地方財政で特に重要な地方交付税と地方債について、猫の国を例に取りながら、わかりやすく解説します。
これについてはさらにマンガ版も試作する等さまざまな試みをしています。
マンガ版についても関係あるところへのリンクを張っています。
1.第一話及びそれに向けて ~地方交付税とは<2009年3月10日投稿>
これまで各市の白書を紹介したり、ニュースを紹介する中でよく出てくる地方交付税の話。
ブログの中でも、解説しなければと書いていたのですが、なかなか機会がありませんでした。
行政が出している白書のほとんどが、交付税と最近の改革による地方債について説明しています。
これそのものがいろいろな経緯から生じているものであり、とても一言で簡単に説明できるものではありません。
かといって長々と説明したのでは、退屈してしまいます。
ということで、長い説明でも物語にすれば読んでもらえるのでは?と考え、この企画を始めました。
第一話 息子たちに町を任せるのじゃ。
ここは猫の国。一代で国を築いた王、猫吉の国です。
ある日、猫吉は三人の息子、猫太郎、猫次郎、猫三郎を呼びました。
猫吉「息子たちよ。明日から、お前たち三人にこの国の3つの町を治めてもらうことにする。猫太郎は海辺の町、猫次郎は川辺の町、猫三郎は山辺の町を治めてもらうこととする。」(これから猫吉はこの色の文字とします。)
息子たちは顔を見合わせました。猫三郎が不満そうな表情を見せます。その表情を確認したかのように言いました。
「もちろん、海辺の町が一番豊かなことは知っている。川辺の町や山辺の町が大変なこともな。そこでじゃ。それぞれの町を治めていくのに最低限必要なお金はわしが保障しよう。」
「どこから出るのかは心配不要じゃ。今までとっていた年貢を全部お前たちにやるわけではない。わしにはこの国全体を治めていく役割がある。だから年貢の半分を息子たちに、残りはわしにこれまでどおりに納めてもらう。最低限必要なお金に足りない部分は、わしが受け取る年貢の中の一定割合をそのためにとっておくからそこから出そう。」
猫次郎「父上。最低限必要なお金はどうやって決めるのですか。」(猫次郎はこの文字です以下同文)猫次郎が聞きます
「それはだな、町の広さとか猫の数とかいろいろなものを考慮して、わしが決める。」
猫三郎「最低限しか保障されないんじゃ。工夫のしようがないですよ。」
猫太郎「最低限が必ず保障されるのでは、頑張る努力をしなくなるのではないでしょうか。」
「まあまあ、そういうこともあろう。そこでだ、君たちの年貢のうちの3/4が、その最低限に必要なお金に足りないときは、その部分を保障しようじゃないか。だから、努力したからとって収入がふえないということはないぞ。それからその1/4は必要最低限以外のことにもまわすことができるというわけじゃ。」
(解説)
地方交付税の目的は、それぞれの市町村の財政力の格差を解消することです。
格差を解消するというと、豊かな方の市のお金をそうでないほうの市に回すというイメージがありますが、実際には国に入ってくる税収の一定割合を財源が不足する市に国から交付するという形としています。
猫次郎の発言にもありましたが、それぞれの市で必要なお金とか、足りないお金はどう決めるのでしょうか。
それは国が基準を作っているのです。(「普通交付税に関する省令」に定められています。)
国の基準による歳入(標準税収入)が例えば100億円あるとすると、その75%の75億円が基準財政収入額となり、一方これまた国の基準による歳出(基準財政需要額)が100億円だとすると、その差額の25億円が国からもらえるという仕組みです。
総務省による説明はこちらのページ
http://www.soumu.go.jp/c-zaisei/gaiyo.html
註)今の法律では国と自治体は基本的には対等ということになっていますが、戦前には知事が国から派遣されていたり、戦後も市町村の仕事の4割は国の仕事の下請けだったりしたなど、歴史的に国が上、地方が下という時代が長く、行政・市民ともにその発想が染み付いているので、国を親猫である猫吉、市を子猫にたとえてみました。
この例に限らず、あくまでわかりやすく例えているに過ぎないことをご承知おきください。
ここまでの話をマンガ版にすると・・・
2.第二話 ~不交付団体、特別交付税とは<2009年3月11日投稿>
第二話 不足分はいくら?
