もすもす話● 和漢朗詠集の苔
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添付1 和漢朗詠集でコケを歌った詩 全首 へ ジャンプ
添付2 咏青苔诗 沈约 及び 青苔赋(并序) 江淹 へ ジャンプ
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和漢朗詠集の本文を読む前に、いくつかの点について、注意をしておきたい。
1. 青苔:
漢詩文(中国語)でコケを表現する場合には、一文字「苔」ではなく、必ず「青苔」と表現する。この他に、「蘿」という表現も屡々見られ、「コケ」と訓している。
「蘿」は、一般的に木の枝などからぶら下がった植物を指す。そのため、コケ植物だけではなく、シダ植物や、サルオガセなどの地衣類も含んでいる。コケ植物には、キヨスミイトゴケなどハイヒモゴケ科には、懸垂性のコケが多種ある。一見すれば、この3つの植物の違いは、一目瞭然だ。特に、地衣類は、葉緑体を持っている藻類が植物体表面を覆っており、菌類が内部に隠れている。白っぽい色をしている。しかし、コケ類と殆ど混同して詠われている。
従って、「蘿」についても、補足として「青苔」の後に載せた。倭人による3首のみだ。
2.「青」について
日本語の「青色」は、中国語の「藍色」に該当する。英語で言えば、Blue~Cyanに当たる。一方、中国語で「青」が表現する色の範囲は、非常に広い。
例えば、「荀子·劝学」には、「青,取之于蓝而青于蓝;冰,水为之而寒于水。」とある。深い藍色の染料「靛青」から、青が生まれた事を指す。この場合の「青」は、「紫」に近い「藍」との中間の色と考えられる。中国語で言えば、「群青」あるいは「青蓮」だろうか。
「释名·释采帛」には、「青,生也,象物生时色也」とある。この場合の「青」は、「まだ熟していない草・麦」などの「嫩绿色」を指す。
更に、髪の毛の黒色を指す場合もある。唐の李白は、「君不见高堂明镜悲白发,朝如青丝暮成雪」と読んだ。あるいは、「荀子·劝学」には、「青色也是黑色的意思」とある。
尚、李白の「長干行」には、「門前遅行迹、一一生緑苔」と「緑苔」の表現がある。百度では、「青苔」と同意義としている。
均茶庵は、日本・中国にはえているコケの実際の色から、「青苔」の「青」を、「嫩绿色~黄緑色」と理解した。
尚、俳句では、「コケ青し」が、夏の季語となっている。俳句季語辞典によれば、「夏にコケ類や地衣類が青々と茂ること」とある。
まず、俳句は江戸時代以降の文化である点に留意したい。又、ここで言う「青」は、Cyan~Blueの色を指しているのではなく、「力強く、若々しく」茂っている姿であると考えたい。
3. 「蒼」について
334温庭筠の詩文では、コケを「蒼苔」と表現している。「蒼」は、非常に広い範囲の色を指す。例えば、白居易の「卖炭翁」では、「满面尘灰烟火色,两鬓苍苍十指黑」と詠み、灰白色を指すし、「晋书·天文志中」では、「枉矢,类流星,色苍黑,蛇行」と「青黒色」を意味する。一般的には、「田园春色,绿色、青色、东方色」と解されている。
均茶庵は、上記「青」同様に「嫩绿色~黄緑色」と理解した。
4. 和漢朗詠集では、作家の名前を専ら略語で表ししている。詩文の引用も、これに準じた。以下を参照頂きたい。
白:(772-846)白居易、白楽天 唐
温庭筠:(812-870)唐
傅温:(生没年不詳)唐
菅:菅原道真(845-903) 日本
菅三品:菅原文時 (899-981) 日本
都:都良香(834-879) 日本
江:大江朝綱 (886-957) 日本
佐幹:平佐幹(生没年不詳)日本
国風:藤原国風(生没年不詳)日本
物部安興:(生没年不詳)日本
詩文の頭に付けた数字は、「和漢朗詠集」の作品番号を指し、「部立」を併記した。
送りかなは、現代文とした。日本語PCでどうしても出てこない漢字については、簡体字を使用した。ご了解いただきたい。
5.平安貴族の行動範囲を考えると、庭園及び近畿地方の物見遊山が精一杯だったろう。従って、和漢朗詠集のコケがどんな種類かをイメージする時には、その行動範囲内に生える、ごく一般的なコケだけを対象としよう。奥深い山地や南方の島々に生える種、あるいは、稀覯種は、取り敢えずコケの対象から除いて考えよう。
但し、詩文が深山を詠っている場合には、その限りではない。
各首の最後に、均茶庵の鑑賞を載せた。 220916 均茶庵