2012-7-15 「クニマス:生物学的実態解明とその保全を考える」の成果の私的まとめ

Post date: Jul 15, 2012 12:27:14 PM

2012-7-14に行われた日本魚類学会市民公開講座「クニマス:生物学的実態解明とその保全を考える」の成果のまとめ.

以下はシンポとその後のディスカッションを経た私個人の現状理解.

1. 多くの専門家は,西湖で発見された集団をクニマスと同定することは分類学的に妥当(形態,生態形質が一致する)と判断.

2. 多くの専門家は,現時点のデータに基づいて,西湖で発見された集団は田沢湖のクニマスの子孫と考えるのが最も尤もらしいと判断.

3. ただし,日本における海外産を含めたヒメマスの複雑な放流履歴から,西湖の集団が海外からの導入集団である可能性を完全には否定できていない(可能性は低い).

4. 北米には,形態,生態等,クニマスとほとんど区別できない形質をもつコカニー(ベニザケ陸封集団)が存在する(北大).

5. 本栖湖にも,西湖と同じ起源の未知の集団が存在することが明らかになったが,これは西湖の集団とは異なり,ヒメマスと大きく交雑している.しかし混ざりきってはいない(総合水研セの研究).

6. 分類学研究者から,北米の集団を分類学的に正しくクニマスと同定(形質が一致し,名前のついた別の種と区別)できるなら,クニマスと呼んでもよい,という発言があったが,西湖の集団がもし田沢湖に由来したものでなければ(例えば北米産),分類学でどうあれ,市民も行政もほとんどの研究者も,それが保全に値すると考えるはずがない,という意見があった.

7. 古い標本からの新技術によるDNA分析,漁網や漁船からの鱗や耳石などからのDNA分析,あるいは北米産のデータとの包括的な比較など,西湖の集団が田沢湖由来であることをより確かにする科学的な可能性が残されている.

8. たとえ西湖の集団の由来が100%疑いのない状況になくても,現時点では保全対策を正しく進めるべき.ただし,拙速で,イベント的な保護対策は,クニマスのみならず,どんな種においても効果的でなく,逆効果もありうるので,専門的な見地を踏まえ,根拠をもって進めるべき.

9. なぜ西湖においてヒメマスと交雑せず,本栖湖で交雑が進んでいるのか,産卵環境と初期生育速度の問題,エサの問題,その他,生物学的実態を明らかにすることは,科学的に興味深いのみならず,保全上も重要.