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ジュゼッペ・ヴェルディは1813年、イタリアのロンコリーニャに生まれた。
幼少期には、家族を失うという大きな悲劇が待ち受けていた。
父親を10歳の時に亡くし、ほどなく母も他界。さらに妹や弟も幼くして命を落とした。こうした喪失体験は、のちの彼の音楽に陰影を与える要因となったと考えられている。
やがてヴェルディ自身も父となり、結婚後に二人の子どもを授かる。しかし幸せは長く続かず、子どもたちは相次いで幼くして亡くなった。この出来事もまた、彼の人生観を大きく揺さぶり、創作活動に深く刻み込まれていった。
ヴィクトル・ユゴー(Victor Hugo)の戯曲:
🗺️ 舞台
原作:フランス・パリ(実在の都市)
オペラ:イタリア・マントヴァ(架空の公国)
👑 権力者
原作:フランソワ1世(実在のフランス国王)
オペラ:マントヴァ公爵(架空の人物、プレイボーイ)
🤡 宮廷道化師
原作:トリブレ(Triboulet)
オペラ:リゴレット(Rigoletto)
※「トリブレ」は “トラブルメーカー”を連想させる語感だったため改名されたとも言われる。
👧 娘の名前
原作:ブランシュ(Blanche)
オペラ:ジルダ(Gilda)
🎭 テーマ
原作:王の権力と道化師のモラル的責任
オペラ:呪い、復讐、誤解、そして父と娘の愛と悲劇
🔚 結末
原作:娘が王に誘惑され、道化師は自責の念に苦しむ
オペラ:娘が父の敵の身代わりとなって死に、父は絶望する
オペラ・リア(オペラ・リアリスティカ)/オペラ・ダ・リュコマーノ的な悲劇オペラ
悲劇的な筋立て、深刻な人間ドラマ、心理描写が中心
庶民や宮廷の人間関係を描いたリアルで暗い内容
🧩 背景:もっとリアルで深いオペラを
1850年頃のヴェルディは、《ナブッコ》《エルナーニ》《マクベス》などで成功を収め、イタリア・オペラ界のトップにいた。
しかし、彼の中にはこうした思いが芽生えていた。
「オペラは華やかさだけじゃない。もっと現実的で、人間の痛みを描きたい。」
そんな時に出会ったのが、ヴィクトル・ユゴーの戯曲《王は愉しむ(Le roi s’amuse)》。
ユゴーの原作では、フランス国王フランソワ1世と、その道化師トリブレ、そして娘の悲劇が描かれていた。
ヴェルディはこの作品を読んですぐに思った。
「これは絶対オペラにしたい。」
特に彼が惹かれたのは、この3点:
👨👧 父と娘の深い愛情と、そこから生まれる破滅
🧨 呪いによって運命が狂い出す構造
🎭 道化師という“滑稽な皮”をまとった男の、内なる苦しみ
※ちなみに、ヴェルディ自身も父親だったことから、リゴレットとジルダの関係に強く共感していたとされている。
ところが、大きな壁が立ちはだかる。
当時のイタリア(オーストリア支配下)では、王族を堕落した存在として描くのは絶対NG。
ユゴーの原作はまさにその王を痛烈に風刺していたため、検閲当局は「これは舞台にかけてはならない」と激怒。
それでもヴェルディはあきらめず、台本作家ピアーヴェと共に登場人物や舞台を徹底的に改変して対抗する。
具体的には、
実在のフランス国王フランソワ1世は、架空のマントヴァ公爵へと格下げされ、
道化師のトリブレは、より中立的な響きを持つリゴレットという名に変更。
舞台も、フランス王宮から、政治的な意味を持たない架空のイタリア・マントヴァの宮廷へと移された。
また、セリフや演出も政治批判の要素をそぎ落とし、人間ドラマを主軸に置いた台本に仕上げられた。
こうして完成した《リゴレット》は、1851年3月11日、ヴェネツィアのフェニーチェ劇場で初演。
初演は大成功!観客の大喝采を浴び、瞬く間にヴェルディの代表作に。
ヴェルディはこの作品を「自分の魂を注ぎ込んだ作品の一つ」と語っている。
彼が原作から変えたのは舞台設定だけで、人間の本質・葛藤・愛の痛みといったテーマはむしろ深められている。
🔁 社会風刺 → 父娘の悲劇ドラマ
🤡 道化師の皮肉 → 人間的な苦悩の象徴へ
🎤 技術より魂! → 歌手泣かせでも譲らない作品第一主義
ヴェルディはユゴーの戯曲に強く惹かれ、オペラ化を熱望
検閲を乗り越えるため、大胆な設定変更を実行