猫次郎「父上、ともかく、今年はいくらいただけるのでしょう。」
猫吉「そうじゃな。わしの見たところこうじゃ。」 と王様は一枚の紙を出しました。
「山辺の町 : 年貢60 必要費用100。不足分100-60×3/4=55
川辺の町 : 年貢100 必要費用100。不足分100-100×3/4=25
海辺の町 : 年貢160 必要費用100。不足分100-160×3/4<0 ゆえに0」
「という具合じゃな」
猫三郎「実際に60集まらないかもしれない。」
「60は去年の実績じゃ。今年これより低いようであれば来年反映する。ただし年貢の徴収漏れとかは自己責任じゃ。」
「災害とかそういうので、思わぬ出費があったらどうしましょう。」
「それは、その事情を考慮して わしが決める。」
「それからじゃ。」と猫吉がいうと、執事が分厚い本を持って恭しく入ってきました。
「町の運営については、マニュアルにまとめておいた。よく読んでそれに基づき執り行うのじゃぞ。」
(解説)
地方交付税の考え方はおおよそ上の通りです。この物語では3人(匹?)のうち1人だけが不足分がないことになっていますが、今の日本では47都道府県中2のみ、市町村では約1781のうち179のみが不足分がないことになっています。
この不足分がない市町村など「不交付団体」といっています。
実は東京はこの不交付団体の占める割合が多くなっています。(30市町村のうち17市町:除く島嶼部)
さて、猫次郎が質問した「年の途中で思わぬことがあった場合などのための交付税」が特別交付税といわれるものです。
(説明はこちら http://www.town.takatori.nara.jp/soumu/zaiseijyoukyou/html/bottom/tihokohuzei.htm*1)
先日ニュースで取り上げた「地域手当上乗せで交付税減額」で出た特別交付税がそうです。
地方交付税の総額の6%がこの特別交付税に充てられることになっています。
特別交付税も交付の基準が定められているのですが、「特別の事情が存することにより過大であると認める場合においては」減額できることとなっており、ある程度恣意性があるものと思われます。
逆に合併した市には個別の配慮があるなど、地方をコントロールする道具としても使われているように思います。
普通交付税も基準があるのですが、基準が毎年変わる+算定が複雑、でつまるところ、市の財政担当者としてはいくらもらえるかは予測が困難で、国任せという面があります。
そこらへんを集約した言葉が「わしが決める」というところなのかなと思っています。
*1当初総務省のページとリンクしていましたが、リンク切れとなったので4月に高取町のHPへリンク換えしました。
この話をマンガにすると・・・
3.第三話 ~地方財政法、市の借金について<2009年3月12日投稿>
第三話 借金はだめよ。
猫吉「それから最後に、借金はくれぐれも慎むように。」
猫太郎「それはなぜですか。」
「借金は返さなければならないものじゃ。それは何から返すかというと年貢じゃ。つまり、今年のサービスのために、来年のサービスを減らすことになるのじゃ。」
「だったらプラスマイナス0のような気もするのですが。」
「いいや違う。猫の町でも移動があるから、借金をした年にいた猫は年貢を払わずにサービスを受けられるが、借金を返すときの猫はサービスなしで借金を返すだけになってしまう。世代ということで考えられば、子供はサービスがなく親の借金を返すだけになってしまうことになるからじゃ。」
(解説)
地方財政法第5条では、「地方公共団体の歳出は、地方債以外の歳入をもつて、その財源としなければならない。」と書いてあります。つまり借金をしないというのが原則です。
それは上にも書いてある通り、主に世代間の公平のため(負担なしでサービスを受ける人と、サービスなしで負担だけする人が出てしまう。)です。
