公明新聞への要望書

「遺伝子組み換え食品の安全性」についての要望

<概要>

FSINでは、2010年5月11日の公明新聞朝刊における「食の安全を考えるシリーズ11 ~ 遺伝子組み換え食品の安全性」と題した天笠啓祐氏の寄稿について、同年9月9日付けで要望書を提出しました。

同年11月15日付けで「遺伝子組換え食品を理解するⅡ」(発行:国際生命科学研究機構(ILSI Japan: International Life Sciences Institute Japan))を送付し、同誌に情報提供しました。

なお、本資料はILSI JapanホームページよりPDF版の閲覧ができます(こちらをクリックしてください)。

以下に、FSINからの2通の書面を公開します。

<FSINからのレター>

2010年9月9日

公明新聞 編集局長殿

食品安全情報ネットワーク(FSIN)

http://sites.google.com/site/fsinetwork/

「遺伝子組み換え食品の安全性」に関する記事についての要望書


はじめてご連絡を差し上げます。

食品安全情報ネットワーク(FSIN)は、食品の安全に関する必要な情報を収集し、科学的な立場からこれを検証し、自らも科学的根拠がある情報発信をすべく日々活動している、学識経験者、消費者、食品事業者、メディア関係者等の有志による横断的なネットワーク組織です。

貴紙5月11日朝刊において、「食の安全を考えるシリーズ11」として天笠啓祐氏の寄稿として掲載されました「遺伝子組み換え食品の安全性」について、要望いたします。

遺伝子組み換え作物は国際的なルールに基づき、科学的な安全性審査を経たものだけが商品化されています。こうした現実を伝えず、多々の不備が指摘される不完全な実験結果を引用して、現在利用されている遺伝子組み換え作物があたかも危険であるかの様な記述をする事は、 読者に誤った情報や不安を与える事となります。このような姿勢は、メディアとして、また「 食の安全を考える」というこのシリーズのコンセプトとしても、大変疑問があります。

今回は寄稿でありますが、依頼する著者やその情報の信頼性を判断するのは貴紙であり、貴紙は、提供する情報に対し読者に対する責任を担っています。貴紙は特に国民の生活を担う政治に直結したメディアでもあります。そのメディアの責任として、提供する情報に対してきちんと精査した上で、掲載するに値するかどうかご判断いただきたく要望します。

またこの記事を読まれた読者への責任として、遺伝子組み換え作物は科学的安全性審査がなされ、現在までに健康被害などは報告されていないという事実を、何からの形で紙面で提供していただくことを要望いたします。その際には、必要があれば当会としてもできる限りの協力 をさせていただきます。


以下に個々の疑問点・問題点をお示しします。

記事では米環境医学会(AAEM)の申し入れとして、海外での動物実験の結果を引用しながら、遺伝子組み換え食品の健康障害として、 ①免疫を弱める、②子孫の代で影響、③肝臓や腎臓に悪影響の3点を挙げています。しかし紹介されている実験はいずれも不備が多く、ここから遺伝子組み換え作物の安全性について科学的な結論は導き出されるものではありません。

例えば、イタリア食品研究所の実験によって「免疫を弱めることが分かった」とありますが 、この実験は対照群のマウスの餌のデータが報告されていないなど不備が多く、論文の著書らも、「この実験における臨床的有意性は不明」であると指摘しています。

「子や孫、ひ孫の代で影響が出る」としている、オーストリア・ウィーン大学などの実験については、EUで遺伝子組み換え作物の規制を担当する欧州委員会のGMOパネルがこの実験の内容を精査したところ、計算間違いや統計的解析の不備、分析に必要な情報の欠落などの問題があることから、「この実験結果から何らかの結論を導く事はできない」との見解を発表しています。

