平凡社への訂正要望

鈴木宣弘著『農業消滅』

2021年9月15日、平凡社新書《鈴木宣弘著『農業消滅』》 について、平凡社新書編集担当者宛の訂正要望レターをメール送信しました。

9月29日、平凡社新書編集長より、著者と相談の上で2刷で訂正するとのご回答をいただきました。

《FSINからのレター》


平凡社・新書編集部

    和田康成様

食品安全情報ネットワーク(FSIN)

http://sites.google.com/site/fsinetwork/

《鈴木宣弘著『農業消滅』》の記述に関する訂正要望


メディアチェック集団「食品安全情報ネットワーク(FSIN)」は、食品の安全に関する必要な情報を収集し、科学的な立場からこれを検証し、自らも科学的根拠がある情報発信をすべく日々活動している、学識経験者、消費者、食品事業者、メディア関係者等の有志による横断的なボランティア・ネットワーク組織です。

【訂正要望の要旨】

今年7月に出版された鈴木宣弘氏の著書「農業消滅」の中に明らかな誤りがあります。

 速やかにその関連部分を削除するか、正誤表を挿入するなど訂正すべきと考えます。


【訂正を求める理由と根拠】

「農業消滅」の102ページに「なぜ、自国民が食べないものを日本に送るのか」との見出しで、「アメリカの穀物農家は、日本に送る小麦には、発がん性に加え、腸内細菌を殺してしまうことで、さまざまな疾患を誘発する懸念が指摘されているグリホサートを、雑草ではなく麦に直接散布している。収穫時に雨に降られると小麦が発芽してしまうので、先に除草剤で枯らせて収穫するのだ」との記述が見られます。


この部分は誤りです。そもそも除草剤のグリホサートは小麦ではなく、雑草を枯らす目的で散布します。このことは米国、日本とも同じです。記事では「雑草ではなく麦に直接散布している。・・・先に除草剤で枯らせて収穫する」とありますが、米国の農業生産者が日本向けの小麦だけに除草剤を散布しているという事実はありません。確かに小麦が十分に枯れなかった場合には、枯らすために散布することもありますが、収穫7日前までという厳しい条件が定められ、あらかじめ決められた残留基準値を超えないよう散布量もラベルに明記されています。しかもこの種の使用法はどうしても必要な場合のみであり、全体の3%にも満たない割合です(全米小麦生産者協会の資料参照)。


いずれにせよ、米国向けと日本向けに除草剤を使い分けているという事実はなく、この記述は明確に誤りです。


このことは、鈴木氏自身も認めています。


鈴木氏の著書「農業消滅」が8月27日付けの東洋経済オンライン記事で紹介されたところ、読者から誤りがあるとの指摘に対して、鈴木氏はTwitter上で「この記事はタイトルを含め東洋経済の編集部さんによるもので鈴木が書いたものではありません。日本向け小麦だけに散布しているわけではないので、拙著本文の「日本に送る小麦には」という表現は完全にミスリーディングですね。削除します」と自ら誤りを認め、東洋経済編集部に削除を求めました。


これを受けて、東洋経済オンライン記事は修正され、当初の大見出しだった「『自国民は食べない』小麦を輸入する日本の末路」という記述は、「『リスクのある小麦』の輸入を続ける日本の末路」に修正されました。同様の見出しは本文にもありましたが、これも「『自国民が食べないもの』が日本に送られている」との記述は、「『日本産にないリスクのある食べ物』が送られている」との記述に変更されました。


この一連の修正について、東洋経済オンライン編集部は、

【2021年9月2日21時30分追記】初出時、小麦の輸出状況について不正確な部分がありましたので修正しました。

との内容を記事中に掲載しました。


これらの事実を考えると、鈴木氏の102ページの記述は、自らが誤りを認めており、間違いだと断言できます。


【訂正要望】

メディアの使命は、間違いがあれば、すみやかに訂正を出し、読者に正しい情報を提供することにあると考えます。鈴木氏の同書は、一つひとつ指摘するのが面倒になるほど数多くの誤りがあります。いずれFSINはその数々の誤りを公表していきますが、今回は、鈴木氏自身が誤りを認めている部分にしぼり、訂正を求めたいと思います。


具体的には、102ページの「なぜ、自国民が食べないものを日本に送るのか」との見出しとその見出しに沿った記述を削除するか、科学的観点から正しい記述に変更するか、どちらかの訂正を求めます。誤りを訂正するのはメディアの恥ではありません。読者に正確な情報を届ける誠実ある対応こそが信頼を得る手段だと考えます。是非、訂正を出していただけますようお願い申し上げます。


御忙しいとは存じますが、9月27日までにご回答をいただきたく思います。回答は電子メールでお願いいたします。なお電話での問い合わせにも応じます。


※なお、本レターは、FSINのホームページ等において公開するほか、主要新聞社や主要週刊誌、主要テレビ局など約20社にも送りますので予めご了承ください。また、メディア記事を読み解き、判断する上で有用な情報として広く共有を図りたく、貴社のご対応についても公開させていただきます。