枚方市消費生活センターとの意見交換

講師選定について

<要約>

2010年2月18日に、枚方市消費生活センターの主催により「安部司さん講演会『加工食品の舞台裏を語る』が開催された。それに先立って当会メンバー荒井より、講師選定の理由を問い合わせるとともに、公の機関の講師として適切とは考えられないという意見をその根拠となる情報とともに提出した。

枚方市消費生活センターとの面談では、科学的に正しいかどうかを判断する力量はなく、他の自治体における動員実績等を考慮して講師を選定したということが説明された。

今後は、より適切な講師を選定していただけるものと期待している。

<経緯>

2010年2月18日に、枚方市消費生活センターが主催して「安部司さん講演会『加工食品の舞台裏を語る』が開催されるという情報を事前に得た。安部司氏は、その著書や講演内容に誤りが多く不適切であることが多くの記事等で指摘されており、公の機関である消費生活センターの講師として適切とは考えられなかったため、当会メンバーの荒井より以下のような質問と参考情報の提供を行った。

【質問】

1.貴部署の講師選定の理由、および本講演会を開催される意図を教えていただきたく存じます。

2.講演会開催前に、是非一度ご担当者のお話をうかがいたく訪問させていただきたいのですが、可能でしょうか。

【参考情報】(コピーを送付)

○食品添加物を巡る諸問題 その1(健康食品管理士認定協会会報、2007年)

長村洋一氏(千葉科学大学 教授(当時)、健康食品管理士認定協会 理事長)

○メディア・バイアス(抜粋、光文社新書、2007年)

松永和紀氏(科学ライター)

<枚方市消費生活センターからの回答(メール)>

本市では、消費者生活における食品表示・安全機能を強化するために、食品表示等に関する有識者による講演会を実施することで、市民のみなさんに食の安全に対して興味を持っていただき、知識の向上に努めていただくことを目的に本講演会を開催するものです。

講師の選定につきましては、テレビ出演、全国の自治体での講演実績、著書の内容等を踏まえ総合的に判断したものです。

本市としましては、同氏の講演会を通じて、消費者の食の安全に対する意識が高まることを期待しつつ、今後も様々な機会を通して教育啓発活動を行う予定です。

なお、訪問の件につきましては、2月15日(月)午後4時でいかがでしょうか。下記担当がお話をおうかがいいたします。それ以外だと講演会開催後となることをご了承ください。

<枚方市消費生活センターとの面談>

2月15日に、当会メンバー荒井が枚方市消費生活センターを訪問し面談した。

枚方市消費生活センターからは次のような意見が述べられた。

□講演会企画の背景:

    • 消費者庁が発足し、食品表示に安全表示の観点から取り組む。偽装を含めて社会問題化している面もあり、食品に関する講演を開催しようとなった。
    • 食に対する意識、興味をとにかく持っていただきたい。我々に科学的にどうか指導できる力量はなく、とにかく興味を持っていただきたいということ。

□講師選定の背景:

    • 他の公共団体での講演実績、大阪府内でも実績があること。
    • 著書も、過激な部分はあるが、全て避けることはできないということも言っているということ。
    • Green Consumer活動にも我々は取り組んでおり、長期保存するものに対して考えるきっかけになるということ。
    • 添加物=悪と言っているととられるかもしれないが、添加物は必要だから使われているんだとセンターも認識している。正しいかどうかでなく、食の表示に興味を持っていただきたいということ。表示を見たときに添加物は何か調べるという興味を持ってほしい。
    • 講師選定時に、長村先生の千葉科学大学時代の文献も見たが、内容の検証まではしなかったし、そこまでできなかった。
    • 350人規模の講演会であり知名度が必要。平成19年に茨木市で安部先生を呼んで400人規模の講演会をやったという実績がある。茨木市の方からは特に問題ある内容ではなかったし、抗議等もなかったと聞いている。

