週刊朝日への要望書

「TPPで一人負けした日本」

週刊朝日2015年10月23日号「TPPで一人負けした日本」における遺伝子組み換え作物の安全性に関する記事について、11月5日付で編集局長宛の要望書を郵送しました。

11月13日付で週刊朝日編集長よりご回答をいただきました。その後、編集長の交替があったとのことで、新編集長にこれまでの経緯を説明しました。

≪FSINからのレター≫

2015年11月5日

週刊朝日 編集局長殿

食品安全情報ネットワーク(FSIN)

http://sites.google.com/site/fsinetwork/

10月23日号「TPPで一人負けした日本」における

遺伝子組み換え作物の安全性に関する記事への要望書

食品安全情報ネットワーク(FSIN)は、食品の安全に関する必要な情報を収集し、科学的な立場からこれを検証し、自らも科学的根拠がある情報発信をすべく日々活動している、学識経験者、消費者、食品事業者、メディア関係者等の有志による横断的なネットワーク組織です。

貴誌2015年10月23日号、25ページ「TPPで一人負けした日本~遺伝子組み換え食品増、保険崩壊 TPPで脅かされる日本の医療、食、健康」という見出しの記事を拝見しましたが、誤った説明がございますので、情報提供および訂正の要望をさせていただきたくご連絡いたしました。

記事では、TPP交渉で脅かされる食の安全性の例として、遺伝子組み換え作物を挙げ、「食品の安全性では、遺伝子組み換え(GM)作物がフリーパスになるだろう。GM作物は除草剤耐性や害虫を殺す毒素を持ち、摂取すると発がん性など人体への悪影響も指摘される」と記載していますが、これは事実ではありません。

遺伝子組み換え作物は、食品、飼料、環境の安全性評価が義務付けられており、安全性が確認されていないものは、そもそも流通してはならないことになっています。遺伝子組み換え食品の食品としての安全性については、国連食糧農業機関(FAO)・世界保健機関(WHO)の合同食品規格委員会(CODEX委員会)によって示された国際評価基準に基づいて評価されています。米国をはじめ各国もこの基準に基づいて安全性評価を行っております。日本ではこの基準に基づき、内閣府の食品安全委員会が食品としての安全性を評価し、厚生労働省が認可しております。発がん性などの人体への悪影響は確認されていません。

そもそも遺伝子や、遺伝子が作るタンパク質は、肉や魚、野菜など食品中に多く含まれており、その安全性は人類の歴史の中で証明されてきました。これは、遺伝子や、遺伝子が作るタンパク質が、人間の消化器官で消化されるためです。遺伝子組み換え作物についても、導入した遺伝子が作るタンパク質が、胃腸内ですみやかに消化、分解され、体内に蓄積して慢性的・長期的に毒素を持ったりアレルギーの原因となったりしないことが科学的に確認されています。除草剤耐性や害虫抵抗性の遺伝子組み換え作物においても、遺伝子由来のタンパク質が人間にとってアレルギーの原因になったり毒素を持つものではないことが確認されています。害虫抵抗性の殺虫タンパク質は、特定の害虫にのみ効果を発揮するものであり、消化器官内にそのタンパク質の受容体を持たず、酸性の消化液でタンパク質を消化する人間に害はありません。

遺伝子組み換え作物の安全性を認可している厚生労働省のHPもご参照ください。

http://www.mhlw.go.jp/topics/idenshi/dl/qa.pdf

この国際的な安全基準のもとで、日本は1996年に輸入が認可されて以来、約20年にわたり、推定値で年間約1,500~1,600万トンの遺伝子組み換え作物(これは日本国内のコメ生産量の約2倍に相当します)を輸入し、食品原料や飼料として消費しています。遺伝子組み換えトウモロコシについては日本は世界一の輸入国です。そのほとんどが米国からの輸入で、健康被害などは一度も報告されておりません。

今回のような報道は、すでに多く輸入され、安全に食されている遺伝子組み換え作物について、根拠なく誤解と不安を読者に与えるものだと考えます。誌面において訂正し、正しい情報を提供してください。

