大学入試センターへの意見と要望

令和3年度 大学入学共通テスト(英語・リーディング)

令和3年度大学入学共通テストの英語(リーディング)第6問Bで出題された問題文は、食品科学の視点から見て重大な誤りがあるため、1月27日付で今後、この出題が過去問題の事例として、授業で活用されたり、受験参考書に掲載されることがないよう、適切な措置を講じていただきたい旨の要望書を、独立行政法人大学入試センター 理事長宛にメール送信しました。

2月10日付で同センター試験・研究統括官よりメールでご回答いただきました。

3月3日、同センター理事長宛に、同センター回答に対するFSINの考え方をメール送信しました。

4月30日付で発行された「共通テスト過去問研究 英語」(教学社、いわゆる『赤本』)において、当該問題の解答に次のような注釈が入りました。

《 ※編集部注 なお、本出題については、日本食品添加物協会が見解を発表している(同協会のウェブサイト「協会はこう考えます」にアップされている)。》

日本食品添加物協会の見解はこちらからご覧いただけます。

《大学入試センターからの回答に対するFSINの考え方》


独立行政法人大学入試センター 理事長

山本 廣基 様

大学入試センターからの回答に対するFSINの考え方を公表します。

① 「“Some LCSs”は問題文中に示された甘味料を指すものではないというのが英文の正しい解釈」だという回答です。しかし「文中に出てくる甘味料でない」甘味料とはどのようなものでしょうか。甘味料として市場に流通しているものはすべて国が安全と認めたものです。従って、この回答は意味不明であり、回答になっていません。
 しかし、これについては「今後の問題作成の際の参考とし、引き続き、そのようなことがないように努めてまいります」との回答をいただいたので、今後このようなことの起こらないことをお願いしておきたいと思います。

② 「digestという言葉にabsorbの意味が含まれている辞書もある」との回答ですが、第6問Bは「栄養学の教科書」という設定です。そして栄養学の教科書では医学の常識から外れないように用語の意味を厳しく規定しています。「digestという言葉にabsorbの意味が含まれている辞書もある」という理由で医学では使用しない用語を使うなどということはあり得ません。受験生が科学英語を理解していた場合には、この問題はおかしいと感じるでしょう。この点についても、今後の問題作成の際の参考としていただきたいと思います。

③ 今回の私たちの要望は、「この出題が過去問題の事例として、授業で活用されたり、受験参考書に掲載されることがないよう、適切な措置を講じていただきたい」ことでした。この点につきご回答いただけなかったことは大変に残念であり、何らかの措置をとっていただくことを願っています。

《大学入試センターからの回答》


令和3年2月10日

食品安全情報ネットワーク(FSIN)代表

  唐 木 英 明  様

  小 島 正 美  様

独立行政法人大学入試センター試験・研究統括官  

大 津 起 夫 

(公印省略) 


令和3年度大学入学共通テスト 試験問題に関する照会について

 「英語(リーディング)」第6問Bのご意見について、下記のとおりお答えいたします。
 この度は、貴重なご意見等をいただきありがとうございました。



 事例①において「これらの人工甘味料については、日本の厚生労働省や食品安全委員会がリスク評価を行い、安全だと認めて、使用・流通を許可しています。科学の世界では認められていない一部の意見を取り上げて、全受験生に読ませて答えさせることが適切とは考えられません。」とのご指摘をいただいております。
 英文の正しい解釈としては、("Some of the LCSs"ではなく)"Some LCSs"と書いていることから、これらが問題文中に示された甘味料を指すものではありません。
 第6問Bについて、現在、国が指定し、使用を認めている低カロリー甘味料(LCSs)が健康上の問題を有しているとの誤解を招く恐れがあるとのご指摘については、今後の問題作成の際の参考とし、引き続き、そのようなことがないように努めてまいります。

 事例②において「問3」については「正解が2つではなく、1つになる」のではないかとのご指摘ですが、「理由」において「これは"move through the body extremely slowly"という文章から"not digested quickly"を選択させると推測します」とご指摘いただいているとおりです。本文に記載されている英文の内容を読み取り、受験生に解答させる問題としては、特に支障ないものと考えております。

 なお、「理由」の中で、"move through the body extremely slowly" についてもご指摘をいただいていますが、大学入学共通テストの 「 英語(リーディング)」の出題範囲で学習するとされる語数は、高等学校学習指導要領との関係から、試験問題で使用できる語が限られているところです。このため、参考とした原典の表現のままでは 出題することが難しいことから、学習している語に基づき、わかりやすい表現に変更したところです。ご指摘については、今後の問題作成の際の参考とさせていただきます。
 さらに、「理由」の中に、「"digest"という言葉に"absorb"という意味は含まれていません。」とのご指摘ですが、英語の辞典では、"absorb" の意味が含まれている辞書もあります。また、「胃」のトラブルについてのご指摘もいただいていますが、これは"stomach"を「胃」と解釈したことによるものかと思いますが、英語の辞典では、「胃」だけでなく、「胃腸」あるいは「おなか」全体を意味するとされており、ここでも、より広い意味で使用しています。