これに対して、当方から次のような意見および情報を提供した。

□当方の意見

    • 判断する力をつけるには、正しい知識や考え方がベースになる。正しいかどうかは良いということではなくて、知識や考え方が間違っていれば、判断も違ってくる。
    • 安部氏の著書には「知れば怖くて食べられない!」という帯がついているが、実際には「化学物質はなぜ嫌われるのか」(資料①)にも指摘があるように「“本当に知らないからこそ”怖くて食べられない」のだと思う。
    • 例えば、安部司氏は「台所にないもの=食品添加物」としており、実際は台所にある食品添加物もあるのに、「知らないもの」として不安を煽っている。
    • また、安部司氏は「1日に平均10gもの食品添加物を摂取している」としているが、これはもともと食品に含まれる成分を含めた量である。食品添加物の多くはそもそも食品に含まれている成分であり、食品に含まれない合成の物質というのは1%くらいということを隠して不安を煽っている。
    • 厚労省が実施しているマーケットバスケット調査(資料②)では、1日摂取許容量という、一生毎日取り続けても健康に悪影響を及ぼさない量に対して、保存料が何%摂取されているか調べられており、代表的な保存料ソルビン酸で0.51%である。
    • このような資料は一般の方は目にされないと思うが、厚労省はリスコミでもこの結果を情報提供している(資料③)。安部司氏は、このような情報は提供せずに、そもそも食品に含まれる量を含めた10gという大きな数値だけを取り上げている。
    • 「メディア・バイアス」(資料④)でも指摘されているように、安部司氏の著書における「動物が死んでしまった量の1/100を添加物として使用してよい量にしよう」というのは明らかな間違いである。(厚労省による資料①で無毒性量、ADI、使用基準について説明)。死んでしまう量と無毒性量とでは百倍、千倍の違いがあると指摘されている。
    • 以上のように食品添加物は安全面からのリスクは非常に低いものである。また、役に立つから使われているということは、厚労省(資料③)や食品安全委員会(資料⑤)もリスコミで説明している。食品の日持ちは、まずは製造環境の衛生であり、さらに包装に脱酸素剤を入れるなどの工夫もして、それでも保存料等の添加物が必要とされている(資料⑥)。
    • 内閣府食品安全委員会のリスクコミュニケーション専門調査会(資料⑦)では、「すべてのものは毒である。そして、その毒性は量で決まる」ということが指摘されている。食品は、私たちの体がそうであるように、多くの化学物質から成り立っている。その中には発がん物質もあるが、全ての物質を確認することは難しく、未知の物質もある。一方、食品添加物は、発がん性を含めて安全性が確認されており、必要に応じて使用できる量が決められていたり、決める必要もないほど安全だとされたりしている。それなのになぜ、無添加が良いと言えるのだろうか?資料⑦では「無添加などのゼロリスク商法と念のための措置は誤解と不安を広げるだけで、真の対策である信頼の構築には結びつかない」ということが指摘されている。
    • 安部司氏は、これまで説明してきたようにさまざまな著書や記事で間違いを指摘されており、月刊フードケミカル記事(資料⑧)のように出版社に直接指摘されたという方もおられる。それでも長村先生の記事のように問題のある実演を繰り返している。厚労省や内閣府食品安全委員会の決めている枠組みを、誤って伝えることによって消費者の不安を煽っている。そのような人物を、消費生活センターが講師に選ばれたということを非常に残念に思う。

以上の意見に対し、枚方市消費生活センターからは「消費生活センターで企画する者に、科学的な力量がない。そのため実績がものを言う」というコメントがあった。当方からは、本日のやりとりは公開させていただくということをお断りした上で、友好的に面談を終了した。

<提供情報の一覧>

資料① 「化学物質はなぜ嫌われるのか」(佐藤健太郎、技術評論社、2008)

p114-119「『食品の裏側』の裏側」

資料② 「平成19年度マーケットバスケット方式による 保存料及び着色料の摂取量調査の結果について」

http://www.ffcr.or.jp/zaidan/FFCRHOME.nsf/pages/PDF/$FILE/DI-studyH19.pdf

資料③ 「食品添加物について[制度の概要](厚生労働省説明資料)」

平成21年11月6日、厚生労働省食品安全部基準審査課

食品のリスクを考えるワークショップ(徳島)-どう思う?食品添加物-より

http://www.fsc.go.jp/koukan/risk-workshop_tokushima_211106/risk-workshop_tokushima-seidogaiyou.pdf

資料④ 「メディア・バイアス」(松永和紀、光文社、2007)

p110-129「添加物バッシングの罪」の一部

資料⑤ 「食品安全委員会季刊誌からの抜粋資料(食品添加物関連)」

食品のリスクを考えるワークショップ(徳島)-どう思う?食品添加物-より

http://www.fsc.go.jp/koukan/risk-workshop_tokushima_211106/risk-workshop_tokushima-kikanshi.pdf

資料⑥ 「しあわせな食の未来のために~保存料メーカーが説明します」(上野製薬)

http://www.ueno-fc.co.jp/foodsafety/pamphlet/pdf/pdf2.pdf

資料⑦ 「リスク分析法が招く不安-個人的願望(フロイト)と社会的規制(パラケルサス)の対立-(唐木英明専門委員資料)」

内閣府食品安全委員会 第24回リスクコミュニケーション専門調査会より

http://www.fsc.go.jp/fsciis/attachedFile/download?retrievalId=kai20060425ri1&fileId=004

資料⑧ 「食品添加物をめぐる社会情勢」(大谷丕古磨、月刊フードケミカル2007年8月号)