それでは次の世代でも同じように借金をすれば、次の世代もサービスを受けられ、その借金を返す世代でもまた借金をすれば・・・と続けていけば理屈上は成り立つようにも思いますが、実際には借金には利子がつくので、どこかで必ず破綻します。
このようにいつかは破綻するものは「持続可能性がない」又は「サステナブルではない」といいます。
市や国の財政を評価していくうえでは「これをずっと続けていけるのか?」つまり「持続可能性があるか」という視点を持つことが重要です。
とはいえ、実際は同じ法律の第5条で地方債(借金)をしてもよいことになっています。世代間の公平のためにも借金をしてもよい場合があるのです。それについては次回のお話とさせていただきます。
この話をマンガにすると・・・
女王様と萌え萌え三姉妹 Vol.4 若干第四話の頭にかぶっています。
4.第四話 ~建設公債について<2009年3月13日投稿>
第4話 借金してもよいとき
猫次郎「でも道路を作るときとか、大きなお金が出るときはどうするのですか。」
猫吉「確かに、『借金は慎むべし』とはいったが、借金をしてはいけないとはいっておらん」
「道路や建物など、後々まで使えるものを作るときは、借金をしてもよい。」
猫三郎「さっきとは真逆なんですが・・・・。」
「そうではない。道路や建物は後の世代の人も使うものじゃ。ということは今の世代の人も後の世代の人も負担するというのが、世代間の公平性を保つということになるのじゃ。つまり、それぞれの世代で借金を返して、それぞれ負担するというわけじゃ。」
「ということは、道路や建物とか、形になるものならば、どんどん借金してよいというわけですね。」
「もちろん、どんなものというわけにもいかないし。金利がつくものだからいくらでもよいというわけにはいかない。」
猫太郎「結局のところ、どこまでならばよいのですか。」
「それは、計画の内容を見せてもらった上で、わしが決める」
「ということで、特に質問がなければ、今日はこれまでとする。それぞれの町に行ってよく治めたまえ。」
(解説)
地方財政法は同じ第5条で借金をしてもよい場合を5つ挙げています。具体的にはリンク先を参照ですが、
メインは第5号の「学校その他の文教施設、保育所その他の厚生施設、消防施設、道路、河川、港湾その他の土木施設等の公共施設又は公用施設の建設事業費及び公共用若しくは公用に供する土地又はその代替地としてあらかじめ取得する土地の購入費の財源とする場合。
要は耐用年数のある程度長い公共施設や土地の取得に充てる場合です。
猫吉の話もあるように、長期間使われるものはそれが使える世代の人みんなに負担してもらおうということなのです。
では、長期間使われるものであればなんでもよいのかというとそうではありません。
特に箱物と呼ばれるものは機能させるためには水光熱費などの経費がかかりますし、期間が経過すると老朽化し維持修繕費も必要となります。
借金までして作ったものが、もし仮に役に立たない、使われないものだったらどうでしょう。
後の世代の人は、役に立たないものを作るための費用と利子、さらに経費や修繕費まで負担しないといけないのです。その人たちにとってみれば、まさに「責任者出て来い!」って感じでしょう。
従って、そのようなものを作るときは後々の世代を含めた人たちが、今の世代が決めた負担を喜んで受け入れられるようなものとしなければならないのです。その意味で長期的なものにかかる意思決定は責任が重いといえるでしょう。
次回はまた地方交付税の話に戻っていきます。
この話をマンガにすると・・・ 女王様と萌え萌え三姉妹 Vol.5
5.第五話 ~地方交付税と交付税特別会計について<2009年3月14日投稿>
第五話 猫太郎の独り言
(文字が全部赤いと見づらいので全て黒文字としますね。)
猫太郎は帰りの車の中で父の言葉をつらつらと思い出しながら、考えていました。
「そういえば、足りない部分は王の年貢の中から一定割合を出すということだったが、さて不作の年はどうするんだ?」
