03. 淡水魚の保全・放流・遺伝
いくつかの追加質問

ここに掲載するとよいと思われる質問等がありましたら、メールやSNSを通じてお知らせください。

日本の生物はもとを正せばほとんどが大陸からきたのだから,外来種問題など存在しないのではないでしょうか?

Mar 24, 2010

(答)2つの点で正しくありません

1つは,特に淡水魚の場合,日本列島で生まれた種も多く,直接大陸から渡ってきたわけではありません.また祖先が大陸からきた,というのも多くの場合正しくありません.まだ日本列島が大陸の一部といえる時代に祖先種が両地域に分布していた場合などです.

もう1つの点は,普通人間は自然に起った現象に対して道義的・法的責任を取る必要はないでしょう.責任を問われるのは人為的な行為です.外来種問題の多くは,私的,公的な広い意味での「財産」を損なう,故意,あるいは意図しない暴力・人災です.例えば,ブラックバスに関していえば,たとえていうなら,ハンティングを楽しむために,他人の牧場にトラを放すようなものです(もちろん「たとえ」ですので違う面もあります).

日本魚類学会の『放流ガイドライン』はなぜ水産の問題を対象外としているのですか? むしろ最重要課題ではないでしょうか?

Mar 24, 2010

答)指摘のとおり,特に国内外来種の問題において,水産放流は最重要であり,さまざまな面で根源的であると思います.一般市民やマスコミが「放流はいいこと」と思いこんでいる原因は,水産放流(と放生会等の宗教行事)の産業・文化に裏付けられています.

しかし, 水産放流に悪弊があったとしても,「水産放流=悪」と否定することは,私にはできません.必要であった面(資源的・法律的)も確かにあるのですから.ただし,ただ短期的に搾取するために放流を行うのではなく,(産業,地域,資源,生物多様性に対して)「責任ある放流」へできるだけ速やかに転換していかなければならないと強く思います.そのような動きは水産庁をはじめ水産行政・当事者内部にも生じていて(※),その中からガイドラインなり,法律なり,慣例なりが出てくるべきです.水産学と必ずしも直接関係しない魚類学者集団(研究者レベルでは関係するが)が,水産業というそれなりに大きな産業に対して直接的にガイドラインを示すのは,少し筋が違うと考えました(これは一ワーキング委員の個人的意見).ただし基本となる考えは共通することを明記しています. ※ 2004年度日本魚類学会公開シンポジウム「淡水魚の放流と保全---生物多様性の観点から」の基調講演2を参照

希少魚の保全のための放流はその希少魚や生態系,生物多様性の保全になりますか?

Mar 24, 2010

答)やり方次第です.

生物保全の実践的分野には,「再導入」・「導入」という,多くの失敗事例と一部の成功事例を含む,長い歴史をもつ分野があります.希少魚や群集・生態系,生物多様性の保全に,トータルとして役に立つ放流は,一般に困難です.が,現在のように環境が人為的に極端に改変された/されつつある状況では,希少魚のために,積極的に新たな生息場所を見いだしていく必要は高まっています.→関連記事(7つの質問

その基本は,放流がその種にとって有効な保全対策であるという一定の合意が関係者間で得られること,もといた場所にできるだけ近いところ(少なくとも同じ水系・流域)を放流場所として選ぶこと,放流する個体を選ぶこと(起源,遺伝的多様性,罹病歴等),そして事前,事後の調査を行い,公に記録を残すことが重要です(→魚類学会「放流ガイドライン」).ただし,本当に種や重要な集団の存続にかかわる緊急な場合には,「とにかく絶滅させない」のが優先されると考えます.

また,その地域での魚の本来の姿を科学的に推察しておくことも重要だと思います.例えば,もともと網目のような水路が流れる湿地帯のような場所であったなら,今は隔離された池や川の間で移動が普通にあったはずですし,むしろ現在の隔離が,近親交配などにより,将来的な絶滅をもたらす可能性があるため,交流を復活させることが適切な場合もあります.

よく新聞に,コイや金魚,フナ,小魚,アユ,アマゴ,サケ,(あるいはホタル)などを,子どもたちが放流している記事がありますが,生物や環境,生物多様性の保全のためになりますか?

Mar 24, 2010

答)いいえ,多くの場合なりません.むしろ自然保護・環境保全とは逆の結果をもたらす可能性があります.
→関連記事(7つの質問