微生物の群集機能を最適化するための二つの枠組み

2023年1月24日(火曜日) 16:00~

柴﨑 祥太 博士(ノースカロライナ大学グリーンズボロ校)http://shibasaki-sh.jp/wp/

「微生物の群集機能を最適化するための二つの枠組み」

要旨:

食糧生産、バイオエネルギー、健康など多くの場面で微生物は人類に大きな利益をもたらす。 これらの利益を最適化しようとするとき、個体群動態あるいは進化動態による問題が数多く報告されている。 すなわち、目的の機能を持つ微生物種あるいは系統が、種間相互作用や突然変異によって失われてしまうという問題が生じる。この発表では、環境変動と階層的な空間構造をもちいて微生物群集から得られる利益を最適化する理論的な枠組みを示す。特に階層的な空間構造をもちいた場合では、実験データから予想される最適な空間構造についても言及する。一方、環境変動も空間構造も種多様性や群集安定性などの生態学の基礎的な面に影響することが知られている。 そこで上記のような環境変動や階層的な空間構造がどのように種多様性や群集安定性に寄与するのかを数理モデルで調べた。変動環境下では、微生物の個体数が環境条件に応じて増減するため、悪条件下では人口学的な揺らぎの効果が強くなる。この揺らぎの強さは、環境変動の速度によって不規則な変化するが、揺らぎの強さのパターンは2種の場合でも多種の場合でも類似している。したがって、揺らぎの強さがどのように変化し多種からなる群集の組成に影響するのかは、2種の系の振る舞いから予測が可能である。階層的な空間構造下では、上流に位置する微生物種は下流に位置する種の成長に影響を与えることができる。これは、微生物間の種間相互作用が、化学物質の消費や分泌を介して行われ、これらの化学物質が上流から下流へと流れ込むからである。そこで、上流の群集は下流の群集安定性にどのように影響するかを解析した。統計解析の結果、上流の種から下流の種への正の相互作用が下流の群集安定性に寄与することが示唆された。以上の結果は、環境変動と空間構造の重要性を基礎及び応用上で示すものである。

参考文献

S. Shibasaki and S. Mitri (2020). Controlling evolutionary dynamics to optimize

microbial bioremediation. Evol. Appl. 2020;00:1–1

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/eva.13050

S. Shibasaki**, M, Mobilia, and S. Mitri. (2021). Exclusion of the fittest

predicts microbial community diversity in fluctuating environments. J. R. Soc. Interface.

https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rsif.2021.0613

S. Shibasaki, and S. Mitri. (under review) A spatially-structured mathematical

model of the gut microbiome reveals factors that increase community stability

https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=4241178

S. Shibasaki (2022). Two design frameworks for optimizing microbial community functions.

Ph.D. thesis. Univ. of Lausanne. (Le résumé est disponible en français et en anglais)

https://serval.unil.ch/en/notice/serval:BIB_BBAE9A5D70E9