食品商業への質問状

「激変する日本農業の近未来」

食品商業(発行:株式会社商業界)8月号「激変する日本農業の近未来」について、2018年9月5日付で編集長宛の質問状を郵送しました。

11月7日に電話でご回答をいただき、11月14日付でそのご回答内容に関連して情報提供のレターを郵送しました。

記事には、「遺伝子組み換えの種子や遺伝子組み換え種子専用農薬、遺伝子組み換え食品は、米国における数百もの健康被害の実例から、実害リスクがかなり高いとみられており、これが問題なのである」との記載がありましたが、この根拠を問い合わせたところ「米国での除草剤ラウンドアップによる健康被害を訴える裁判が5千件ほど続くと予想されている」ことを回答されました。

これについて、①ラウンドアップ(有効成分:グリホサート)は遺伝子組み換え種子専用農薬ではないこと、②米国で裁判が相次ぐと予想されるきっかけはグリホサートを使用していた男性が、散布による健康被害を訴えた裁判であり、食品としての摂取等による健康被害ではないこと、③②の裁判はグリホサートと健康被害との因果関係を認めたものではないことを説明しています。

また、食品の安全性について正しい情報提供をされるように要望しました。

《FSINからのレター》

2018年9月5日

食品商業 編集長

竹下浩一郎 様

食品安全情報ネットワーク(FSIN)

http://sites.google.com/site/fsinetwork/

食品商業2018年8月号「激変する日本農業の近未来」と題した記事についての意見書

食品安全情報ネットワーク(FSIN)は、食品の安全に関する必要な情報を収集し、科学的な立場からこれを検証し、自らも科学的根拠がある情報発信をすべく日々活動している、学識経験者、消費者、食品事業者、メディア関係者等の有志による横断的なネットワーク組織です。

貴誌「食品商業」(2018年8月号)に掲載された「特別緊急レポート 激変する日本農業の近未来」と題した記事において、下記のような記載があります。しかし、これは事実ではありません。

「遺伝子組み換えの種子や遺伝子組み換え種子専用農薬、遺伝子組み換え食品は、米国における数百もの健康被害の実例から実害リスクがかなり高いとみられており、これが問題なのである」

遺伝子組み換え作物は、日本でも米国でも安全性評価が義務付けられていて、安全性が確認されていないものは、そもそも流通してはならないことになっています。

遺伝子組み換え食品の安全性については、国連食糧農業機関(FAO)・世界保健機関(WHO)の合同食品規格委員会(CODEX委員会)によって示された国際評価基準に基づいて評価されています。米国をはじめ各国もこの基準に基づいて安全性評価を行っております。日本ではこの基準に基づき、内閣府の食品安全委員会が食品としての安全性を評価し、厚生労働省が認可しております。

安全性評価においては、導入された遺伝子と、その遺伝子が作るタンパク質は、胃や腸内で速やかに消化、分解され、体内に蓄積して慢性的、長期的に毒性を及ぼしたり、アレルギーの原因にならないことが確認されています。

最も新しく、かつ包括的な安全性に関する報告書として、全米科学アカデミー、全米技術アカデミー、全米医学研究所は2016年5月17日、遺伝子組み換え作物の安全性を再確認する結論を発表しました。世界中の約900におよぶ試験や研究論文を厳密に検証し、20人以上の科学者、研究者、農業関係者からなる専門家が2年がかりで動物実験結果、アレルギー性についての研究結果に加え、北米およびヨーロッパのヒトの健康に関するデータを精査したものです。全米科学アカデミー、全米技術アカデミー、全米医学研究所による報告書の結論の概要は以下の通りです。

  • 商業栽培されている遺伝子組み換え作物と従来作物の間でヒトの健康リスクに差があるという証拠は認めらない
  • 遺伝子組み換え作物が、自閉症、肥満、がん、胃腸や腎臓の疾患またはアレルギーなどの健康被害となる証拠は認められない

日本は年間約1600万トンの遺伝子組み換え作物を輸入し、消費しており、トウモロコシについては世界第2位の消費量ですが、1996年から20年以上にわたる輸入において、一度も健康被害は確認されておりません。

なお、記事では「日本の承認件数は群を抜いて世界一」とありますが、承認件数の違いは、スタック(掛け合わせ)品種ごとの承認要否や国内での栽培試験の要否など、国による承認までのプロセスの違いによるものです。利用可能な遺伝子組み換え作物の数の違いを意味するものではありません。大事なことは承認件数の多少ではなく、承認された作物はすべて安全性が確認されているという事実です。