「不作でもそれぞれの町で必要なお金は変わらないから、不作の年は猫次郎や猫三郎に補てんしなければならないお金も増えるはず。」
「それを補てんするのは王の年貢の一定の割合だが、それも不作のときは減ると思うのだが?」
猫太郎はどうも理屈が合わないように感じます。
「まあどうせ、僕にはあまり関係のない話だからいいや。いざとなれば銀行家の弟からなんとかするんだろ。」
と一人つぶやいて車の中で寝てしまいました。
(解説)
地方交付税は国に入る税金の一定割合を財源が足りない自治体に交付することになっています。
その割合は、所得税・酒税の32%、法人税の34.0%、消費税の29.5%、たばこ税の25%(平成19年度)です。
しかし景気が悪くなると、所得税・法人税が減る一方で、地方の財源不足も増えます。
そうなると、これだけでは地方自治体の財源不足をまかないきれなくなってしまいます。
ということで、実際にはどうしているかというと「交付税特別会計」という国の特別会計が借金をしています。
その借金の残高は平成19年度末で33.6兆円(地方の負担分だけだったかな?)となっているとのこと。
国民一人当たり30万円弱です。国の本体も600兆の借金を抱えるなか(こちらを参照)どうやってこれを返していくか、気が遠くなりそうです。
この話をマンガにすると・・・ 女王様と萌え萌え三姉妹 Vol.6
6.第六話 ~財政の役割<2009年3月16日投稿>
第六話 不景気がやってきた。
三匹の王子はそれぞれの町に散っていきました。海辺の町には猫太郎、川辺の町には猫次郎、山辺の町には猫三郎。
それぞれの町の猫たちはよく働き、荒地は畑に変わり、道路は作られ、猫たちは繁殖し、国は栄えていきました。親猫たちは猫の手も借りたいほど忙しく、父猫も母猫も働くようになりました。それぞれの町で子猫を預かる施設も作られました。老猫が増え、関連する施設もできました。
3人の王子は次から次へと出てくる猫たちのニーズにこたえていきました。町を治めるお金がよりかかるようになりましたが、国が順調に栄えていき、猫吉からもその分補助がもらえたので、なんとかやりくりができました。
新しいニーズが生じるたびに猫吉からは追加のマニュアルが送られ、マニュアルはますます分厚くなっていきました。
成長を続けてきた猫の国ですが、荒地があらかた畑になったころから、その成長は鈍ってきました。 今まで通りの成長を見込んでお金を借りていた人が返せなくなったりして、世の中の金回りが悪くなってきました。いわゆる不景気という状態です。
そんなある日猫の国の王、猫吉は息子たちを集めていいました。
猫吉「わが国の経済は、これまでにない状況になっている。国として経済の建て直しを図らなければならない。」
猫太郎「経済の建て直しといっても、われわれにいったい何ができるでしょう。」
「君はケインズをしらないな。不景気は需要の不足から起こるのじゃ。こういうときは国が需要を作り出さなければならぬ。道路をもっと立派なものにするのじゃ。猫たちが遊ぶ施設を作るのじゃ。」
猫次郎「働かずに遊んだら生産が減るのではないでしょうか。」
猫太郎「必要な道路はもうできています。」
「今は生産は足りている。とにかくお金を使わせることが大事じゃ。道路や施設を作ればお金が建設会社にまわる。建設会社は資材を作る業者にお金を払う。給料をもらった人は消費に回すというわけじゃ。遊ぶところができれば、そこでお金を使うだろう。」
猫三郎「建設にはお金がかかります。補助をいただかなければ。。。」
「不景気じゃからな。国の財政も大変なのじゃよ。しかしじゃ、弟の銀行が貸してくれるから心配するな。」
「でも貸したものは返さなければだめでしょう?」
「そこでじゃ。返済に必要な費用は『町を治めるのに最低限必要なお金』に算入してあげよう。」
「それならばよいでしょう。」 「それならばよいでしょう」
といって、猫次郎と猫三郎は町へ帰っていきました。猫太郎も釈然としないながらも、帰っていきました。
(解説)
