国際がん研究機関(IARC)による5つの有機リン系殺虫剤及び除草剤の評価について

2015年3月20日、国際がん研究機関(IARC)が5つの有機リン系殺虫剤及び除草剤について評価結果を公表しました。この内容が一部で議論を招いており、かつ正確でない報道につながる可能性もあることから、関連情報を紹介します。

1.IARCによる評価概要

IARCによる評価結果は次のURLよりお読みいただけます。

IARC Monographs Volume 112: evaluation of five organophosphate insecticides and herbicides

http://www.iarc.fr/en/media-centre/iarcnews/pdf/MonographVolume112.pdf

IARCモノグラフ112巻:5つの有機リン殺虫剤と除草剤の評価

(食品安全情報blogによる日本語訳)http://d.hatena.ne.jp/uneyama/20150323#p7


その結果は次のようなものでした。

グリホサート(除草剤)、マラチオン、ダイアジノン(以上、殺虫剤)

→グループ2A「probably carcinogenic to humans(おそらく、ヒトに対して発がん性がある)」

テトラクロルビンホス、パラチオン(以上、殺虫剤)

→グループ2B「possibly carcinogenic to humans(ヒトに対して発がん性のある可能性がある)」

IARCは様々な物質や食品、ライフスタイル等のヒトへの発がん性について、証拠の確かさをもとに分類しています。

2.報道事例

今回の発表により、日本においてもいくつかの報道がなされています。例えば、日本経済新聞は2015年3月24日に「米モンサント開発の除草剤に発がん性の恐れ」との記事を出しました。以下にその一部を抜粋引用します。

IARCは、人での発がん性を示す証拠は限られているものの、動物実験や薬理作用などの研究結果に基づいて判断したと説明。5段階分類で上から2番目にリスクが高く「人に対する発がん性が恐らくある」ことを示す「2A」にグリホサートを位置付けた。

http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM24H69_U5A320C1FF2000/

この記事では「5段階分類で上から2番目にリスクが高く」とされていますが、これは正確な表現ではありません。

「リスク」の高さで分類する場合には、ヒトがどれだけその物質に曝露されるのかを評価する必要があります。

しかし、IARCの分類はあくまでも「証拠の確かさ」をもとにしたものであり、曝露量やそれに基づくリスクの評価まではされていません。極めて多い曝露量であっても、その物質によってヒトにがんが生じるという確かな証拠があれば「グループ1」に分類されます。

3.専門家のコメント

今回のIARCによる評価結果について、専門家のコメントを掲載しているサイトを紹介します。

「グリホサートはがんを引き起こすか?」(ドイツ連邦リスク評価研究所(BfR)通知7号(2015年3月23日通知))

(食品安全情報blogによる通知英語版の日本語訳)http://d.hatena.ne.jp/uneyama/20150330#p2

BfRは、グリホサートのヒトへの健康リスク評価を担当する機関として、グリホサートに発がん性はないと評価しています。

BfRはIARCの評価について、現時点では根拠が公表されていないので検討困難としつつも、WHOの残留農薬委員会のような国際団体や米国EPAのような国家規制機関がグリホサートに発がん性はないと結論していることから、「驚きの内容である」として意見を述べています。

※ EUでは、1993年以前から使われている農薬の再評価を進めています。各物質について加盟国が評価書案を分担して作り、欧州食品安全機関(EFSA)の委員会がそれをレビューするという形をとっています。この枠組みにおいてBfRは、グリホサートのヒトへの健康リスク評価を担当していることから、グリホサートについて最も詳しく情報を得ている機関とみなされています。

IARCによる5つの農薬の発がん性分類についての専門家の反応(食品安全情報blog)

http://d.hatena.ne.jp/uneyama/20150323#p8

英国のサイエンス・メディア・センターが掲載している専門家の反応を、日本語訳されています。

食品安全情報blogでは他にも関連記事を掲載されています。「日記の検索」欄から「IARC」、「グリホサート」等で検索してみてください。

ラウンドアップに発がん性? 簡単、わかりやすいニュースに踊らされる前に、もっと詳細をみてみよう(FOOCOM.NET)

http://www.foocom.net/column/editor/12412/

FOOCOM.NETの松永編集長による解説記事。


関連企業によるリリースも以下に紹介します。

●日本モンサント株式会社

- ニュースリリース

http://www.monsanto.co.jp/news/release/index.html(2015.3.24付のリリースをご覧ください)

- ドイツ連邦リスク評価研究所通知 7号:2015年3月23日「グリホサートはがんを引き起こすか?」

(BfR通知英語版の日本語訳)http://www.monsanto.co.jp/news/release/pdf/150331_bfr.pdf

●日産化学工業株式会社 ・・・2015.4.6追加

- 国際がん研究機関(IARC)におけるグリホサートの発がん性評価について

http://www.nissanchem.co.jp/news_relese/news/n2015_03_25.pdf