「肝臓や腎臓に悪影響」が出るというイタリア・ベローナ大学の実験についても、実験試料の組成分析を何もせずに、遺伝子組み換え大豆と、系統が異なる従来の大豆(非遺伝子組み換え大豆)を比較するなど、科学的な実験に必要な前提条件が欠落していることが指摘されてお り、遺伝子組み換え大豆の安全性を疑わさせる科学的証拠を提示したものではありません。

なお、今回記事に出ている米国環境医学会(AAEM)は、米国専門医認定機構の認定を受けていない任意団体です。医療的見解においても、医学会全般の見解とは異なったり、効果が疑問視される医療行為を支持したりしていることが伝えられているようですので、ご参考までにお伝えします。ちなみに米国の環境医学分野において公的に認められた医療機関は、米国労働環境医学学会になります。

また、遺伝子組み換え作物の安全性評価では「動物試験が必要ない」のではありません。既知のアレルギー物質、有害物質等ヒトの健康に影響を及ぼすような新たな物質が産生されていないこと等を確認し、この時点で安全性の明確な根拠がない場合、必要に応じて動物試験を行い、慢性毒性を含む一連の毒性試験データを求めることができます。

大豆やトウモロコシなどの遺伝子組み換え作物は、1996年の商品化以来、日本に大量に輸入され、食品や家畜の飼料などとして広く利用されています(トウモロコシはほぼ100%輸入、大豆は約95%輸入、うち遺伝子組み換えの割合は7~8割占めると推定されます)。しかし、一 度も健康被害の例などは報告されていません。

ご多忙のこととは存じますが、上記要望について折り返しのご回答をお待ちします。よろしくお願い申し上げます。

なお、本質問状はFSINのホームページ等で公開いたします。また、貴紙のご対応についても公開したいと考えていることも予めお伝えいたします。

以上

<FSINからの二通目のレター>

2010年11月15日

公明新聞 編集局長殿

食品安全情報ネットワーク(FSIN)

http://sites.google.com/site/fsinetwork/

「遺伝子組換え食品を理解するⅡ」の送付について


貴紙5月11日朝刊において、天笠啓祐氏の寄稿として掲載されました「食の安全を考えるシリーズ11」の「遺伝子組み換え食品の安全性」について、食品安全情報ネットワーク(FSIN)として先にご連絡させていただきました。多々の不備が指摘される不完全な実験結果を引用し、現在利用されている遺伝子組み換え作物が危険であるかのような記述は、読者に誤った情報や不安を与える可能性があるとの問題を指摘させていただき、これについて貴紙のご回答をお願いいたしましたが、残念ながら現在までにご回答はいただいておりません。

これに関連し、このたび、国際生命科学研究機構(ILSI: International Life Sciences Institute Japan)から発行された「遺伝子組換え食品を理解するⅡ」をご紹介させていただきます。

貴紙は、米環境医学会(AAEM)の申し入れとして、海外での動物実験の結果を引用しながら、遺伝子組み換え食品の健康障害として、①免疫を弱める、②子孫の代で影響、③肝臓や腎臓に悪影響の3点を挙げています。

しかし、先に指摘させていただいたように、紹介されている実験はいずれも不備が多く、ここから遺伝子組み換え作物の安全性について科学的な結論は導き出されるものではありません。「遺伝子組換え食品を理解するⅡ」では、AAEMが引用している実験にいかに不備が多いか、個別具体的に検証し、解説しています。FSINが指摘した問題点を裏付ける内容となっておりますので同封させていただきます。ご一読いただき、遺伝子組み換え作物の安全性に関する今後の報道のご参考にしていただければと存じます。

食品の安全については誤解や曲解が多く、そのような誤った情報は多くの国民に根拠がない不安を与える結果になります。私たちはそのような報道に対して科学的な根拠に基づく意見を申し上げることが趣旨であり、貴紙を非難する意図は全くないことをぜひご理解いただきたいと思います。

もし必要であればお会いしてご説明したいと思いますのでご一報ください。

末筆ながら貴紙のますますのご発展を願っております。

以上