経常収支比率は財政の状態を見るのに重要な指標ですが、なかなかとっつきにくい指標でもあります。
この項では、
第1回 経常収支比率とは<2009年7月5日投稿>
経常収支比率は、財政の弾力性を知る指数として非常に重要かつ有用な指標です。
経常収支比率は
経常経費充当一般財源等/経常一般財源等
で計算されます。
これではよくわからないですね。
まずは分母のほうからみていきましょう。
経常一般財源=「経常」「一般財源」 に分解されます。
「一般財源」というのは自治体の意思で使い道を決められる財源をいいます。
反対語は「特定財源」で例えば特定の事業のための国からの補助金などがこれにあたります。
家計でいえば、給料が一般財源、会社から支給されている定期代が特定財源にあたるものです。
「経常」というのは臨時的でないものという意味です。
例えば家計でいえば給料が経常的なもの、家などを売ったときの収入が経常的でないものといえるでしょう。
分子の方は、経常経費充当一般財源=「経常経費」「充当」「一般財源」と分解できます。
「経常経費」のうち「一般財源」が「充当」されている部分の金額 ということになります。
「経常経費」とは毎年かかる経費。例えば、市役所の職員の人件費や生活保護費などがこれに当たります。
例えば生活保護費の場合は国の負担する部分が3/4あるので、その部分を除いた部分が「経常経費充当一般財源」に該当する部分となります。
家計でいえば、家賃が「経常経費」にあたるもの、会社から家賃補助が出ている場合は家賃補助を引いた部分が「経常経費充当一般財源」になります。
まとめると、経常収支比率は毎年入ってくるお金のうち、毎年でるお金がどれぐらい占めているかを示す割合ということになります。
この割合が高いと毎年の収入のほとんどが決まったことに消費されていることになります。
このような状態を「財政が硬直化している」といいます。
経常収支比率は80%以下が望ましいとされていますが、その理由としては将来への投資的費用を確保するためといわれています。
一方、基盤が整備されつつある都市ではそれほど投資的な費用を確保する必要がないこと、市民サービスをよくすれば経常収支比率は高まるので、あえて80%以下を目指す必要があるのかという議論もあるようです。
現状では投資的な費用の確保というよりも、経済的な変動への備えを持つことや独自の施策の実現のための余力を持つという意味のほうが大きいと思われます。
実は日野市のこれまでの財政白書では経常収支比率をあまり紹介してきませんでした。
理由の一つは筆者自身がよく理解していなかったこと、もう一つはある施策が経常収支比率とどういう関係になるか見えないことです。
経常収支比率は非常に便利な指標なのですが、いろいろな情報が総合され加工された指標なので、予算書・決算書とのつながりが見えず、なにかベールの向こうにあるような感じがするのです。
とはいえ、わかりにくいから取り上げないという態度はいかがなものかとも思いますので、具体的な事業や施策と経常収支比率の関係が見えるようになることを目標に、経常収支比率の中身を明らかにしていきたいと思います。
第2回 経常収支比率の中身<2009年7月16日投稿>
前回 経常収支比率= 経常経費充当一般財源/経常一般財源 となることをお話しました。
分子も分母も「財源」となっているのがややこしいところですが、前回の話を表でまとめると下のようになります。
分母については「経常経費」のうち「一般財源」から払われている部分とご理解いただければと。
それではその分母である経常一般財源が何から構成されるか見ていきましょう。
決算カードとつき合わせて、経常一般財源に含まれるものを列挙(一部推定)してみました。
①市税(都市計画税を除く)
②地方譲与税
③利子割・配当割・株式等譲渡所得割交付金
④地方消費税交付金
⑤自動車取得税交付金
⑥地方特例交付金
⑦地方交付税(特別交付税を除く)
⑧交通安全交付金
⑨使用料(道路・河川・公園のみ):推理
⑩財産収入(財産貸付収入):推理
⑪諸収入(預貯金の利子?):推理
○謎
地方税には普通税と目的税があります。
目的税は使途を特定している税のはずなのですが、どういうわけか、都市計画税以外の目的税(事業所税・入湯税)も経常「一般」財源なのだとか。
ちなみに都市計画税は「臨時」一般財源に分類されるらしいです。
経常特定財源ならばまだわかるのですが。
また地方譲与税や自動車取得税交付金といった道路特定財源もなぜか「一般」財源とされています。
ネット上ではなぜそうなっているか?に関する納得できる説明を見つけることはできませんでした。
○留意点
経常というと、安定してある収入というイメージがあり、HPによっては「毎年固定的に収入される」というような説明があったりしますが、経常一般財源には法人市民税が含まれ、金額面では変動要素が多く含まれています。