なお、山田元農水相の発言として解説されている表示制度についてですが、遺伝子組み換え食品の表示制度は、安全性が確認された遺伝子組み換え作物について、流通する際に消費者の選択や情報提供のために設けられている制度で、安全性の基準や安全性を判断するための表示でありませんので、お伝えいたします。

上記について、11月19日までにご回答をいただければと存じます。何卒よろしくお願いいたします。


なお本状は、FSINのホームページ等でも公開いたしますので予めご了承ください。また、情報の公開性を担保するために、貴社のご対応についても公開したいと考えていることも予めお伝えいたします。

なお、NPO法人「くらしとバイオプラザ21」が先ごろ、遺伝子組み換え食品、について、報道関係の皆様に知っていただきたいことを冊子にまとめておりますので、ご参考まで同封させていただきます。

以上

≪週刊朝日編集長からの回答≫

2015年11月13日

食品安全情報ネットワーク御中

朝日新聞出版 週刊朝日編集部

編集長 長友佐波子

(連絡先省略)

謹啓

11月5日付けの「要望書」を拝受いたしました。

GM(遺伝子組み換え)作物については、動物実験では発がん性を確認する結果も出ています。また、その結果を受けて、人体への影響を心配する声があり、安全性について疑問視する学者や消費者団体もあります。ヨーロッパではGM作物は厳しく規制されています。

このようにGM作物の安全性を懸念する専門家もいる中、今回の記事は、TPPによってGM作物が「フリーパス」状態で国内で流通することを危惧する声を紹介したものであり、GM作物の安全性そのものを論評するものではありません。

ご理解いただけましたら幸いです。

謹白

≪FSINからのレター2≫

2015年12月4日

週刊朝日 編集部

編集長 長友佐波子様

食品安全情報ネットワーク(FSIN)

http://sites.google.com/site/fsinetwork/

10月23日号「TPPで一人負けした日本」における

遺伝子組み換え作物の安全性に関する記事のご回答について

上記記事について11月5日付けでお送りした質問書について、11月13日付けでご回答いただき、ありがとうございました。

遺伝子組み換え作物の安全性について訂正をお願いいたしましたが、いただいたご回答について依然、疑問がありますので、再度質問させてください。

1.

「GM(遺伝子組み換え)作物については、動物実験では発がん性を確認する結果も出ています」とのことですが、これはどの実験を指しておられるのか教えてください。

なお、2012年9月にフランスのセラリーニ氏が遺伝子組み換えトウモロコシを用いた2年間の長期毒性試験で発がん性が確認されたと発表した論文については、日本の食品安全委員会や、欧州食品安全機関(EFSA)、ドイツ連邦リスク評価研究所(BfR)等、多くの海外の食品安全審査機関が内容を精査し、試験動物数が少ない、試験に用いたラットの種類が不適切である、十分な対照群が設定されていないなど、科学的評価のための試験デザインを欠いているとして、いずれも論文の信頼性を否定しました。最終的にこの論文を発表した学術誌Food and Chemical Toxicologyは、論文掲載を取り消しました。

FSINでもこの問題について、日本の毒性学の専門家である一般財団法人残留農薬研究所毒性部長の青山博昭博士からコメントいただき詳しく解説しています。

https://sites.google.com/site/fsinetwork/jouhou/gm_maize

科学的根拠に基づく食の安全情報を提供する消費者団体であるFOOCOMの以下のサイトでも分かりやすく解説されていますのでご参照ください。

http://www.foocom.net/special/11012/

2.

「ヨーロッパではGM作物は厳しく規制されています」とありますが、これはどのようなことをおしゃっているのでしょうか。

欧州食品安全機関(EFSA)による科学的安全性審査のもと、EUは73種の遺伝子組み換え作物(2014年10月時点:ISAAA 国際アグリバイオ事業団調べ)を承認しています。

EUは日本同様、大豆を中心に遺伝子組み換え作物を多く輸入、消費しています。例えばEU全体で、飼料用の大豆ミール2,850万トン、大豆換算で3,610万トンを消費していますが、このうち3,500万 トン以上に相当する約97%は遺伝子組み換え大豆が大半を占める米国等からの輸入大豆です(USDA 2015)。

