総合S-----精進料理Sレポート

多種多様な講義がある京都造形芸術大学の通信教育部です。

その中で、精進料理のスクーリングを受けてきました。

精進料理の精神を学ぶことができます。

初日、京都の台所の錦市場へ行っての見学。

今回は瓜生庵というところで講義です。

ここには厨房もあって、胡麻豆腐を中心に、

季節の野菜を使って料理をたくさん作って食べました!

美味しいものを食べておしまい...というわけにはいかず。

やはり大学の講義です。

今回はスクーリング受講後の、自宅制作レポートです。

合格がもらえたので載せてみます。(いい点数がもらえました)

1、精進料理の役割——————————————————————————————

人間が今の状態になる以前、生物として活動し始めた瞬間、何を食したのであろうか。食べることは人間が文化的活動を意識する以前から行われてきた営みである。生物の根本的活動である食べるという営みは、人間が存在し続けるまで尽きることなく続けられる。優れた思想や美しい芸術があれども、食すことをしなければ維持ができない。人間の様々な文化的活動の中で、これほどあたり前でありながら深い人間の文化的営みはない。

様々な文化活動の中で、人間の叡智や芸術の美的創作活動でさえも、食の文化には太刀打ちできない崇高な営みではないだろうか。日本という自然環境の中で、1つのジャンルとして確立した精進料理。四季のある日本で、季節ごとの多彩な食材を創意工夫しながら料理し、自然と共に移ろい行く。自然の中に生かされた人間の存在を確認し、体の真から生きることを楽しむ。そして、動物性の食品を極端にまで排した食事は「生きること」を意識し、生命の尊さを考える上で良き役割を果たすのではないだろうか。

2、食から考える日本——————————————————————————————

良きものあれば、悪しきものあり、人の世は対立するものによって美しいものが輝きを増す。とても残念なことではあるが、悪しきものを知ることによって、良きものが見つめなおされる。しかし、現代の日本人のあまりにも食に対する短絡的な扱いに、今回の講義で驚かされることとなる。現代社会では明治以降の人口増大で、食料を確保するために大量生産を必要とし、合理的に生産され続けてきた。そして、経済大国として成り立つ現状の日本は、資本を元に他国から食料を輸入することで国民の食を確保するようになった。しかし、危険な食材が潜むものと思いつつも、他国からの輸入によって食料を確保する状況でもある。

精進料理の精神は現在の日本国家の在り方にまで影響することではないだろうか。そして企業の実態にまでも考えさせられることでもある。現在の日本では、効率や利益、工業製品にあまりにも執着し、頭打ちの状態ではないだろうか。企業の損益を重視した経営、工業化による量産は人間の営みや精神性にも大きな問題を生みだした。このような混沌とした現状は、明治以降に西洋文化を受け入れることによって始まったのではないだろうか。しかし、様々な異国の文化を受け入れ続けてきた日本である。今の状況は、東洋的思想や自国の文化を再考するための1つのステップであると考えたい。

生きる為には食さねばならない。現代の世俗の脱力感や混沌とした現状を打破するために、新たな制度やシステムの運用を考えるよりも、もっと簡単なことがある。生きる為に最も大切な食を再考することである。精進料理の宗教感からくる精神性は、現代の日本で失われつつある和の心を取りもどすための、主要な立脚点となるのではないだろうか。

例えば、「職=食」である。現状の食料自給率の改善を目指し、農耕という仕事に重要性と魅力を感じるようにすると、現状の失業率の問題を自然と解決することもできる。精神的な作用にまでも左右する食物を再考することによって、若い世代の無力感やニートなどの日本の諸問題を解決する糸口が精進料理にはある。

現状の日本は停滞しているのかもしれない。しかし、まだ札は残されている。豊かな自然がある国土は恵まれた環境である。これまで西洋化されたシステムを、日本らしさを復興するだけで国力というものは自然と活性化するのではないだろうか。この国に生きていることに幸を感じ、自然と共に営むことに豊かさを感じるようにする。生物として、人間としての根底にある食文化「精進料理」は、食すことを正すこと以外にも、無限の可能性を秘めている。和の国の文化として、精進料理を突破口に現在の停滞した国力が回復する契機となるはずである。

3、芸術的生活をするために———————————————————————————

精進料理を世界に向けて発信し、世界の人々が穏やかな日常を取り戻し、平和な世界へと導くことができるのではないだろうか。美しく生きるために日常の生活を穏やかにする、宗教的な発想から生み出された精進料理は、日本でも誇り高き食文化である。

思想によって人々は争うこともするし、穏やかな世界をも造ることができる。今回の講義で学んだこと、精神性に影響を与える食は、日常の生活以外にも、芸術家の創作活動にまで影響を与えることもするだろう。私自身、一人の芸術家として食を正すことによって魅力あふれる作品を生むことができるのではないだろうかとも考えた。現世を誠実に生活するために、「生きる」とは何か、「美しく」あるものとか何か、食材を通じ、自然の「気」をもらうと考える精進料理に学ぶことはたくさんありそうである。

自然の四季の移ろいと共に時間を過ごし、食から様々な自然の気をもらうことによって、大地の真理が感じられるかもしれない。地球に生きる人間として、人間の在り方を再考しなくてはいけない現代に、精進料理を体験することによって、すべての人々が美しく生きること、芸術的な生活を再考してもらうためのよい機会となるのではないだろうか。

参考文献————————————————————————————————————

・棚橋俊夫『野菜の力 精進の時代』2008年3月30日 河出書房新社

・鳥居本幸代『精進料理と日本』2006年4月30日 春秋社