 ご理解のほど、よろしくお願いいたします。

《FSINからのレター》


2021年1月27

独立行政法人大学入試センター 理事長

山本 廣基 様

食品安全情報ネットワーク(FSIN)

http://sites.google.com/site/fsinetwork/

令和3年度 大学入学共通テスト(英語・リーディング)における

問題文選定についての意見と要望

食品安全情報ネットワーク(FSIN)は、食品の安全に関する必要な情報を収集し、科学的な立場からこれを検証し、自らも科学的根拠がある情報発信をすべく日々活動している、学識経験者、消費者、食品事業者、メディア関係者等の有志による横断的なボランティア・ネットワーク組織です。

令和3年度大学入学共通テストの英語(リーディング)第6問Bで出題された問題文は、食品科学の視点から見て重大な誤りがあります。その中には回答に直接関係する誤りもあります。

問題文では、健康問題に考慮して甘味料を選択するべきとした上で、低カロリー甘味料ががんを引きおこしたり、記憶力や脳の発達に悪影響を及ぼすかのような記述がされています。これは科学的に誤りであるだけでなく、消費者が自らの選択で安全性を確保しなくてはいけないとの誤解を与えかねないものです。

たとえ、英語力を問う出題であっても、科学的に誤った内容を試験問題として採用することは望ましくないと考えます。このままでは不適切な内容や記述を、今後毎年、受験生や学校教諭、予備校講師等の方々が過去問題の事例として、学び続けることにもなります。

以上のことから、以下のことを要望するとともに別紙にてFSINの見解をお伝えいたします。

今後、この出題が過去問題の事例として、授業で活用されたり、受験参考書に掲載されることがないよう、適切な措置を講じていただきたい。

※ 本件は広く社会に知っていただくべき事案と考え、各種メディアにも通知します。そして、このレター及び貴センターのご対応については、今後、FSINのホームページ等において公開させていただきますので、予めご了承をお願いいたします。

別紙 《出題の記述に関するFSINの見解》

【事例①】

問題文からの引用

When choosing sweeteners, it is important to consider health issues. Making desserts with lots of white sugar, for example, results in high-calorie dishes that could lead to weight gain. There are those who prefer LCSs for this very reason. Apart from calories, however, some research links consuming artificial LCSs with various other health concerns. Some LCSs contain strong chemicals suspected of causing cancer, while others have been shown to affect memory and brain development, so they can be dangerous, especially for young children, pregnant women, and the elderly.

(註:LCSsはLow-Calorie Sweetenersの略)

FSINの見解

 「人工的な低カロリー甘味料が、がんを引き起こしたり、記憶力や脳の発達に影響を及ぼし、特に幼児、妊婦、高齢者に危険であるかのごとく記述されていますが、そのようなエビデンスはありません。」

理由=これらの人工甘味料については、日本の厚生労働省や食品安全委員会がリスク評価を行い、安全だと認めて、使用・流通を許可しています。科学の世界では認められていない一部の意見を取り上げて、全受験生に読ませて答えさせることが適切とは考えられません。

【事例②】

問題文からの引用

There are a few relatively natural alternative sweeteners, like xylitol and sorbitol, which are low in calories. Unfortunately, these move through the body extremely slowly, so consuming large amounts can cause stomach trouble.

FSINの見解

 「この記述には誤りがあります。キシリトールとソルビトールは「ゆっくり吸収される」という事実はありますが、「体内をきわめてゆっくりと動く」(move through the body extremely slowly)という事実はありません。また「体内をきわめてゆっくり動く」ことが胃のトラブルを起こすという事実もありません。」

理由=「move through the body extremely slowly」とは、「体内動態(移動速度)がきわめて遅い」ことを意味します。物質の体内移動速度は血流やリンパ液の流速で決まります。キシリトールとソルビトールに限って、その体内移動速度が遅くなることはありません。
 
問③では出題文を読んで正しい内容を2つ選ばせる問題となっており、「Sweeteners like xylitol and sorbitol are not digested quickly」(キシリトールなどは速く消化されない)という選択肢が正解の1つと発表されています。これは「move through the body extremely slowly」という文章から「not digested quickly」を選択させる意図と推測します。しかし、体内移動と消化は生理学的に全く異なる機構であり、両者を結びつけることはできません。
 
さらに、キシリトールとソルビトールは低分子のため、消化(digest)されずにそのまま吸収(absorb)されます。Cambridge dictionaries of Englishによれば、「digest」という言葉に「absorb」という意味は含まれていません。
 
しかも、「キシリトールとソルビトールが体内をきわめてゆっくり移動する」ことと「胃のトラブル」とは関係がなく、「吸収が遅い」こととも関係がありません。ちなみにソルビトールなどの甘味料を過剰摂取すると、腸での吸収が遅くなり、大腸に水分が多くたまり、腸の具合が悪くなることはあります。しかし、これは胃のトラブルではありません。
 
以上の点から、この設問の正解は2つではなく、1つになると考えます。

以上