以上がFSINの理解ですが、「米国における数百もの健康被害の実例」について、その根拠となる研究データをまず教えていただきたく、お願いいたします。もしデータが無いのであれば、読者に遺伝子組み換え作物の安全性について誤った情報を与えるものですので、貴誌において正しい情報を提供していただくことを要望いたします。


本レターは、FSINのホームページ等において公開しますので予めご了承ください。また、メディア記事を読み解き、判断する上で有用な情報として広く共有を図りたく、貴社のご対応についても公開させていただきます。

以上

《FSINからの2回目のレター》

2018年11月14日

食品商業 編集長

竹下浩一郎 様

食品安全情報ネットワーク(FSIN)

http://sites.google.com/site/fsinetwork/

食品商業2018年8月号「激変する日本農業の近未来」と題した記事に関する

ご説明について

当会が意見書をお送りした上記記事について、お電話でご説明をいただき、誠にありがとうございました。

「遺伝子組み換えの種子や遺伝子組み換え種子専用農薬、遺伝子組み換え食品は、米国における数百もの健康被害の実例から、実害リスクがかなり高いとみられており、これが問題なのである」という記述について、「数百もの健康被害の実例」の根拠を示してほしいというのが当会の依頼でした。これについて、「米国での除草剤ラウンドアップによる健康被害を訴える裁判が5千件ほど続くと予想されている」ことが根拠であるとのご説明をいただきました。


ご説明により、「遺伝子組み換え作物」の健康被害ではなく、「除草剤」の健康被害の話をされているということが理解できました。これらは区別して考えるものですので、以下に整理して情報を提供させていただきます。

  1. ラウンドアップ(有効成分:グリホサート)は遺伝子組み換え種子専用農薬ではありません。遺伝子組み換え作物の栽培で使用されるケースが多いのは事実ですが、遺伝子組み換え作物を栽培していない日本でも、最も多く使用されている除草剤です。
  2. 相次ぐ裁判が予想されるきっかけとして、米カリフォルニア州、末期がんと診断された男性がラウンドアップが原因と訴えた地裁で、原告への賠償金の支払いが認められた最近のケースがあります。この男性は学校の校庭の雑草防除にラウンドアップ(実際にはジェネリック製品)を使用していて散布による健康被害を訴えていたのもので、遺伝子組み換え作物の栽培や、遺伝子組み換え作物の食品としての摂取による健康被害を訴えたものではありません。
  3. 上記裁判は陪審員の評決に基づくもので、国際がん研究機関(IARC)の情報を原告に十分伝えていなかったことの責任を問う判決であり、科学的判断によってグリホサートの発がん性が認められた、健康被害との因果関係が認められた、ということではありません。IARCの件を含め、グリホサートの安全性に関する詳細は※をご参照ください。

最後に貴誌は、小売流通業の関係者に信頼されている雑誌と理解しております。食品の安全性は小売業者の皆様にとって最も重要な問題です。ぜひ正しい情報を提供していただきたく、よろしくお願いいたします。


除草剤の有効成分であるグリホサートは、800以上の試験を経て安全性が立証され、FAO(国際連合食糧農業機関)の農薬に関する評価報告書においては、①経口/皮膚接触による急性毒性が低い、②人に対して変異原性(DNAを傷つける事でガンの要因となる性質)を持たない、③世界中で長年にわたる利用実績に関わらず発ガン性を示した例がない、④生殖毒性(親の生殖能力や胎児への毒性)や催奇形性(胎児の期間に奇形を生じさせる要因となる性質)を持たない、と記載されています。

2015年3月にWHOの一機関である国際がん研究機関(International Agency for Research on Cancer, IARC)がグリホサートをカテゴリー2A(ヒトに対しておそらく発がん性がある)に分類したことが話題になりましたが、これを受けて、日本の内閣府・食品安全委員会農薬専門調査会は詳しい精査・評価を行い、2016年に「神経毒性、発がん性、繁殖能に対する影響、催奇形性および遺伝毒性は認められなかった」(2016年3月24日)と結論付けています。この結論は日本だけではなく、米国、カナダ、欧州連合、韓国、ニュージーランド、オーストラリアなど世界中の規制当局が「グリホサートに発がん性がない」ことを科学的検証によって公的に再確認しています。ちなみにIARCが2Aと判断したものには赤肉などもあります。

さらに、2016年5月には同じWHO内で農薬の安全性評価を専門とするFAO/WHO合同残留農薬専門家会議(WHO/FAO Joint Meeting on Pesticide Residues:JMPR)が、「グリホサートが食事からの暴露を通じて、ヒトの発がんリスクとなるとは考えられない」と結論付けています。

以上