人科 2.2千人 4.5千人
小児科 300人 3.3千人 (外科が大きく減った以外は、増えたか前年並み)
医業収益 48.7億円 57.1億円 (約9億円の伸び)
医業費用 66.6億円 70.0億円
医業外収入 12.2億円 9.6億円
医業収支改善の分、補助金が減っている。が、資本的収入として市からの借入金が6億円あり、市から支払われている金額は実は昨年度より増えている。
○予算と決算との対比
平成22年度(予算)の市立病院の収支は
医業収益 66.67億円(昨年決算57.16億円)
うち入院 40.95億円 外来23.05億円、その他2.67億円
医業費用 74.54億円(昨年決算70.0億円)
うち給与 34.86億円 材料費18.31億円 経費16.32億円、減価償却費4.77億円
医療外収益 9.85億円
うち都補助金 3.69億円、市からの負担金4.95億円、駐車場使用料など1.18億円
医業外費用 1.97億円(利子1.86億円)
なお市の一般会計からの支出としてこの他に借金の返済のための2.05億円があります。
平成21年度より、収支ベースで約13億円の赤字から8億円程度の赤字に改善することがわかります。
業務予定量を見ると 入院9.3万人(+1.1万人)、外来20万人(大体同じ)となり入院を増やすことで収支を改善しようとしていることがわかります。
では、平成22年度は平成21年度より経営がよくなるのか。といえば、
平成21年度予算をみると医療収益が64.26億円となっており、予算ベースで見ると+2億円程度。
さかのぼって平成20年度予算を見ると63.2億円となっており、
要は「毎年医療収支の予算を立てるが主に入院患者数が目標に届かないため、予算より大幅に収入が少なくなってしまう。」という状況がわかります。
それが何に影響するかというと、例えば平成21年度は当初予算で病院費7.09億円、決算14.2億円。
平成20年度は予算で6.93億円、決算10.8億円。と追加で市が負担していることがわかります。
このように楽観的でいつも守れない予算を立て、困ったら市に追加のお金をお願いするというサイクルは問題なのではないかと思います。