また栽培については、スペインが13万ヘクタール以上の遺伝子組み換えトウモロコシを栽培する栽培大国であるほか、ポルトガルやルーマニアなどでも栽培が進んでいます。2015年3月に、環境放出指令が改定され、遺伝子組み換え作物の栽培については加盟国で個別に判断、規制できるようになりましたが、栽培規制は、農業政策等の安全性以外の理由に限定されています。

表示制度はありますが、日本と同様に、表示制度は安全性の問題で遺伝子組み換え作物の流通を制限するようなものではなく、消費者の選択を目的としたものです。


上記について、12月14日までにご回答をいただければと存じます。何卒よろしくお願いいたします。

なお本状は、FSINのホームページ等でも公開いたしますので予めご了承ください。また、情報の公開性を担保するために、貴社のご対応についても公開したいと考えていることも予めお伝えいたします。

以上

≪週刊朝日編集長からの回答2 ≫

2015年12月11日

食品安全情報ネットワーク御中

朝日新聞出版 週刊朝日編集部

編集長 長友佐波子

(連絡先省略)

謹啓

12月4日付けの再質問書を拝受いたしました。

ご質問の点について、お答えします。

1について

ご推察の通り、フランスのセラリーニ氏が発表した論文を指しています。この論文は確かに2013年11月、学術誌「Food and Chemical Toxicology」から撤回されていますが、 14年6月に他の科学誌「Environmental Sciences Europe」で再掲載されており、遺伝子組 み換え作物の安全性については結論が出ていません。

2について

EUにおいて、遺伝子組み換え食品は原則輸入が禁止されています。ご指摘の通り、遺伝子組み換え作物(大豆やトウモロコシ)の一部が輸入されていますが、これらは品種ごとに 欧州委員会の許可を取得したものです(日本貿易振興機構JETROホームページによる)。

EUでは、遺伝子組み換え作物の栽培の許可および禁止は加盟各国の自由な判断に委ねられるようになりましたが、現在、ポーランド、イタリア、ドイツ、オーストリア、フランス 、スロベニアなど14ヵ国で規制されています。

なお、表示制度はもちろん、ご指摘の通り、消費者の選択を助けることを目的としたものです。日本では、”遺伝子組み換え食品に関しての表示”が義務となっていますが、各企業が自主基準で「遺伝子組み換えではない」ことをわざわざ表示しているということは、消費者の遺伝子組み換え食品に対する警戒感に配慮しているためだと考えられます。

以上、ご理解いただけましたら幸いです。

謹白

≪FSINからのレター3≫

2015年12月24日

週刊朝日 編集部

編集長 長友佐波子様

食品安全情報ネットワーク(FSIN)

http://sites.google.com/site/fsinetwork/

10月23 日号「TPPで一人負けした日本」における

遺伝子組み換え作物の安全性に関する記事のご回答について

上記記事について12月11日付けのご回答いただき、ありがとうございました。いただきました回答について以下のように情報提供させていただきます。

1について

ご指摘のとおり、セラリーニ氏の論文は「Environmental Sciences Europe」に掲載されましたが、「Food and Chemical Toxicology」で科学論文としての不備が指摘された内容のままであり、科学論文の信頼性の指標となる第三者によるピアレビュー(査読)を経ずに掲載されたもので、世界中の食品安全評価機関において科学的信頼性が否定された事実に変わりはございません。

2について

EUにおいて、遺伝子組み換え食品の輸入が原則禁止されているという事実はございません。遺伝子組み換え食品の安全性評価は、国際基準に基づき、EUに限らずすべての国で、作物の品種ごとに行われるもので、品種の認可に基づき、食品や飼料として輸入され流通しております。


なお、文書だけでは分かりにくい点もあると思いますので、可能でしたら一度面談の上、情報交換をさせていただければ有難く存じます。別途ご連絡させていただきます。

なお本状は、FSINのホームページ等でも公開いたしますので予めご了承ください。また、 情報の公開性を担保するために、貴社のご対応についても公開したいと考えていることも予めお伝えいたします。

以上