共同通信への情報提供およびお願い

「遺伝子組み換え菜種の自生拡大」

2013年1月28日付の信濃毎日新聞「遺伝子組み換え菜種の自生拡大」という記事に関し、共同通信からの配信に基づくことが明らかとなりましたので、2月8日付で共同通信社編集局長宛にFSINからレターを郵送しました。

2月18日に共同通信社科学部長の長澤克治様よりご回答をいただき、2月26日には電話でお話しさせていただきました。

<FSINからのレター>

2013年2月8日

共同通信社 編集局長殿

食品安全情報ネットワーク(FSIN)

http://sites.google.com/site/fsinetwork/

静岡新聞 1月21日付「組み換え菜種自生拡大、交雑も」

信濃毎日新聞1月28日付「遺伝子組み換え菜種の自生拡大」

記事に関する情報提供およびお願い


時下ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。貴通信社から配信される情報は各紙を通じて広く日本全国に伝わるもので、貴通信社が果たす役割の重要性は深く認識しております。

食品安全情報ネットワーク(FSIN)は、食品の安全に関する必要な情報を収集し、科学的な立場からこれを検証し、自らも科学的根拠がある情報発信をすべく日々活動している、学識経験者、消費者、食品事業者、メディア関係者等の有志による横断的なネットワーク組織です。

標題の2紙に掲載※されている貴通信社の配信記事を読みました。これらの記事に関して、以下の事実があることをお知りおきください。もし可能であれば追加配信をお願いしたいと考えております。なお、この文書は静岡新聞様、信濃毎日新聞様にも既に送付しております(情報1は今回の追加情報です)。

※信濃毎日新聞様より当該記事は貴通信社の配信記事であると伺いました。静岡新聞様には確認を取っておりませんが、記事内容がほぼ同一であったため併記いたしました。

【情報提供】

1.雑草のハタザオガラシとの交雑とみられる個体も三重県で見つかった」について

オーストラリア連邦政府遺伝子技術規制局(OGTR)が発表している、Brassica属のナタネ(B. napus)と交雑可能な近縁種のリストにハタザオガラシ (Sisymbrium altissimum)は無く、ハタザオガラシと同属のSisymbrium属の4植物種についてナタネとの交雑が成功した事例はないとされています。またナタネの種間交雑可能性について既存の文献をレビューしてまとめたFitzJohn et al(2007)という文献でも、Sisymbirium属に属する植物種と交雑した事例は認められていません。三重県で確認されたと河田昌東氏が主張する交雑個体が、本当にハタザオガラシとの交雑体であるかどうか、検証が必要です。

2.2010年に行われた同様の報道について

記事中の河田昌東氏は2010年にも遺伝子組換えナタネがアブラナ科のイヌガラシ(野生植物)と交雑した植物が発見されたと主張し、各紙で報道がなされました。河田氏らが分析を依頼した国立環境研究所による分析の結果、当該植物がイヌガラシとの交雑個体であることは否定されました。(添付資料)。しかし、この結果はほとんど報道されなかったため、遺伝子組換え作物と野生植物が交雑した植物が発見されたと思っている読者がいます。

3.環境安全性評価について

輸入品を含めて日本の市場で流通する遺伝子組換え食品の安全性は、食品や飼料としての安全性だけでなく、環境中の安全性についても評価が行われ、すべての評価をパスしたものだけが流通できる仕組みが法律で定められています。環境評価(生物多様性への影響評価)では、「遺伝子組換え植物が野生植物を駆逐しないか(競合における優位性)」、「野生の動植物や微生物などが減少しないか(有害物質産生性)」、「近縁種が交雑種に置き換わることがないか(交雑性)」について評価が行われており、今回記事に出てくる遺伝子組換えナタネについても、これらすべての評価で問題がないことが確認されています。

4.環境省および農林水産省による調査について

環境影響に対する法規制が適正に行われているか確認するために、環境省は平成15年度より、農林水産省は平成18年度より、国内での遺伝子組換えナタネの分布状況を調査しています。