経済成長と停滞の状況はあくまで猫の国の物語とご理解ください。実際の国の経済はこんなに簡単にまとめられるものではありませんので。
さて、財政の役割としては3つあるといわれています。(アメリカの経済学者マスグレイブによる)
ひとつは、道路などの公共財の供給
もうひとつは、所得の再分配(豊かな人からそうでない人への所得の移転)
そして3つめは、経済の安定化(インフレを抑えたり、需要を喚起したりすること)です。
一般的に所得の再分配や経済の安定化は、一自治体がやっても効果がないので国が果たすべき役割とされています。日本では国が地方の自治体を動員して公共投資を促進するなどの景気対策を行ってきました。
バブル崩壊後は国が直接補助するのではなく、「借金をしてよい」というお墨付きを与えることで、自治体がお金を借りやすくして、土木事業などに投資を行わせるように誘導してきました。将来借金の返済は国が面倒を見るということで、それぞれの自治体も借金をして公共投資を盛んに行いました。
その結果地方自治体の借金は平成4年の61兆円からその10年後の平成14年度には134兆円にまで急増したのです。
(ビジュアル版地方財政白書より)
財政の役割として一つ目に挙げた”公共財の供給”については、その公共財の供給による効果と費用が問われます。
一方、不景気は需要が供給に追いつかないことにより起こるものとすると、”経済の安定化”という視点に立つと不景気時にはとにかく需要を増やすことが重要ということになります。 そのために経済の安定化という名目での公共投資はその質が問われにくくなってしまう恐れがあると思います。
公共投資はひとつの政策決定であり、それはどのような形であれ特定の人に対する利益を伴います。今は100年に一度の危機などといわれているようですが、経済対策がそれを隠れ蓑にした利益誘導となっていないか。冷静に見ていく必要があるでしょう。
7.第七話 ~特別減税と減税補てん債、赤字公債について<2009年3月19日投稿>
不景気が襲ってきた猫の国 景気対策に公共投資をしますが・・・・。
今日は第七話です。(前回はこちら)
第七話 減税で景気回復
猫の王子たちは猫吉の指示に従い、借金をし道路をさらに立派にし、建物を作りました。
しかし、景気は一向によくなりませんでした。遊ぶ施設も大々的に作りましたが、今まで遊んだことのない王子たちが作った施設はとても立派だったのですが、あまり使われませんでした。
年貢も相変わらず落ち込んだままでした。
猫吉は再び猫の三兄弟を呼び寄せました。
猫吉「わが国の経済危機を救うためにはさらなる経済対策が必要じゃ。そこでだ。わしは減税を行おうと思う。」
猫太郎「!」猫次郎「!!」
猫三郎「これ以上年貢が減ったらわが町の財政は破綻してしまいます!」
「減税は国民みんなに恩恵をもたらすのじゃ。そのお金で消費が増えて、景気がよくなればかえって年貢が増えるということもあるぞ。アメリカのラッファーという人もいっておった。」
「将来的にはそうかもしれませんが、今年のお金はどうするのですか。」
「その分はわしの弟の銀行から貸してあげよう。もちろんその返済のお金は『最低限必要なお金』に入れてやるぞ」
「それならばよいでしょう。」 「それならばよいでしょう」
「ちょっと待ってください。父上。」 「何だね」
「今最低限必要なお金に入れていただけるということでしたが、それでは意味がありません。私の町は
年貢1600 最低限必要1000 でした。
従って1600×75%は1200>1000なので、補助はいただいておりません。
いま借金をして、借金の元利払いが100増えても、補助は0のままです。
ということは、その借金は全部自腹ということになってしまいます。」
「ま、そういう見方もできるわな。」
「見方ではなく、事実です。」
「そもそも兄上のところは、それだけ年貢があるんだからいいじゃないか。それ以上求めるのは贅沢というものさ。」
「足りない分は全部もらっている人に言われたくないね。」
「好き好んで足りないものか。」