ですから「経常一般財源=基本給」ではなく、「=賞与や手当てを含む給与」に近いと思われます。
(賞与は景気によりなくなったりするので)
したがって分母が固定的ではないので、毎年の経常収支比率は仮に経常的な支出が一定だとしても変動します。
端的に言えば平成19年度(法人税収絶好調)の経常収支比率と平成20年度(法人税収ぼろぼろ)の経常収支比率とは単純には比較できない。
むしろ毎年固定的に入る「経常的」歳入と考えるのならば法人税割を除いた(逆に都市計画税は加算してもよい気がするが)経常収支比率の方が指標としてはよいのかもしれません。
第3回 具体的な行政のアクションと経常収支比率との関係(道路を作ったら..)<2009年7月18日投稿>
ここから何かが行われたときに経常収支比率がどのように変化するかを分析します。
1.道路を作りました
道路を作る費用は、臨時的な費用であり、そのための補助金や借入金も臨時的なものですので、経常収支比率の分子にも分母にも影響を及ぼしません。
以上、ちゃんちゃん。
・・・・・・ではありません。それは道路を作った年の話。
道路ができた後の年はどうなるかというと、その財源とその市が地方交付税の交付団体かどうかによって違いが出ます。
借入金なしで作った場合
~ その年以後の道路の維持管理のお金は経常収支比率の分子の部分になります。
⇒経常収支比率が増える。(財政状況は悪化)
日野市の場合は道路の維持費は年間約6千万。道路延長は約450kmなので100mぐらい作っても維持修繕費という意味では大きな影響はありません。
(1kmあたり13.3万円ぐらい)
借入金で作った場合場合
~ その年以後の利払い及び元本の返還のための費用が、経常収支比率の分子の部分になりますので、借入金がない場合より大きく経常収支比率を増加させることとなります。
一方、道路特定財源に基づく国などからのお金があります。(平成19年度は自動車重量譲与税、地方道路譲与税、自動車取得税交付金)
これらは道路面積及び道路延長により比例配分されるため、道路が増えればその分これらの金額も増えることになります。
道路特定財源といいながら、実は経常収支比率の分母である「経常一般財源」を構成するため、経常収支比率が減少(つまり改善)する方向に働きます。
ちなみにこれらの金額の合計額は平成19年度で約7.8億円。。。?
ということは、道路を作ると、分母の方の増え方が大きい→経常収支比率がよくなる、ということ?(他の市も同じ割合で道路を増やしていれば増えませんが。)
日野市のように地方交付税の不交付団体はここまでなのですが、多くの市町村は上記に加え地方交付税が交付されています。
地方交付税の元となる基準財政需要額は、道路の面積や小学校の数などに応じて計算されます。
例えば平成20年度の基準財政需要額の計算では道路の延長1kmあたりの単位費用は26.2万円。
つまり道路を1km作るとそれだけいろいろな費用がかかるので、26.2万円分、市に渡すお金を増やしましょうということ。
地方交付税は経常一般財源なので、経常収支比率を改善する方向に動かすことになります。
まとめていうと。
○道路と作ると維持管理費及び公債費(借入金で作った場合)の分 経常収支比率が悪化します。
○一方道路特定財源と地方交付税(交付団体のみ)が増加する分 経常収支比率が改善します。
トータルした場合、経常収支比率がよくなる場合も悪くなる場合も考えられます。
直感としては公債費を入れた場合は悪化し、そうでない場合は±0かやや改善すると思われます。
第4回 具体的な行政のアクションと経常収支比率との関係(学校を作ったら..)<2009年7月21日投稿>
2.学校を建て替えました
1)作る年の話
建物などの投資的な費用は、臨時的なものですので、経常収支比率の分子にも分母にも影響を及ぼしません。
2)その後の年の話(歳出面)
①維持管理費
通常新しい建物になると修繕費などが減るはずですが、新しい設備が入っている場合(例えばクーラーが入るとか)は
水光熱費が増えるケースも考えられるので一概にはいえません。
②公債費
市債の借入なしで作った場合には影響がありませんが、借入を起こした場合には後年の経常収支比率を上げる方向になります。
3)その後の年の話(歳入面)
①地方交付税
地方交付税の算定根拠となる基準財政需要額を構成する要素として、学校の児童・生徒数、教室数、学校数があります。
建て替えても児童や生徒の数が増えるわけでもなく、学校の統廃合をするとむしろ減る方向になります。
(小学校が1校減ると800~900万円ぐらい基準財政需要額が減る)
学校に限らず、建物(福祉施設や文化施設など)を作っても基準財政需要額は変わりません。
(特別交付税で考慮される可能性はありますが、特別交付税は経常一般財源ではない。)
4)道路との違い
