女性自身への訂正要望及び質問

「がん発症リスクの除草剤が日本で野放しに!」

2018年9月18日

女性自身 編集長

内野成礼様

食品安全情報ネットワーク(FSIN)

http://sites.google.com/site/fsinetwork/

「がん発症リスクの除草剤が日本で野放しに!」と題した記事についての

訂正の要望及び質問

食品安全情報ネットワーク(FSIN)は、食品の安全に関する情報を収集し、科学的な立場からこれを検証し、自らも科学的根拠がある情報発信をすべく日々活動している、学識経験者、消費者、食品事業者、メディア関係者等の有志による横断的なボランティア・ネットワーク組織です。

―訂正の要望と質問と事実確認―

貴誌「女性自身」(2018年9月4日号)に掲載された「がん発症リスクの除草剤が日本で野放しに!~アメリカの悪性リンパ腫患者が起こした裁判で、メーカーに賠償金320億円支払い命令が」と題する記事で、農薬の発がん性や安全性に関する記述で、読者に誤解を与える内容があると考えます。

以下のように訂正の要望と質問がございます。お忙しいところ恐縮でございますが、10月1日までに、ご回答を頂きますようお願いします。

また、間違いの訂正につきましては、誤った情報を信じてしまったと思われる貴誌の読者に的確な情報が届きますよう、いずれかの号でぜひ訂正を載せていただけますようお願いします。

1 記事への見解

まず、記事全体に関する私たちの見解を述べさせていただきます。

記事では「日本で野放し」「日本の規制が緩い」ということが強調されておりますが、グリホサートに限らず、日本で使用される農薬はすべて、農薬取締法にもとづき、ヒトに対する安全性や環境に対する影響などの様々な試験が実施され、その結果が審査されて登録されます。登録された農薬は、農作物と人や動物、環境に影響を及ぼさない使い方が「使用基準」として定められ、その基準を遵守すれば安全性に問題が無いことが科学的に証明されており、野放し、規制が緩い、という事実はありません。


2 間違いの指摘

①一つ目の間違い

除草剤グリホサートに関する記載で、記事では「それを受けてか、’15年にはオランダが「ラウンドアップ」を販売禁止に」とあります。この文章を素直に読めば、どの読者も「オランダではラウンドアップは農地も含め全面的に販売禁止になった」と読めます。しかし、オランダで「ラウンドアップ」の販売が禁止された事実はありません。非農耕地で「ラウンドアップ」に限らず除草剤全般の使用が制限されていますが、農業などでは「ラウンドアップ」はいまも一般的に使われています。

この点に関しては、「オランダではいまも農地などで一般的に使用されています」という内容の訂正をお願いします。

②二つ目の間違い

以下の、平久美子医師(東京女子医科大学東医療センター麻酔科非常勤講師)による農薬の安全性についての考え方は間違いです。

記事で平医師は「日本の農薬政策は、発がん性が否定できなくても、食品残留量が十分に低ければ、使用そのものは問題ないというのが基本的な考え方です。しかし、設定された1日の摂取許容量は、店で売られている食品を買って食べるだけの人にも十分に達成可能な数字です」と述べています。

この文章を読めば、ごく普通の消費者が店で売られている食品を食べるだけで、1日摂取許容量に達してしまうと貴誌の読者は思ってしまうでしょうが、これは明らかに事実に反しています。

私たちが調べたところ、店で売られている食品を買って食べるだけで、1日摂取許容量(ADI:acceptable daily intake)に到達するということはあり得ません。厚生労働省は、平成28年度の調査において、いずれの農薬についても、推定された平均一日摂取量(μg/人/日)の対ADI比(%)は0.000%~0.933%の範囲であり、ADIと比較して十分に低いと発表しています。

また、グリホサートについても、平成23年度の調査において同0.07%と報告されています。

つまり、通常の食品を食べた場合、仮にラウンドアップが食品に残留していたとしても、1日摂取許容量に達するどころか、その許容量の1000分の1以下の摂取量でしかありません。明らかに平医師の試算は間違っています。

この点については、「通常の食品を食べても、ラウンドアップは1日摂取許容量に達することはありません」という訂正が必要と考えます。

▼以下は私たちの見解の根拠となる公的なデータです。

平成28年度 食品中の残留農薬等の一日摂取量調査結果

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000201935.pdf

平成23年度~24年度 食品中の残留農薬等の一日摂取量調査結果

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/23-24.pdf


3 情報提供と事実確認

●山田氏のコメントについて

以下の山田正彦氏(元農林水産大臣・弁護士)によるコメントについては、FSINから情報を提供させていただきます。

記事では「裁判は、世界でもっとも使用されている除草剤に対して、司法が“危険”だと審判したもの」(山田氏)とありますが、山田氏のコメントとはいえ、読者をミスリードする内容です。