「最低限以上の部分は、必要ならば歳出を減らせばいいじゃないか。」
(一度やり始めたサービスはやめられないことぐらい知っているくせに!)と猫太郎はこころで思います。
「大体『最低限必要』の決め方がよくわからん。一人当たりにすると猫三郎の町はうちの1.5倍ももらっているじゃないか。」
「一匹あたりだろ。猫なんだから。」
「どっちでもいいだろ、一人でも一匹でも。」
とどんどん険悪になっていきます。猫吉は特に表情を変えることもなく見ています。
「昔父上はおっしゃいました。借金は慎むべしと。借金をしてよいのは後の世代の人が使えるものだけだと。明らかに矛盾していませんか。」
「借金は慎むべしと言ったが。あくまで原則じゃ。わが国始まって以来の経済危機に対処するにはそうもいってられん。」
結局猫吉の言うとおり、減税を行うこととし、その分借金をしてよいこととなりました。
猫太郎はうなだれながら帰っていきます。
<解説>
景気対策の一環として、住民税の特別減税が行われました。
平成6年度に導入され平成8年度まで、そして平成10年度から平成18年度まで行われていました。
この減税による税収の減少を補てんする意味で「減税補てん債」を各市町村が発行しました。そしてその元利の償還に関わるお金は『基準財政需要額=最低限必要なお金』にカウントされ、後で国が払うということになっていますが、猫太郎の町のように十分な税収があるところにとってはあまり意味がなく、要するに自腹ということになります。
また猫太郎も言うようにこのような『その年で消えてしまうものに充てる借金(赤字公債といいます)』は地方財政法でだめということになっているので、
「平成六年分所得税の特別減税の実施等のための公債の発行の特例に関する法律」という法律を定めて、赤字公債を発行できるようにしています。
各市町村の財政白書を見ると、この赤字公債の割合が近年どんどん増えてきていることがわかります。
この分は後年『最低限必要なお金』にカウントされて本当に返ってくるのでしょうか。
8.第八話 ~交付税特別会計の借金<2009年3月20日投稿>
第八話 猫吉に忍び寄る危機
猫の王子たちが帰りました。猫吉はふうっとため息をつきます。
最初に王子たちに言った言葉を思い出しながら。
「・・・・年貢の半分を息子たちに、残りはわしにこれまでどおりに納めてもらう。最低限必要なお金に足りない部分は、わしが受け取る年貢の中の一定割合をそのためにとっておくからそこから出そう。」
不景気になっても『最低限必要なお金』は変わりません。年貢がへるので猫吉が出さなければならないお金も増えます。
でも『年貢の中の一定割合』も不景気になれば減ります。
最近は年貢の中の一定割合では、猫吉が出すべきお金をまかないきれず、弟の銀行から借金をしていたのでした。
「何が『借金が自腹になってしまう』じゃ。こっちは借金までして支援しているのじゃぞ。わしの苦労がぜんぜんわかっちょらん。」
そこへ弟の猫介がやってきました。
猫介「景気はどないですかな。」
猫吉「景気がよくないことは、お前が一番よく知っているではないか。」
「いろいろと大変なことはよく知っていますよ。兄上にも王子たちにもいろいろと借りていただいていますからなぁ。」
「何がいいたいのじゃ。」
「借りてもよいのですよ。使われ方ですなぁ。」
「信用がないというのかな。大体誰のおかげで仕事ができているのかな。わしの信用で国中の猫から金を集めておるではないか。」
「わかっておりますとも。どんなときでも、兄上がついていることもよくわかっておりますよ。」
それでは・・・。といって猫介は去っていきました。
確かに、猫介から借りて建てた施設は赤字でその施設からはとても返せそうにありません。最終的には徴税によって返せるといえども、猫たちの生活を破壊するようなわけにはいきません。
いずれにせよ、猫吉の信用でお金を集めているので、預金者への補てんは最悪猫吉がしなければなりません。