費用を支出した年とその年以後の歳出の面では、道路も学校その他の建物も同じ扱いですが、交付税措置や道路特定財源などのため、同じ投資をした場合は道路を作った方が経常収支比率の面では有利になります。実際の歳入の面でも同様です。
交付税措置や特定財源、経常収支比率だけで政策判断をしている市はないとは思いますが、道路だけ特別扱いされていることによるインセンティブ(より道路に費用をかけようという)は何かしらあるのではないかと思われます。
第5回 具体的な行政のアクションと経常収支比率との関係(投資以外の行政サービス)<2009年7月27日投稿>
行政サービスのうちどの部分が経常的な支出と扱われているのかは、予算書・決算書を見てもわかりません。
(財源は予算書をみれば大体わかる:日野市の場合)
ここでは「経常的な支出として扱われる行政サービス」について、経常収支比率を下げる要因と上げる要因を列挙していきます。
○経常収支比率を上げる要因
・予算をつけてサービスを拡充・新規事業開始
→国や都の補助があれば、あがる幅はその分低くなります。
・国や都の補助金が削減された
→充当する一般財源が多くなります。
・補助金の一般財源化
→個別の事業に対する補助金ではなく、その分を財政需要額に含めるものです。
理論的には中立のはずですが、日野市のような不交付団体の場合には、財政需要額が増えても地方交付税が増えるわけではないので、マイナスに働きます。
・人件費が増えた
→人件費はほとんどが経常経費充当一般財源にカウントされます。(つまり経常収支比率は悪化)
○経常収支比率を下げる要因:基本的には上記と逆
・サービスを縮減
・事業の廃止
・経費削減を行った
・補助金が増えた
・人件費が減った
正直言って当たり前のことばかりですが、経常収支比率を上げるためには、結局は必要のある業務に絞込み、同じことをコストがかからずにできるように努力をするといった地道な取り組みをするより他ないといえます。
第6回 二つの経常収支比率<2009年7月28日投稿>
経常収支比率には実は2つ種類があります。
一つは減税補てん債や臨時財政対策債を経常一般財源(つまり分母)に含めないもの
もう一つは含めたもの。
減税補てん債とは、景気対策のための特別減税により税収が減少したことを補てんする借金のこと。
臨時財政対策債とは、地方交付税を交付するために不足する分の1/2をそれぞれの市が(残りの1/2は国が借金で補てん)借金してよいというもの。
(その意味あいなど、詳しいことはこちらのコラム参照)
現在は普通に「経常収支比率」というと臨時財政対策債などを分母に含めたものを指します。
しかしややこしいことに、平成12年までは逆に分母に含めないものを普通の「経常収支比率」と呼んでいました。
この2つの経常収支比率の意味合いと将来への経常収支比率への影響を調べてみましょう。
○そもそもどうして借金が「経常一般財源」なのか?
原則的な考え方からすれば、公債費は「経常」的なものではありませんが、
減税補てん債が「本来であれば地方税収になっていたであろう部分」を補てんするものであること。
臨時財政対策債が「本来であれば地方交付税になっていたであろう部分」を補てんするものであること。
から、それぞれ「地方税」「地方交付税」と同じ性質を持つものと想定したからであろうと思われます。
○後々どうなるのだろう
臨時財政対策債もやっぱり借金ですから返さなければなりません。
臨時財政対策債の利子と元金は地方交付税を計算する際の基準財政需要額に入ります。
具体的にこれによりどのようなことがおこるかというと、
仮に基準財政需要額100億円、基準財政収入額80億円の市があったとします。
仮に臨時財政対策債の返済が各年1億円あるとすると、基準財政需要額が101億円に増えますので、地方交付税も1億円増え、21億円になります。
これを経常収支比率の目でみると、分母である経常一般財源も分子である経常経費充当一般財源も同じ額だけ増えるので、経常収支比率にはほとんど影響を及ぼしません。
一方、基準財政需要額100億円、基準財政収入額120億円の市では、臨時財政対策債の返済により基準財政需要額が101億円に増えても地方交付税額は0のままなので、分子となる借金の返済額だけがカウントされることになり、経常収支は悪化することになります。
ということで
~ 臨時財政対策債は、地方交付税の交付団体の経常収支比率にはほとんど影響を及ぼさない。
不交付団体は比率が悪化する方向で働く
というのが結論になります。
とはいえ、地方交付税を減らそうという動きの中、現在交付団体であるものが将来とも交付団体である保証はないので、注意が必要かと思います。
経常収支比率は少なくとも分母の方は法人市民税を含むため「経常」という言葉の印象とは違う実態があり、毎年の数値で一喜一憂すべきものではないとは思いますが、現在のところ財政の硬直化を見る指標としてはこれ以上のものはないのが現状なので、実態を理解したうえで、財政白書の方を見ていただければと思います。