毎日新聞への要望と意見

《ふるさと納税返礼品にゲノム編集トラフグ》

毎日新聞 丹波・丹後版の2022年3月23日付《ゲノム編集トラフグ ふるさと返礼「中止を」 宮津市長に市民団体訴え》、及び4月20日付《「ゲノム編集フグ」中止を 宮津・ふるさと納税返礼品 コープ自然派京都 市に要望書》と題した記事について、5月18日付で舞鶴支局長宛の要望と意見をメール送信しました。

5月24日、毎日新聞京都支局長より回答をいただきましたので公開しています。

《FSINからのレター》

2022年5月18日

毎日新聞社

舞鶴支局長殿

食品安全情報ネットワーク(FSIN)

http://sites.google.com/site/fsinetwork/

毎日新聞・丹波・丹後版の記事「ふるさと納税返礼品にゲノム編集トラフグ」

(3月23日と4月20日)に関する要望と意見


メディアチェック集団「食品安全情報ネットワーク(FSIN)」は、食品の安全に関する記事やニュースを科学的な立場から検証し、自らも科学的根拠に基づく情報発信をすべく日々活動している、学識経験者、消費者、食品事業者、メディア関係者等の有志による横断的なボランティア・ネットワーク組織です。

~要望の要旨~

貴紙3月23日付けの「ゲノム編集トラフグ ふるさと返礼『中止を』 宮津市長に市民団体訴え」と4月20日付けの「『ゲノム編集フグ』中止を 宮津・ふるさと納税返礼品 コープ自然派京都 市に要望書」との見出しでそれぞれ掲載された記事は、ゲノム編集食品に対する科学的な説明が十分でなく、危険性を強調し過ぎ、公平性を欠いた内容だと考えられます。今後、同様のテーマで記事にされる場合は、危険視する人たちの声だけを大きく取り上げるのではなく、ゲノム編集食品の持つ意義、そして安全性に対する国や科学者の見解も記事中に記して、公平性を期すようお願いいたします。

以下、私たちの見解を述べさせていただきます。

1 安全性に関する見解

3月23日と4月20日の記事では「市民からは「安全性」の根拠を問う質問が相次いだ」「ゲノム編集の食品は安全性が確認されていない」「ゲノム編集食品は安全かどうかは世界でも誰も分からない」「国による詳しい審査が行われていないのが実態ではないか」といった市民の声が紹介され、まるで国が何もチェックしていないかのような内容となっていますが、これは大きな誤解を読者に与えます。

これまで国(厚生労働省、農林水産省、環境省、内閣府食品安全委員会、消費者庁)はゲノム編集食品に関して、安全性の審査が必要かどうかを専門家会議で審議し、その結果、ゲノム編集食品は外部から遺伝子を入れる遺伝子組み換え食品とはみなされず、従来の品種改良(人為的突然変異を利用する技術も含む)と変わらないという結論に至りました。

つまり、ゲノム編集技術に見られるような遺伝子の変異は自然界でも頻繁に起きており、安全性の審査を法律で義務づけるほどのリスクはないと政府の専門家会議が判断し、安全性の審査が不要となりました。

その上、ゲノム編集食品(フグ、トマト、タイ)を開発した事業者が国へ事前に提出した膨大な研究データは、国の専門家によって、「有害な物質が生成されないか」「アレルギーを引き起こす物質が生じないか」「外部からの遺伝子が入っていないか」などが厳しく審査されています。その審査は1年以上にわたり、開発者からは「国による実質的な審査と同じだ」という声が出ているほど厳しくチェックされています。

これらのことから、「安全性が確認されていない」のではなく、安全性の審査を法的に義務づけることが不要なほどに安全だと専門家が判断したという言い方が妥当です。

記事では「市民に不安が広がっている」との声が出てきますが、そうだとしたら、記者が科学的な解説記事をしっかりと載せて、その不安や誤解の解消に努めるのが報道の役割ではないでしょうか。

農水省のホームページの内容を紹介し、「生物多様性に影響を及ぼすような新たな形質が付与されていないと考えて問題ないことを確認した」という内容が掲載されたことは、農水省の見解を紹介した点でよいことだと考えますが、今後は、ゲノム編集食品の安全性を所管する厚生労働省や安全性を評価した食品安全委員会にもぜひ取材し、その見解を載せてほしいと思います。

2 返礼品の中止について

記事に出てくる市民団体は「ふるさと納税の返礼品として、ゲノム編集フグの提供を中止すべきだ」と反対しています。しかし、宮津市の市長が「ふるさと納税の返礼品としてはゲノム編集と表記している」と明言されているように、市は返礼品のフグがゲノム編集だという事実を公けにして、希望者に提供しています。言い換えると、返礼品を受け取った人はゲノム編集のフグだと承知した上で受け取っており、双方が合意の上で行っている行為です。

その合意に対して、第三者がそれをやめさせようとするのは、消費者の自発的な選択権を奪う妨害行為ではないでしょうか。市は希望する消費者にゲノム編集フグを提供しているのであり、無理やり食べさせているわけではありません。ふるさと納税と返礼品はあくまで双方の合意で成り立っている自発的な選択行為です。

ゲノム編集食品の国民的理解がまだまだ不十分なのは分かりますが、かといって、反対する人の声だけを取り上げる記事は公平性を欠きます(特に4月20日の記事)。希望する消費者の声も拾い上げて公平に記事で紹介することも報道の役割ではないでしょうか。

以上、2点について私たちの見解を述べさせていただきました。今後、私たちの要望がゲノム編集食品に関する記事に反映されることを願っています。

私たちの要望・意見に対して、貴支局のご意見をいただけますと幸甚です。ご意見は5月31日までに事務局へ電子メールにてお願いします。なお電話での問い合わせにも小島が応じます。

※本レターは、FSINのホームページ等において公開するほか、主要新聞社や主要週刊誌、主要テレビ局など約20社にも送りますので予めご了承ください。また、メディア記事を読み解き、判断する上で有用な情報として広く共有を図りたく、貴社のご対応についても公開させていただきます。

《毎日新聞京都支局長からの回答》

食品安全情報ネットワーク御中

京都丹波・丹後版「ゲノム編集トラフグ」の記事についてのご回答

2022年5月24日
毎日新聞京都支局長 野上哲

 このたび弊紙京都丹波・丹後版3月23日付「ゲノム編集トラフグ ふるさと返礼『中止を』 宮津市長に市民団体訴え」と4月20日付「宮津・ふるさと納税返礼品 『ゲノム編集フグ』中止を コープ自然派京都 市に要望書」に関するご要望、ご意見をいただき、ありがとうございます。

 両記事は、京都府宮津市がゲノム編集されたトラフグをふるさと納税の返礼品に認定したことについて、地元の市民グループなどが市長らに返礼品としての取り扱い中止を申し入れたことを、事業者による意義の説明、返礼品に採用した市長のコメント、国(農林水産省)が公表した確認結果を交えて紹介しております。

 ご指摘は今後の報道の参考にさせていただきます。

《FSINからのメール》

毎日新聞京都支局長
野上哲様

この度は早速のご回答をありがとうございます。

多方面に配慮しながらの姿勢はよく理解できました。

この問題は今後も注目を集めるものと予想されます。

私たちの要望を今後の報道の参考にしていただけるとのこと、ぜひとも期待しております。

ご回答ありがとうございました。