2016-8-18 ダム and/or 地球温暖化? インド・ビルマホットスポットの淡水魚類多様性に与えるインパクト:論文出版

Post date: Aug 18, 2016 9:04:52 AM

九大決断科学・鹿野雄一さんを中心とする国際グループによる下記論文がとうとう出版されました。

Kano, Y., D. Dudgeon, S. Nam, H. Samejima, K. Watanabe, C. Grudpan, J. Grudpan, W. Magtoon, P. Musikasinthorn, P. T. Nguyen, B. Praxaysonbath, T. Sato, K. Shibukawa, Y. Shimatani, A. Suvarnaraksha, W. Tanaka, P. Thach, D. D. Tran, T. Yamashita, K. Utsugi. 2016. Impacts of dams and global warming on fish biodiversity in the Indo-Burma hotspot. PLoS ONE 11: e0160151. http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0160151

九州大学からのプレスリリース「メコン川下流域で水力発電ダムの影響により魚類種数最大6割減を予測,温暖化との相乗作用も懸念」

ダム建設と地球温暖化はいずれも淡水魚類の多様性にマイナスの影響を与えうる要因ですが、両者は火力発電のおけるCO2排出量を通じて負の関係にあります。

同時に、ダム建設による移動阻害は、水温上昇に対する魚類の反応に制限を与えるなど、ダムと温暖化という2つの要因は相乗作用をもって魚類多様性に負の影響を与えうるものです。

現地研究者と協力して行ってきた長尾財団や環境省S9を中心とした膨大な魚類採集記録を用い、膨大なMAXENT解析(生息適地モデル解析)を行った結果、ダム、温暖化それぞれ、またそれらの相乗効果による魚類多様性の影響を評価することができました。

ダム建設は即効性をもって魚類多様性に大きな影響を与えそうですが、とくに地球温暖化がこのまま進むような場合には、相乗作用の効果が大きく現れるという予測が得られました。

現地調査を行ってきた皆さんの努力と、現地調査を含めた鹿野さんの解析と取りまとめへの多大な努力に、共著者の一人として敬服、感謝するものです。

オープンアクセス(無料)ですので、関心のある方は、ぜひお読みください。

インド・ビルマホットスポットにおける魚類多様性に対するダムと地球温暖化のインパクト」(鹿野雄一ほか,19名,2016:PLoS ONE 11(8): e0160151. doi:10.1371/journal.pone.0160151 )

要旨(私訳):

・水力発電ダムと地球温暖化はいずれも淡水魚類多様性への脅威である.地球温暖化は化石燃料使用の削減を目的とした大型ダムによるエネルギー生産への移行により減少されるかもしれないが,そのようなダムは河川のハビタットを大きく変えてしまう.さらにダムと地球温暖化によってもたらされる脅威は相互作用するだろう.例えば,ダムは水温上昇に対応しようとする魚類の移動を制限することになる.したがって,ダムと温暖化の総合・相乗効果の評価は計画中の水力資源開発がもたらす影響を適切に評価するために必須である.

・われわれは,インド・ビルマ生物多様性ホットスポットにおける363魚種について,ダムと地球温暖化のそれぞれ,および総合的な影響に対する反応を予測した.このホットスポットには,世界最大の淡水漁業生産をもたらすメコン下流域が含まれている.

・81のダム建設シナリオに関する予測から,発電量が増加するに従って,種の豊富さ,ハビタット面積,そして絶滅危惧種の割合に対する影響が徐々に増大することが明らかとなった.

・126の地球温暖化シナリオに関する予測には,種の豊富さの上昇,ハビタット面積の縮小,および絶滅危惧種の割合の上昇が含まれていたが,温暖化予測の間でこれらの変化の程度は大きく異なっていた.

・ダムと地球温暖化の影響を総合したシナリオに関する予測は,「単純に2つの効果を足し合わせた場合」と,温暖化によるハビタットのシフトがダムによる川の断片化によって制約を受ける可能性を考慮して「2つの効果を相乗的に総合した場合」の2通りについて行った.相乗的予測のもとでの魚類多様性へのインパクトは,相加的なシナリオより10–20%高く,発電量が増すに従って悪化した.これは特にCO2排出量が高いままであるときに顕著であった.

・ダムの影響,特に本流に建設されるもののインパクトは,地球温暖化によってもたらされる影響に比べて,魚類に対し,より大きく,より予測可能で,またより即効性をもちそうである.それゆえ,ダム建設の抑制は,インド・ビルマホットスポットにおける魚類多様性の保全において優先度が高いといえる.これにより,ダム+温暖化によりもたらされる相乗的なインパクトは最小化され,メコン下流域における漁業に代表される生態系サービスの供給を持続させることに貢献するだろう.