石原日本維新の会共同代表への質問状

「2013年4月17日の党首討論での発言について」

当FSINでは、2013年4月17日の党首討論における石原慎太郎日本維新の会共同代表の発言について、4月30日付で質問状を提出しました。

日本維新の会宛ての質問状で引用した共同代表発言を掲載した産経新聞社編集局ウェブ編集長にも同様の情報提供をいたしました。また、このほか共同代表発言を掲載したことが確認された他紙にも同様の情報提供をいたしました。

党首討論における発言を再現された記事と承知しておりますが、今後の報道の参考としていただきたく実施したものです。

2013年4月30日

日本維新の会

共同代表

石原慎太郎様、橋下徹様

食品安全情報ネットワーク(FSIN)

http://sites.google.com/site/fsinetwork/

石原慎太郎日本維新の会共同代表の

2013年4月17日の党首討論での発言についての質問状


食品安全情報ネットワーク(FSIN)は、食品の安全に関する必要な情報を収集し、科学的な立場からこれを検証し、自らも科学的根拠がある情報発信をすべく日々活動している、学識経験者、消費者、食品事業者、メディア関係者等の有志による横断的なネットワーク組織です。

4月17日の産経新聞(ウェブ版)http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130417/plc13041723180012-n1.htmによりますと、石原慎太郎日本維新の会共同代表は4月17日の党首討論で以下のように発言したとされます。

「さらに申し上げたいのはTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の問題だ。(パネルを示して)ここに小さな、小さなステッカーが貼ってある。これは遺伝子組換え農産物に対し、カスタマー(消費者)が、危惧を抱く人がいると思うから、この製品は改良型の食べ物ですということを明示するためにこういうステッカーを作って、日本最大の消費地である首都圏、東京を中心にした埼玉、神奈川、千葉県で3000万近いカスタマーがいるわけだが、これを貼らせることにした。ところが、事前の交渉の中でアメリカがこれを嫌って、とにかく、日本で販売するアメリカ製のDNA改良型の食品からこのステッカーを外せと言っているそうだ。これは論外な話だ。こんなことを許したら国民は激怒しますよ。とにかく、いろんな問題があって、(TPPには)賛否両論がある」

「例えば、この問題に対し、イギリス人のアータッド・プシュタイという博士が危惧をいだいて、はっきりコメントを出しているが、とにかく、これを食べさせたモルモット、ラットは健康に障害をおこす。私はどちらを選ぶかというと、絶対に遺伝子組換えの食品はとらない。私は国民をモルモット化することを好まないということを発言している。こういう事態がありながらアメリカは売ろうかなということで日本が消費者の健康を守ろうと思ってやったこのステッカーを外せって言っている。これは論外な話で、こんなものを許容したらこの政府は消費者全体を敵に回すことになりますよ。これは厳に首相から厳命して交渉当事者に、この問題だけははっきり日本の主張を通してもらいたい」

上記の石原共同代表の発言は十分な現状認識に基づいておらず、国民に誤解と不安を与えることが懸念されます。国会の場では、以下の点を考慮し、正しい情報に基づいて発言頂くようお願いします。

  • 日本が輸入している主要農作物の約半分(約1,700万トン:国内コメ消費量の約2倍に相当)は遺伝子組換え作物と推定されます(注1)。
  • 遺伝子組換え農作物は国際基準に基づき、日本政府が食品としての安全性を確認しており、政府の安全性審査を経たもののみ流通が認められています。日本も、この安全性審査に基づき、1996年から約17年間輸入していますが、健康被害は1件も報告されていません(注2)。
  • プシュタイ(パズタイ)博士の事例は、実験方法や信頼性について問題が指摘されています(注3)。
  • 東京都のマークは、国が定める遺伝子組換え食品の表示制度に基づくもので、国が安全確認を行ったものだけを対象に、情報提供や消費者の選択のためのものです。従って、マークは安全性の判断基準になりません。(注4)。
  • 米国大使館、日本政府に問い合わせましたが、米国政府が遺伝子組換え食品の表示撤廃を求めたという事実は確認できませんでした(注5)。