(貸し手責任という言葉もあるしな。) などと思いながら、
「そろそろ借金もなんとかしないといかんのかな。」とつぶやきました。
<解説>
第五話で猫太郎が心配したように、不景気のときは各町の埋め合わせをすべきお金が増える上に、国の歳入も減るのでその差額は借金をしているようです。
第五話の解説でも解説したように、2000までの日本の状況がまさに上の状態。その後の状況は次回以降のコラムで。
ちなみにここで出てくる猫介は昔の郵貯をイメージしています。かつて郵便局で集められたお金は大蔵省が一括して国債を買ったり、地方自治体に貸したり、三セクに貸したりしていたのです。
これらのついて貸し倒れが生じたら、少なくとも昔の郵貯であれば全額国が面倒を見たはずですが、民営化した現在ではどうかわかりません。こういったリスクを切り離すために民営化の動きがある(出典不明)という話もあるようです。
9.第九話 ~臨時財政対策債とは<2009年3月24日投稿>
第九話 王子も応分の負担を
猫介が帰っていった後、猫吉はまた王子たちに手紙を出しました。最近王子たちを呼び寄せることが多くて困ります。そういう時は大体いいにくい話をするときだからです。
王子たちが集まりました。猫太郎の顔が少し明るくみえました。海辺の町でとれる魚が犬の国でブームになり、売上が絶好調、他の町との格差は広がりましたが、猫の国全体としては少しずつ景気を回復しつつあるようでした。
「今日呼び寄せたのは他でもない」といって猫吉は『最低必要なお金』を払うために借金をしていることを王子たちに話しました。王子たちはその話はなんとなく知っていたので、なぜいまさらそんな話をするのだろうかといぶかっています。
猫吉「この借金はとりもなおさず、君たちのためにしたものであるが、これまでは全てわしの責任で借金をしてきた。これからは君たちにも応分の負担をしてもらいたい。」
猫次郎「私たちは最低限に足りない部分を頂いているにすぎないのです。借金をしたらどうやって返せばよいのですか。」
「後年元利払に充てるお金は『最低限必要なお金に入れてあげよう。』」
といいましたが、王子たちは眉一つ動かしません。
ここのところ王が決める『最低限必要なお金』がじりじりと下げられてきているからです。後で入れてあげるといわれても実質的に入ることになるのか。もうわからないのです。
<解説>
地方交付税を交付するために国が借金をしていたことは前回以前にお話しました。
当初は国の借金だったのですが、国の財政も苦しくなってきたため、平成10年度から12年度までは国が借金をし、返済は国と地方公共団体(都道府県と市町村)が半分ずつ返済することとしていました。(各市町村がどう負担するかはわかりません。)
その後さらに制度が改正され、平成13年度からは財源不足の一定割合を、県や市が「借金を行ってもよい」ことになりました。この制度に基づき起こした市債は「臨時財政対策債」といいます。
これも本来地方財政法でやってはならないとされている赤字公債で、他の法律で特別に認められているものです。
しかしいまや臨時財政対策債の各市町村の市債の残高に占める割合は相当なものになりつつあり、将来の公債費としてそれぞれの町の財政を圧迫する恐れが高まっています。
ふうぅ~やっと臨時財政対策債にたどり着いた。 多少でも理解の助けになればと思います。
今回でこのコラムは終わります。でもお話はもう少しだけ続きます。
<後日談>
そんなある時、犬の国で伝染病が大流行しました。なんと原因は猫の国の魚のようです。
これまで飛ぶように売れていた魚はぱったりと売れなくなり、海辺の町は暗く沈みこんでいます。
またしても王子たちが呼ばれました。
猫吉は「今回は犬の国も含んだ100年に一度の危機である。ここは大規模な景気対策を。」
といいますが、猫の王子たちはうつむいたままです。猫吉もこれまでの対策があまりうまくいっていないので、声にも張りがありません。
これから猫の国はどうなるのでしょうか。それは誰にもわかりません。
(終わり)