yahoo! japanは「忘れられる権利」を侵害しているか

事の発端は、先日、yahoo!系のサービスで使っていた表示名を変えようと思ったことである。

そこで、「ニックネームの変更」というところを開き、表示名の横に書かれていた×ボタンを押した。すると、なんということだろう。今まで使っていたサービスにログインすることができなくなり、しかも過去に書いたものなどについての表示名は、そのままになっている。

調べてみたら、yahoo! IDを消してしまったようだ。しかも、一度消したIDは何があっても戻せないのだという。たしかに、以前使っていたIDを入力しても、「すでに使われています」と出て、受け付けてくれない。つまり、未来永劫、このIDでログインすることはできなくなってしまったわけだ。当然、表示名を変えることも未来永劫できない。

そんなことがわからない不親切なデザインであり、現にネットで検索して見ると、同じようにIDを消してしまって焦っている人がたくさんいた。中には、よく事情はわからないが、裁判で使う資料が消えてしまったという人もいた。人生がかかっているが、それでも復活することはできないらしい。

まあ、人々が焦るのも当然だろう。たとえば、たとえばIDに自分の名前を使っていたとしよう。普段はサラリーマンであり、いいお父さんであるタナカサブロー氏は、「tanaka_saburo」というIDで、yahoo!の掲示板やらに書き込みしていた。ところが、そのIDがネットで公開されていることに気づく。それも自分の書き込みと一緒に、だ。ネット上では、実生活では知られたくないような書き込みをしていたかもしれない。たとえばタナカサブロー氏はSMの趣味があり、それについてyahoo!のサービスで書いていた。

焦るタナカサブロー氏、これを見られたら「我が人生がいっぺんに台無し!」である。そこでニックネームの変更を開き、×ボタンを押す。すると、なんというトラップだろう! 「tanaka_saburo」がSMについて熱く語っているコメントは、永遠にネット上に残ってしまうのだ。

yahoo! japanはこのことをどう考えているのだろうか。

そう思った私は、カスタマーセンターに問い合わせをしてみた。

「知られたくない情報が入っていたIDを非公開にしようと思ったが消してしまった。これが見られると、我が人生がいっぺんに台無し! どうにかしてください」というようなメールを送ったのである(念のために書いておくが、私は実名をIDにしていたわけでもなければ、SMについてのアツい書き込みを繰り返していたわけでもない)。

次のような、メールが返ってきた。一部を、引用する。なお、特定されそうな箇所について、適宜手を加えてある。

==

誠に恐れ入りますが、

Yahoo! JAPAN ID(以下、Y!IDと表記)やニックネームを削除しても、

削除した公開するIDで投稿された書き込みなどは削除されません。

なお、削除されたY!IDおよびニックネームは復活させることは出来ません。

また、投稿された書き込みに表示される公開するIDにつきましては、

Y!IDやニックネームを削除した場合、非公開を行うことは出来ず、

弊社に個別にご連絡いただきましても公開するIDの変更、非公開を

行うことは出来ません。

何卒ご了承くださいますようお願いいたします。

皆様に責任ある書き込みをしていただき、また、安心して

Yahoo!のサービスをご利用いただくため、公開するIDが必ず表示されます。

ご連絡いただきましたところ、ご要望に沿えず誠に申し訳ございませんが、

ご理解のうえ、ご利用くださいますと幸いです。

==

これはおそれいった。タナカサブロー氏は、生涯に渡ってSM大王としての威名をネット上のみならず、リアルにもさらしたまま生きねばならないのだ。こんなことなら「sm_daio」というIDにしておけばよかった、と思っても時すでに遅しである。

近年、「忘れられる権利」というものが認められつつある。

ネット上には「タナカサブロー」氏の名前をはじめ、たくさんの個人情報が出回っている。

個人の請求があった場合、個人情報を特定できるようなデータを削除することは管理者の義務である。こんな考え方が、たとえばヨーロッパでは主流になっている。現にEUに加盟したい国は、この義務を認めなければならない。

yahoo! japanは、もちろんこの義務を守っていない。

「日本だから、だいじょうぶ」だと、たかをくくっているようだが、よいのだろうか。

事実、yahoo! japanは、一度忘れられる権利がらみで訴えられている。もっとも、このときは、訴えた側が犯罪者で、前科が出てくるのを消してほしいという訴えであったこともあり、訴えは棄却された。

だが、たとえばSM大王ことタナカサブロー氏がyahoo!を訴えたらどうなるだろうか。

いや、訴えることは自殺行為だろう。そうしたら、サブロー氏のSM趣味は大々的にバレてしまう。そこでサブロー氏らは泣き寝入りしているわけだが、yahoo!はそれをいいことに、このような劣悪な管理をしているのである。

yahooはこれについて、「皆様に責任ある書き込みをしていただき、また、安心してYahoo!のサービスをご利用いただくため」という言い訳をしているが、もちろん、本名以外でも登録できる時点で、これが言い訳にすぎないことは明確である。サブロー氏は「sm_daio」というIDで登録することもできたわけだが、それがどう「責任ある書き込み」につながるのだろうか。皆目意味不明である。

情報管理については、近年、IT系の会社は特に神経を尖らせ、個人情報の削除請求にも、過剰なまでに応じている(「ARGUMENT強制閉鎖」などを参照)。大手であるyahoo!がここまで杜撰な管理をしているとは、開いた口が塞がらない。大々的に情報流出を引き起こした(ご存じない方は「Yahoo! BB顧客情報漏洩事件」でググられたし)ときから、個人情報についての意識はまったく改善していないようだ。

==

↓コメントをどうぞ