週刊文春への要望書

「米国産『危険食品』で子供が壊れる」

週刊文春の2014年4月17日及び24日号に掲載された「米国産『危険食品』で子供が壊れる」との記事について、4月28日付で訂正記事掲載の要望書を郵送しました。なお、郵送は週刊文春宛とし、奥野修司様には週刊文春より届けていただくようにお願いしました。

≪FSINからのレター≫

2014年4月28日

週刊文春編集長 新谷 学 様

ノンフィクション作家 奥野 修司 様

食品安全情報ネットワーク(FSIN)

http://sites.google.com/site/fsinetwork/

「週刊文春」4月17、24日号

米国産「危険食品」で子供が壊れると題する記事に関する要望書

はじめてご連絡を差し上げます。

食品安全情報ネットワーク(FSIN)は、食品の安全に関する必要な情報を収集し、科学的な立場からこれを検証し、自らも科学的根拠がある情報発信をすべく日々活動している、学識経験者、消費者、食品事業者、メディア関係者等の有志による横断的なネットワーク組織です。

貴誌4月17日号、24日号「米国産 『危険食品』で子供が壊れる」と題する記事について、遺伝子組み換え作物や農薬の安全性について、科学的根拠なく不安を煽る内容であることから、記事の問題点を列挙するとともに、訂正記事の掲載を要望いたします。奥野様にも確実にお読みいただきたく、お願いいたします。

●GM(遺伝子組み換え)作物の安全性について

「抹殺された動物実験データ」として、フランス・カーン大学のセラリーニ教授によるGMトウモロコシの給餌試験を紹介し、GMトウモロコシを与えたラットで腫瘍の発生率や死亡率が増加した、と説明していることについて。

遺伝子組み換え作物は、法律に基づき安全性が確認されています。食品の安全性評価においては、導入された遺伝子と、その遺伝子が作るタンパク質は、胃や腸内で速やかに消化、分解され、体内に蓄積して慢性的、長期的に毒性を及ぼしたり、アレルギーの原因にならないことが確認されています。1996年の商品化から18年が経過していますが、一度も健康被害は報告されていません。

貴誌も報じているように、この実験を掲載したFood and Chemical Toxicology誌は、2013年11月28日に当該論文を取り下げましたが、これは日本やEU も含めた多くの公的な安全性審査機関、毒性学の専門家等によって、その方法と結論の科学的妥当性が否定されたためで、「抹殺」されたという表現は不適切です。

FSINでは、科学的実験が発表された直後から、国内外の研究者から疑問の声があがっている事実をサイエンス・メディア・センター http://smc-japan.sakura.ne.jp/ と協力し報道関係者に情報提供し、また、日本の毒性学の専門家である、青山博昭博士(一般財団法人残留農薬研究所毒性部長)による「動物試験の条件や設計に大きな不備があり、得られた結果を論理的に解釈することも、それらの結果に基づいて遺伝子組み換えトウモロコシの安全性を科学的に議論することもできない」とのコメントを公開しました。以下のFSINのサイトで詳細をご確認いただけます。

https://sites.google.com/site/fsinetwork/jouhou/gm_maize

科学的に否定され学術誌から削除された論文であると知りながら、「署名科学者が衝撃的な実験結果を公開」として、あたかも科学的に意義のある結果であるかのように大々的に報じた社会的責任は大きいと考えます。

●農薬の安全性について

ラウンドアップの主成分「グリホサート」について、「急性毒性がないため、日本ではホームセンターでも売られているが、あらゆる植物を根こそぎ枯らしてしまう猛毒である」、「多くの論文が、肝臓細胞破壊、染色体異常、先天性異常、奇形、流産のリスクがあると警告している」「残留農薬を上げたら人体にどのような影響があるかといった実験はまったく行われていない。(中略)どこもグリホサートの長期毒性試験をしたことがないという不可解な状況なのだ」といった内容について。

農薬の残留基準は、マウスやラットなどによる反復投与試験、発がん性試験などの毒性評価から導き出された「無毒性量:NOAEL」に100倍の安全係数を見込み、その農薬を一生涯に渡って仮に毎日摂取し続けたとしても、危害を及ぼさないと見なせる体重1kg当たりの許容1日摂取量(ADI:acceptable daily intake)を設定し、実際の農薬の使用や食生活の違いなどを踏まえそのADIを超えないように食品ごとに設定されたものです。ADIや短期の経口摂取による影響に配慮した急性参照量(aRfD)が「安全基準」であるのに対し、残留基準値は「管理基準」であり、「安全基準」とは違いますので、残留基準を上げたからといって健康被害が出るものではありません。貴誌が指摘する6ppmから20ppmに引き上げられたグリホサートの基準についても、この措置により我々の1日当たりの摂取量がすでに十分な倍率の安全係数(通常100倍)をかけて設定されているADIの80%を超えることはなく、安全性に問題はないと判断されたものです。

またグリホサート除草剤は植物の種類を選ばず枯らしますが、これは植物が共通して持つ代謝経路をブロックする作用機作によるもので、毒性の強さとは関係がありません。むしろこの代謝経路を持たないヒトや動物には安全性が高いことが知られています。急性毒性がないだけでなく、FAO (世界食糧農業機関)の農薬に関する評価報告書では、人に対する変異原性を持たないこと、発ガン性を示した例がないこと、生殖毒性や催奇形性の要因とならないこと、と評価されており、記事は誤りです。


上記についてご確認の上、5月16日までに貴誌のお考えをお聞かせいただきたくお願いいたします。なお、本質問状はFSINのホームページ等で公開いたします。また、貴紙のご対応についても公開したいと考えていることも予めお伝えいたします。

以上