大学院-芸術環境論特論-第2課題

自分の住まう地域の芸術家や職人を取材し、まとめるという課題でした。

私の場合、友達に左官職人さんがいたので、取材させてもらいました。

友達のお陰さまで一度で合格!

助かりましたー。

終わったあとなので言えるのですが、自分で調べるって楽しいです。

学生の身分で書いたものなので、あくまでも参考程度にしてください。

芸術環境論特論 第2課題 レポート

———————————————————————————

私の居住する地、京都の職人

「左官職人」について

活動と、成立・伝承の環境

———————————————————————————

1.左官職人 活動について————————————————————————————

家は人が生活するために不可欠なものである。自然から雨風をしのぎ、人間のグループの最小単位である家族、そして人々のコミュニティーの場として建物が造られる。その建物を建設するためには、多くの職人の手によって完成される。その中で、壁を造る「左官」という職人がいる。建築業界でも「官」という位や地位を表す言葉が入った業種として特別なものを感じる。このレポートは、私の友人である京都で左官業を営む田中淳史氏の取材を元に、左官職人について記述する。

昔は、家を建てるその地で産出する土を利用して壁が造られ、地方それぞれに特色のある壁面材料や工法があったそうだ。しかし、現代は物流の発達によって様々な物資が輸送でき、便利になった反面、全国に平均的な建築物が増え、地方性も失われつつある。特に明治以降は業界にとって変革期で、セメントが出現し、手間と時間が必要となる伝統的な土壁の仕事は減少しはじめた。現代は、短期的な建設が求められる中で、行程を少なくし、亀裂の心配がない樹脂系材料の開発も進められているが、コストを抑えるために壁紙による施工が大半を占めるようになった。活動は、基本的に設計者と施工主の依頼がなければ行なえないし、伝統的な工法も注文がなければ技術を発揮することができない。漆喰や土壁による伝統技法で施工される機会が少なく、現代は技術の伝承もおこなえない状況となっている。

左官仕事にとって、施工後の壁の剥落と亀裂が問題となる。特に外壁となると天候や気候に左右されるので、施工後すぐに結果が得られず、経年劣化による影響が心配される。セメントや新しく開発された樹脂系材料は強度の確保と作業日数を少なくすることができるが、しかし、セメントの素材感は無機質に感じられ、また樹脂系塗材を利用した壁面は、材料に含まれる揮発性有機化合物による健康被害がではじめ、新技術や革新としてあまり見られていない。セメントを扱う仕事も1つの左官業として成り立つが、職人としてはあまり好まれていない。明治期までに培われた漆喰や土壁が施工される機会が少なくなった現代、職人の中にも伝統工法が失われつつある状況に危機感がもたれている。材料の仕込み、下地、中塗り、仕上げと伝統的な工法は多くの行程を必要とし、工事期間の短縮とコストを押さえることが望まれる社会では、伝統工法は利点が少ないものと思われているようである。また、施工した環境に影響を受けてしまう壁面は、長年の自然環境との馴染みの中で答えが徐々に現れてくる。善し悪しの判断は年月を必要とし、左官職人の育成も難しいものにしているようである。

左官にとって最も重要となるのが材料の土である。壁材の調合は基本的には環境や季節によって変化するもので、1つの正しい方法というものはなく、現場で職人がその場から受けた感覚的なものでおこなわれてきた。地域によってもかなりの調合方法の差があるようだ。現在、伝統的な壁面に利用されてきた土は入手しにくい状況となっている。茶室に好まれる聚楽土も、唯一京都の中央部で採取できる場所が宅地化し、入手困難となっている。そのような中、材料メーカーも調合材料の開発が進められているようである。今は、職人によって、伝統的な材料以外にも、新たに利用できる壁土を見つけ出すことも行われている。山間部や工事現場などへ出かけ、利用できそうな土を持ち帰り、サンプルを制作して長期にわたって実験し、新しい土壁を造ることが試みられている。

ほか、左官職人で重要なのは鏝である。仕上げる壁面によって種類が豊富にある。その鏝を造る職人も現状は少なくなりつつある。昭和初期には京都にも鏝鍛冶が数名いたそうであるが現在は絶えてしまっている。現在、関西圏では兵庫県三木市が金物の町として有名で、数名の鏝鍛冶職人によって希少な鏝が製造されている。特殊なものは特別に発注され、左官職人と鏝鍛冶職人と共に共同で鏝が制作されている。時には、骨董市などで古い上物の鏝が見つかる場合もあるそうだ。

住宅の壁面は部屋の印象に大きな影響を与える。壁面も依頼通りの施工を行う場合もあるが、設計者と施主のイメージを探るために様々な壁面のサンプルが造られることもある。近年は職人の立場から壁面のプレゼンテーションをする人々があらわれ、伝統工法の魅力をアピールする人々がでてきている。

