10月1日

投稿日: 2010/09/30 18:21:47

2年生のある時期、私は実は同棲をしていた。

決してどちらかが言い出して始めた事ではない。

気づいた時には一緒になっていた。

それは極々自然な成り行きだった。

彼女は色白で――上手い表現が見つからないが――少しフワフワしていて、私は密かに綿あめみたいな子だ、と思っていた。

そして、無口な所があったり、他を寄せ付けないというか、人を選ぶというかそんな独特の雰囲気があった。

私はそれがもの珍しくかったのかすぐに彼女に夢中になった。

私は毎日彼女を眺めて過ごした。

会話など無くとも心の何処かで通じ合っている、そんな気がしていた。

そう、重要な事を記し忘れていた。

彼女はニートのような生活をしていて、学生でもなければ働いている訳でもなかった。

更に彼女には身寄りがなかった。

そういった事もあってか、周囲の人は皆、私達の関係について反対した。

正確には唯一人の親友を除いて、皆が反対した。

確かに、私だって周りに同じ境遇の人がいれば同じ様に反応しているだろう。

ただ、利用されているだけだろう、とか、追いだしてしまえ、等と言うのは言い過ぎだろうと思った。

寄生されているようなものだ、と言われた時にはショックを通り越して流石に笑ってしまった。

初めのうちはそういった友人の言葉はありがたいと思っていたし、上手くかわし続けていた。

しかしながら、正直私は彼女に惹かれているとは断言できなかった。

彼女を大切にしたいという気持ちは間違いなくあったが、もしかしたらそれは単なる同情心だったのかもしれない。

私がこんな曖昧な態度であったためか、それとも単に忙しくなり余裕を失ったためか、幾度も諭されるうち私は段々彼女といる事が重荷になってきてしまった。

一方で彼女は私の気苦労を知る由も無く、(少し太ったが)相変わらずの日々を送っていた。

疲れていた私にはその能天気さが許せなくて、少しずつ彼女を邪険に扱うようになっていった。

私は意識的に家をよく空けるようになり、漫画喫茶で一夜を明かすというような日も多くなった。

しまいには目を合わす事さえ殆どしなくなった。

今思えば彼女は寂しそうにしていたが、それさえ当時の私には気にならなくなってしまった。

そんなある日、彼女はハイターを飲んで死んだ。

詳細は伏せるが、私が殺したようなものである。

彼女には私以外に頼るものがなかった。

私が殺した。私が。

不思議な事に、悲しいとは感じなかった。

それどころか、心のどこかで清々しさを感じている事に気づき、私は私の中に宿る狂気に戦慄した。

彼女の死は特に何処かに大きく取り上げられるような事もなく処理された。

葬式を上げるような事もなければ、墓すら作られなかった。

彼女の生きた痕跡は、私の中以外のどこかに残っているだろうか。

ふとそう思った瞬間、後悔と自責の念が猛烈に込み上げた。

その後暫く私の精神は抜け殻のような状態であったが、時の流れとともに少しずつ回復し、いつしか依然通りの生活を送るようになった。

彼女との思い出はそっと胸の奥へと封印して。

そして時は流れ現在――

チーバくんで言う所の鼻の先、ここ柏の地にて、期せずして私は偶然彼女と再会してしまった。

勿論彼女とは全くの別人なのだが、彼女の持つ独特の雰囲気は正に瓜二つだった。

出会った刹那、私は誓った。

もう二度と過ちは繰り返すまい、と。

それが失われてしまった彼女への贖罪になると考えた訳ではない。

ただ今を生きる彼女を失いたくないと心から思ったのだ。

そして今回は単に眺めるだけではなく、積極的に育てる事にした。

液体状の培地を作ってその中に無理やり沈め、約40℃の恒温槽で48時間撹拌する。

すると持ち味のフワフワ感は失われてしまい、まるで鼻水のようになってしまうが、体重はものすごく増えてそれはそれで魅力的である。

アカパンカビちゃん待っててね、今日も今から会いに行くよ(はぁと)