京都新聞への要望と意見

《宮津市ふるさと納税返礼品 ゲノム編集魚採用に波紋》

2022年5月19日

株式会社京都新聞社

編集局長殿

食品安全情報ネットワーク(FSIN)

http://sites.google.com/site/fsinetwork/

4月28日 京都新聞 地方版 朝刊「宮津市ふるさと納税返礼品 ゲノム編集魚採用に波紋」

と題した記事に関する要望と意見

メディアチェック集団「食品安全情報ネットワーク(FSIN)」は、食品の安全に関する記事やニュースを科学的な立場から検証し、自らも科学的根拠に基づく情報発信をすべく日々活動している、学識経験者、消費者、食品事業者、メディア関係者等の有志による横断的なボランティア・ネットワーク組織です。

●要望の趣旨●

貴紙4月28日付朝刊地方版の「宮津市ふるさと納税返礼品 ゲノム編集魚採用に波紋」との見出しの記事と、同日インターネットに「ゲノム編集で開発のフグ、ふるさと納税返礼品に採用で波紋 京都・宮津」との見出しで配信された記事は、ゲノム編集食品に対する科学的な説明が十分でなく、公平性を欠いた内容だと考えられます。今後、同様のテーマで記事にされる場合は、危険や不安に思う人たちの声だけを取り上げるのではなく、ゲノム編集食品の持つ意義、そして安全性に対する国や科学者の見解も記事中に記して、公平性を期すようお願いいたします。

以下、私たちの見解を述べさせていただきます。

1.安全性に関する見解

記事では、「市民からは困惑の声が上がる。施設近くで遊漁船を営む女性(紙面では井口裕子さん)が、「食の安全性が確保されていないのに、十分な説明もないまま全国に発信してしまうと、みんなが『安全な食品だ』と思ってしまう」と危惧する」とあり、まるでゲノム編集のフグの安全性が確保されていないような内容となっていますが、これは大きな誤解を読者に与えます。

ゲノム編集で開発されたフグは、自然に起こる突然変異や従来の品種改良で生じる遺伝子の変化の範囲内であることから、食品としての安全性は従来の食品と同等と考えられています。これは、これまでに国(厚生労働省、農林水産省、環境省、内閣府食品安全委員会、消費者庁)が、ゲノム編集食品に関して、安全性の審査が必要かどうかを専門家会議で審議し、その結果、ゲノム編集食品は外部から遺伝子を入れる遺伝子組み換え食品とはみなされず、従来の品種改良(人為的突然変異を利用する技術も含む)と変わらないという結論に至ったことから導き出された考えです。

そして、ゲノム編集食品を流通させるには、開発した事業者が国(厚生労働省)へ「届出」する必要がありますが、届出には「食品安全に関する情報」も含まれています。この情報には、「有害な物質が生成されていないか」「アレルギーを引き起こす物質が生じないか」「外部からの遺伝子が入っていないか」などが含まれ、国の専門家によって厳しく審査されることになっています。この審査は1年以上にわたり、開発者からは「国による実質的な審査と同じだ」という声が出ているほどです。

今回のゲノム編集フグも、厚生労働省に「届出」を行っており、その上で流通が認められたものです。このため、ふるさと納税品に採用されたゲノム編集フグの食の安全性は確保されていると考えるのが妥当です。

記事後半に永濱敏之産業経済部長の「国が定めた通知に基づき届け出がなされていることから安全」とのコメントはあるものの、届出によりどう安全を確保しているかの説明がないため、これを読んだ人は「宮津市がふるさと納税品として採用したゲノム編集フグは、安全性が確保されていない」と思うのではないでしょうか。

新聞記事は個人のブログとは違います。ゲノム編集食品に対して不安を抱く消費者の声を取り上げる場合、多くの人が読む記事の公益性を考えれば、その声が単なる思い込みか、科学的に正しいものか、しっかり裏どりすることが重要ではないでしょうか。

2.環境に対する見解

同じ女性のコメントで「1匹でも(ゲノム編集された魚が)海に出てしまったら、大変なことになる」とあります。ただ、宮津エネルギー研究所ホームページの飼育説明では「魚が外海に逃げ出さないよう、飼育水槽は陸上養殖施設に設置」とあります。記事では「陸上養殖」であることには触れておらず、記事を読んだ人は、通常の養殖のように海の沿岸に柵を設けて養殖していると考え、女性のコメントから、卵や稚魚がすぐにでも流出しかねない状況にあると思うのではないでしょうか。これもまた事実を確認して書かれたものとは思えません。

以上、2点について私たちの見解を述べさせていただきました。今後、私たちの要望がゲノム編集食品に関する記事に反映されることを願っています。

私たちの要望・意見に対して、貴編集部のご意見をいただけますと幸甚です。ご意見は5月31日までに事務局へ電子メールにてお願いします。

※本レターは、FSINのホームページ等において公開するほか、主要新聞社や主要週刊誌、主要テレビ局など約20社にも送りますので予めご了承ください。また、メディア記事を読み解き、判断する上で有用な情報として広く共有を図りたく、貴社のご対応についても公開させていただきます。