米国での裁判の判決は、陪審員の評決に基づくもので、国際がん研究機関(IARC)の情報を原告に十分に伝えていなかったことに対する判決であり、科学的判断によってグリホサートの発がん性が認められたということではありません。

●平医師のコメントについて

以下の平医師のコメントについても、情報を提供させていただきます。

記事では「ラウンドアップの主成分であるグリホサートについて、WHO(世界保健機関)が管轄する国際がん研究機関(IARC)は動物実験によって、《おそらく発がん性がある》と判断を示しています。また発がん性以外にも胃腸障害、糖尿病、うつ、自閉症、肥満、アルツハイマー病などとの関連も疑われています。さらに内分泌をかく乱する作用があり、生殖機能に影響を与える可能性も指摘されています」(平医師)とありますが、これは非常に誤解を与える内容です。

また、記事では「IARCは動物実験によって」と記載されていますが、IARCが動物実験を実施したわけではなく、公開済みの動物実験や疫学調査などの一部のみを参考としており、発がん性を否定する数多くの論文を無視しているなど、カテゴリー2Aへの決定過程に関しては政治的な思惑もあったとの指摘が多くの専門家から出ています。

なぜ誤解を与えるかについては、以下の解説をお読みいただければと思います。やや専門的になりますが、グリホサートに関する科学的な情報です。

《グリホサートの解説》

除草剤の有効成分であるグリホサートは、800以上の試験を経て安全性が立証され、FAO(国際連合食糧農業機関)の農薬に関する評価報告書においては、①経口/皮膚接触による急性毒性が低い、②人に対して変異原性(DNAを傷つける事でガンの要因となる性質)を持たない、③世界中で長年にわたる利用実績に関わらず発ガン性を示した例がない、④生殖毒性(親の生殖能力や胎児への毒性)や催奇形性(胎児の期間に奇形を生じさせる要因となる性質)を持たない、と記載されています。

日本でも独自のリスク評価を行っています。

2015年3月にIARCがグリホサートをカテゴリー2A(ヒトに対しておそらく発がん性がある)に分類したのを受けて、日本の内閣府・食品安全委員会農薬専門調査会は詳しい精査・評価を行い、2016年に「神経毒性、発がん性、繁殖能に対する影響、催奇形性および遺伝毒性は認められなかった」(2016年3月24日)と結論付けています。

この結論は日本だけではなく、米国、カナダ、欧州連合、韓国、ニュージーランド、オーストラリアなど世界中の規制当局が「グリホサートに発がん性がない」ことを科学的検証によって公的に再確認しています。

さらに、2016年5月には同じWHO内で農薬の安全性評価を専門とするFAO/WHO 合同残留農薬専門家会議(WHO/FAO Joint Meeting on Pesticide Residues:JMPR)が、「グリホサートが食事からの暴露を通じて、ヒトの発がんリスクとなるとは考えられない」と結論付けています。

4 質問

最後になりますが、記事では「胃腸障害、糖尿病、うつ、自閉症、肥満、アルツハイマー病などとの関連も疑われています」(平医師)とありますが、どう考えても、科学的根拠に乏しい言説です。もし根拠となる論文があれば、ぜひ、教えてください。

この点については、仮にEntropy(2013, 15(4), 1416-1463 authored by Samsel and Seneff)の論文を根拠にしておられるとすれば、この論文は、すでに一度撤回された論文を引用するなど、科学的に評価できる論文とはとても思えないとFSINは自信をもって主張します。平医師にぜひ、どの論文を参照したかをお聞きになり、私たちに教えていただけますか。

私たちは科学を重視するグループです。もし上記のような症状や疾病と関係があるとする詳細な論文があれば、その論文を無視するようなことはいたしません。ぜひ、根拠を教えていただき、堂々と議論したいと考えています。

長々と述べてきましたが、それは貴誌の影響力が大きく、貴誌が報道機関として的確な情報を発信する大きな責任を担っていると考えるからです。報道機関で一番大切なことは読者から信頼されることです。誤った記事は、確実に訂正していただくことがその信頼を確保する道だと考えます。ぜひ、誠意あるご回答をお待ちしています。

本レターは、FSINのホームページ等において公開するほか、主要新聞社や主要週刊誌、主要テレビ局など約20社にも同時に送っていますので予めご了承ください。また、メディア記事を読み解き、判断する上で有用な情報として広く共有を図りたく、貴社のご対応についても公開させていただきます。