石原共同代表の国会での発言により、日本国政府が安全性を確認し、流通を許可している輸入農作物に対する国民の信頼性を損なうことが懸念されます。今後は事実関係を確認し、正しい情報に基づいて発言頂くよう、改めてお願いします。

上記につきまして、貴党としてのお考えや今後のご対応等について、5月24日迄にお聞かせいただけますようお願いいたします。なお本状、貴党のご対応についても、FSINのホームページ等でも公開いたしますので予めご了承ください。


注1)

農林水産省の資料(http://www.maff.go.jp/j/syouan/nouan/carta/c_data/pdf/100715_suii.pdf)によれば、2009年に日本が輸入したトウモロコシ、大豆、ナタネの輸入量、最大輸入先(シェア)、最大輸入先での遺伝子組換え農作物の栽培面積の比率は以下です。

上記データからは、日本が輸入したトウモロコシ、大豆、ナタネの合計約2,200万トンのうち、約8割に当たる1,740万トンが遺伝子組換え農作物と推定できます。これらの遺伝子組換え作物は、食用油や油を使用した加工食品、飲料の甘味料など様々な食品に利用され、また飼料として食肉・卵・乳製品にかかわっており、日本の食卓にとって欠かせない物になっています。


注2)

遺伝子組換え作物は、法律に基づき①食品(食品衛生法)、②飼料(飼料安全法)、③生物多様性:環境(遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律:通称カルタヘナ法)の3つの分野で安全性が確認されています。

このうち食品の安全性については、国連食糧農業機関(FAO)・世界保健機関(WHO)の合同食品規格委員会(CODEX委員会)によって示された国際評価基準に基づいて評価されています。この国際基準は、2000年から2007年にかけて日本が議長国となり作成したもので、日本ではこの基準に基づき、内閣府の食品安全委員会が食品としての安全性を評価し、厚生労働省が認可しています。

厚生労働省の資料(http://www.mhlw.go.jp/topics/idenshi/dl/list.pdf)によれば、平成25年4月24日現在、厚生労働省が安全性審査の手続きを経た旨公表(つまり安全性を確認した)している遺伝子組換え食品は、「じゃがいも(8品種)」、「大豆(12品種)」、「てんさい(3品種)」、「トウモロコシ(180品種)」、「なたね(18品種)」、「わた(17品種)」、「アルファルファ(3品種)」、「パパイヤ(1品種)」があります。日本が輸入している遺伝子組換え農作物はこれら国が安全性を確認した遺伝子組換え食品です。


注3)

厚生労働省の資料「遺伝子組換え食品Q&A」(http://www.mhlw.go.jp/topics/idenshi/dl/qa.pdf)にも、プシュタイ(パズタイ)博士の報告に関する解説があり、その信頼性については問題点が指摘されています。また、この資料にもありますが、プシュタイ(パズタイ)博士が実験で作った遺伝子組換えジャガイモは市販されていません。


注4)

遺伝子組換え食品表示に関するQ&A 消費者庁食品表示課

http://www.caa.go.jp/foods/pdf/syokuhin737.pdf

http://www.caa.go.jp/foods/qa/kyoutsuu03_qa.html#a1-01

遺伝子組換え食品表示制度は、、国の法律(食品衛生法とJAS法)により定められているものですが、目的はあくまで情報提供であり、安全性が確認された遺伝子組換え食品が対象です。東京都のマーク(バイオテクノロジー応用食品のマーク)は、国の表示制度に加え、さらに視覚的に分かりやすい配慮を求めたものです。なお、国の表示制度において、「組換えでない」と、使っていないことを強調する表示は任意表示です。東京都のマークも、「遺伝子組換え」マーク表示協力事業者に任意に協力を求めているものにすぎません。

http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/shokuhin/idensi/idensi_guide.html


注5)

外務省作成の「2013 年米国通商代表(USTR)外国貿易障壁報告書(日本の貿易障壁言及部分:外務省作成仮要約)」

http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/tpp/pdfs/tpp20130404.pdf

にも、食品表示制度については言及されていません。

以上