環境省のサイト:http://www.bch.biodic.go.jp/natane_1.html

農林水産省のサイト:http://www.maff.go.jp/j/press/syouan/nouan/120912.html

これらの調査では、遺伝子組換えナタネと在来ナタネとの交雑は確認されていますが、記事にある「カラシナとの交雑」は確認されていません。数個体の遺伝子組換えナタネが自生しているような条件下ではカラシナとは交雑がたいという論文もあります(Tsuda et al. 2012)。また、遺伝子組換えナタネの生育は確認されていますが、生育範囲の拡大は見られていません。

【お願い】

貴通信社が配信記事で伝えられた今回の調査結果を、各紙の読者が適切に理解するためには、環境省や農林水産省など国の機関による見解も情報として必要だと考えます。ぜひ環境省や農林水産省などの関係部署への取材を行なっていただき、当該市民団体の調査結果の妥当性をご確認ください。その上で本件について追加報道をお願いいたしたく宜しくご検討の程お願い申し上げます。もし面談の機会をいただけましたら、本件について直接説明申し上げた上でご担当記者様と忌憚のない意見交換をさせていただければと願っております。合わせましてご検討くださいますよう宜しくお願い申し上げます。

貴通信社のお考えやご対応をぜひお聞かせ願いたく、2月28日までにご回答をいただければと存じます。何卒よろしくお願いいたします。

環境省 問合せ先

自然環境局野生生物課外来生物対策室

電話番号:03-3581-3351

農林水産省 問合せ先:

消費・安全局農産安全管理課

担当者:組換え体管理指導班 吉尾、勝田

電話番号:03-6744-2102


なお、本質問状はFSINのホームページ等で公開いたします。また、情報の公開性を担保するために、貴通信社のご対応についても公開したいと考えていることも予めお伝えいたします。

以上

【添付資料】

・静岡新聞 1月21日付「組み換え菜種自生拡大、交雑も」

・信濃毎日新聞1月28日付「遺伝子組み換え菜種の自生拡大」

・中嶋信美*「イヌガラシとの交雑が疑われている植物体の分析結果(途中報告)について」平成22年7月15日

・中嶋信美*「イヌガラシとの交雑が疑われている植物体の分析結果について」平成22年10月13日

*国立環境研究所 生物圏環境研究領域 生態遺伝研究室

<共同通信社科学部長 長澤克治様からの回答>

食品安全情報ネットワーク(FSIN)事務局御中

2月8日付でいただいたご意見に回答いたします。

「ハタザオガラシとの交雑とみられる個体」は、交雑の可能性があることを示した表現です。国による詳細な調査が必要との指摘につながっています。

菜種とカラシナの交雑個体は、2008年に「遺伝子組み換え食品を考える中部の会」が愛知県豊川市で見つけ、市民団体の集まりなどで発表しています。

記事中にもあるように、環境省や農林水産省は組み換え菜種自生について「問題ない」との立場を維持しており、市民団体は国の調査は対象が不十分と指摘しています。

今後も、こうしたテーマに取り組んでいきたいと思います。

共同通信社科学部長 長澤克治

<共同通信社科学部長 長澤克治様との電話での意見交換>

電話で共同通信社の長澤様と話し、「FSINの指摘はよく理解した。今後の取材・配信の参考にします」というコメントをいただきました。また、長澤様より記事にある市民団体の主張の問題点は何かと問われたことに対し、以下のように当方の意見を伝えました。

【意見】

問題点はたくさん指摘できるが、1番のポイントは、こぼれ種が芽を出し交雑することはあらかじめ環境評価で問題がないレベルに収まることが確認されているということだ。

今後の取材の際にぜひチェックしていただきたいことは、それが安全性審査承認済みの遺伝子組換え作物か未承認のものかだ。承認済みであれば、その種が芽を出すことは想定の範囲内の出来事だ。それを問題だとするのであればその理由は何か。

それでも「芽が出てはならない」と主張するのであれば、輸入を止めなくてはならなくなる。輸入はして豊かな日本の食卓を享受しつつ、芽を出しても問題とならないことが確認されているこぼれ種の問題だけを取り上げるのは一方的な主張では無いか。