京都では、古い建物の解体修復が少なからずあり、技術を継承する機会も残されている。土壁は剥がして再利用することができる。しかし、解体修理の際、大ばらし工法によって現状のままで取り外され、そのままの状態を保存する場合もある。土壁は時間の経過によってつくられる風合いにも魅力があり、左官職人は長い年月をかけて、自然と共に壁を完成させることも考えている。現在、短期的な工事や、新しく造り変えること、施工した状態を維持することが求められる場合が多く、職人以外の人々の中では、伝統的な土壁の良い点や、利点の理解が乏しくなってきているようだ。

今回おこなった取材では、京都の社寺や市内を巡ながら、それぞれの壁の魅力を語っていただいた。施工後、自然とともに変化する壁、私自身も普段なにげなく見る壁の楽しみ方を教えていただくことになった。魅力ある壁は、職人の技術と自然の力で成立するようである。

(2170文字)

2.成立と伝承——————————————————————————————————

左官の名の由来は、意外とはっきりとはわかっていない。古い史料では、「可部奴利」や「土工」など、作業と一致する名で記されていたが、16世紀末あたりから、一般の者が入れない宮中の工事で、立ち入るために臨時で位を授けたことが始まりではないかとされている。

土壁は、人間が居住を必要とするようになって徐々に成立したことになる。日本では、まずは仏教伝来の頃に大陸から様々な文化と共に土壁の技術も伝えられ、奈良時代には土工司といわれる役所が設けられる。平安時代から漆喰壁の原料である消石灰の製造が始められるが、高価な材料であったため重要な部分にしか施工されなかったようだ。大きく発達したのは築城が盛んにおこなわれた桃山から江戸時代にかけてで、本格的な漆喰壁が登場する。また食料や家財を守るため、防衛や防火性が高い土蔵が造り始められ、需要が増大すると共に技術も飛躍的に上がった。そのころには茶の湯文化が始まり、茶室や数寄屋造りに合った侘び寂びを追求した土壁も登場、江戸時代には現在の伝統的な塗壁工法のほとんどが出そろい始める。そして明治期に輸入されたセメントと共に西洋建築ブームがはじまり、左官業界も大きく変化。現代は、一般住宅では壁紙による施工が大半を占め、大型建築も鉄骨とセメントが利用させるようになり、明治以前の伝統工法が使われなくなってしまった。しかし、近年は土壁が再注目されはじめ、施工コストに負担がかからないよう、行程をへらす為の時代に合った新しい既成壁材が開発されるようになった。

技術は盗んで学ぶ。職人世界では良く聞く言葉である。左官業界もそのような世界で、行程や現場の状態、湿度や季節、教えることができない手応えなど、複合的な要素を感覚的に捉えないといけない作業が多く、伝承を難しくしているようだ。大工仕事のように、図面や書式として表しにくい作業行程を必要とするため、反復と経験の積み重ねが大切とされ、施工後の経年変化を観察することも技術の習得に必要になる。

重要文化財級の建物でも、壁については施工方法や材料の具体的な史料が残されていない。それは、季節や天候、現場の状況から材料や施工方法に応用を利かせなくては行けないことも関係する。そのような、経験の中で築かれた技術は、職業上秘密とされ、他者へ教えることも少なかったようである。また、一人の職人の技術として、師弟関係の中ですら教えることを拒む場合もあったようだ。現在、土壁や漆喰壁の施工が少なく作業を盗み取る場がなくなりつつあり、技術の伝承が危ぶまれている。

その中、京都では大戦での空襲の被害がなく、文化財級の建物が多く残された町で、古い壁が現存する恵まれた環境である。修復工事の際にも、解体することによって作業工程を分析し、材料の研究もおこなうことができる。そこから個々の職人が独自に壁面を調べ、実験的にサンプルを制作して技法の研究が行われている。また、その得られた情報を広く普及させるため、技術研究会を行っている場合もあるそうだ。現在は、伝統工法がなくなりつつある危機感から、それぞれの左官職人の熱意によって技術が保たれている。

(1292文字)

参考文献————————————————————————————————————

・佐藤嘉一郎、佐藤ひろゆき著『土壁・左官の仕事と技術』学芸出版 2003年2月20日

・左官回話編集会議(代表 嶋岡尚子)編『左官回話 11人の職人と美術家の対話』包 2012年4月8日

・独立行政法人 雇用・能力開発機構 職業能力開発総合大学校 能力開発研究センター編『改訂 左官』平成20年3月31日

・福住治夫編『日本の壁-鏝は生きている』INAX出版 1999年9月20日

・山田幸一編『日本の壁』駸々堂出版 昭和57年5月10日