1851年初演、大成功。以後《リゴレット》は19世紀オペラの傑作に
ただの翻案ではなく、「父」として「芸術家」としてのヴェルディの挑戦そのもの
ヴェルディが《リゴレット》の中で書いた、超有名アリア:
🎶《La donna è mobile(女心の歌)》
〜「女というものは、風のように気まぐれで……」〜
今でこそ「イタリア・オペラの顔」みたいな名旋律だが、ヴェルディはこの曲を極秘扱いしていた。
ヴェルディはこのアリアがあまりにキャッチーなので、「初演前にメロディが広まったら台無しだ」と考えていた。
そこで彼は:
楽譜はギリギリまで歌手にも渡さない
リハーサルは極秘、伴奏者も少人数限定
初演前日まで、歌手にも“絶対に口外するな”と念を押した
というレベルで警戒していた。
……つまり現場は完全に歌手泣かせ。
作品を大事にするあまり、歌手のことを考えられてなかった。
裏を返せば「この歌手ならやれるだろう」と思っていたからこそ、そんな無茶も託せたのかもしれない。
例えば、マントヴァ公爵を初演で歌ったラファエレ・ミラテッリは、声の華やかさも技術も申し分ない名テノールだった。
ヴェルディはおそらく彼の実力を知ったうえで、「このアリアを初めて世に出すのは、あいつにしか任せられない」と確信していたんだと思う。
つまり、スパルタな演出の裏には、限界を超えてくれる歌手への“信頼と期待”があった。
にもかかわらず!
初演当日、フェニーチェ劇場の近くの通りを歩いていたヴェルディの耳に、こんなものが飛び込んでくる。
🎶「ラー・ドーンナ・エ・モービレ〜♪」
……って誰かが鼻歌で歌ってる!!
ヴェルディは驚愕!「え!? もう広まってるじゃん!!😡💢」
(※説によっては、すでにヴェネツィアのゴンドラ漕ぎたちが口ずさんでいたとも言われている)
実はそれほどに、《女心の歌》は一度聞いたら忘れられないメロディ。
そして初演当夜、マントヴァ公爵役を演じたラファエレ・ミラテッリが歌うと、客席は大喝采!
初演の夜が終わるころには、もう街中の人がこの曲を口ずさんでいたというほどの衝撃だった。
「絶対にネタバレさせないようにしたうえで、初演で一気に爆発させる」という作戦は、結果としてヴェルディにとっても大成功。
こうして《リゴレット》は、「女心の歌」のインパクトとともに、19世紀オペラの新たな傑作として歴史に刻まれていった。
「女って移り気で信用できないよね〜」と軽く歌ってるマントヴァ公爵のアリアが、そのあと娘を傷つけられるリゴレットの悲劇に直結していくので、聴衆は「ノリのいい歌の裏にある残酷さ」に、ゾッとするような余韻も残る。
ヴェルディのオペラ『リゴレット』は、彼の個人的な経験や感情が色濃く反映された作品とされる。
特に、家族の喪失や愛する人を守ろうとする父親の姿勢は、ヴェルディ自身の経験と重なる部分がある。
そのため、『リゴレット』の概要にヴェルディの幼少期や家族の悲劇について触れることは、作品の背景を理解する上で有益だ。
マントヴァ公爵に仕える道化師(道化役)。皮肉屋で世渡り下手なところもありつつ、娘ジルダを深く溺愛している悲劇的な父親。
リゴレットの一人娘。純粋で心優しいが、父の知らぬ間にマントヴァ公爵と恋に落ちてしまう。
軽薄で女好きの貴族。ジルダを誘惑し、物語の悲劇の中心となる。
冷酷な殺し屋。妹のマッダレーナと共に計略を巡らせる。仕事として殺人を請け負う。
スパラフチーレの妹。妖艶で狡猾な女性。
娘の名誉を汚された貴族。リゴレットとマントヴァ公爵を激しく非難し、呪い(la maledizione)をかける。物語全体の悲劇の発端となる。
ジルダの乳母。マントヴァ公爵に買収され、彼がジルダに近づくのを許してしまう。
マントヴァ宮廷に仕える貴族。公爵に妻を狙われており、リゴレットに恨みを持つ。ジルダ誘拐計画の共犯でもある。
マントヴァ公爵の浮気相手にされる女性。劇中の登場は短いが、見た目と演技力が問われる役。
正式な名前はないが、第2幕終盤に登場。モンテローネを監視し、「あの男が通るぞ!」とソロで告げる役。小役ながら演出次第で印象的になることも。
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