昨年度のリーディングDX研究活動において、本校では特に顕著な成果を上げた実践事例がいくつかございます。ここでは、その中から代表的なものを2~3例挙げ、その詳細と令和7年度における発展・深化の方向性についてご報告いたします。これらの事例は、本校のDX推進が単なる技術導入に留まらず、生徒の学びの質や教員の指導法、さらには学校文化そのものに変革をもたらしつつあることを示しています。
事例1:AI教材「Qubena」を活用した数学科における個別最適化学習の実践
① 背景と目的: 数学科における生徒間の学力差と、一斉授業では対応しきれない個々のつまずきへの対応が課題でした。AI教材「Qubena」18 を活用し、生徒一人ひとりの理解度に応じたアダプティブな学習機会を提供することで、学習効果の最大化と学習意欲の向上を目指しました。
② 具体的な活動内容: 中学1年生の「方程式」の単元で、授業内演習及び家庭学習においてQubenaを導入。教員は管理画面から生徒の進捗状況や誤答傾向をリアルタイムで把握し、個別の声かけや補習指導を行いました。また、Qubenaで基礎を固めた後、応用的な問題解決に取り組む協働学習も組み合わせました。
③ 生徒・教員の変化や客観的データ: 従来学習に苦手意識を持っていた生徒層において、Qubenaのゲーミフィケーション要素や即時フィードバックにより、学習時間が増加し、「数学が少しわかるようになった」「問題が解けると嬉しい」といった肯定的な意見がアンケートで多数寄せられました。教員からは「個々の生徒の理解状況を詳細に把握できるようになった」「指導の個別化に役立った」との声が上がりました。
④ 考察: AI教材の導入は、生徒の学習ペースの個別化と、教員によるきめ細やかな指導支援を可能にしました。成功要因としては、Qubenaの持つアダプティブラーニング機能に加え、教員が積極的に学習データを活用し、生徒への動機づけを行った点が挙げられます。課題としては、一部生徒の家庭におけるインターネット環境の不安定さや、AI教材に頼りすぎる傾向が見られた点が挙げられます。
⑤ 令和7年度への発展・深化:
対象学年・教科を拡大(例:理科、英語)。
Qubenaから得られる学習ログをより詳細に分析し、生徒の思考プロセスや誤答パターンを類型化。それに基づき、より効果的な個別指導法や教材開発に繋げます。
AI教材と協働学習、探究学習との連携を強化し、基礎知識の定着から応用力の育成までをシームレスに繋ぐ学習モデルを構築します。
事例2:Google Jamboard(⇒FigJam)及びGoogleドキュメントを活用した国語科における協働的意見文作成
① 背景と目的: 従来の意見文指導では、生徒が他者の意見に触れる機会が限られ、思考が深まりにくいという課題がありました。クラウドベースの協働編集ツールを活用し、生徒が互いの意見をリアルタイムで共有・参照し、対話的に意見を練り上げるプロセスを通じて、論理的思考力と表現力を育成することを目指しました。旭川市立緑が丘中学校の国語科におけるJamboard活用事例 21 を参考にしました。
② 具体的な活動内容: 中学2年生の国語科「意見文を書こう」の単元で、まずGoogle Jamboardを用いて各自の意見の骨子を付箋で可視化し、グループ内で共有・議論。その後、Googleドキュメントの共同編集機能を使い、グループで一つの意見文を協力して推敲・完成させました。教員は適宜コメント機能でアドバイスを行いました。
③ 生徒・教員の変化や客観的データ: 完成した意見文の質が向上し、多様な視点を取り入れた深みのある論述が増加。生徒アンケートでは、「友達の意見を参考に自分の考えを深められた」「共同で作業することで達成感があった」という回答が9割を超えました。教員からは「生徒の思考プロセスを可視化でき、適切な指導がしやすくなった」「生徒同士の学び合いが活発になった」との評価が得られました。
④ 考察: 協働編集ツールの活用は、生徒の思考の可視化と、他者との対話を通じた学びの深化を促進しました。特に、Jamboardでのアイデア出しとドキュメントでの共同執筆という段階的な活用が効果的でした。課題としては、一部グループでの貢献度の偏りや、オンライン上での建設的な議論のスキル不足が見られました。
⑤ 令和7年度への発展・深化:
ルーブリック評価を導入し、協働作業における個々の貢献度や対話の質を評価する仕組みを構築します。
オンライン・ディベートや、他校との遠隔共同意見文作成など、より高度な協働学習に挑戦します。
生成AIを意見のブレインストーミングや論点の整理に活用し、生徒の思考を補助するツールとしての可能性を探ります。
これらの事例は、本校のDX推進が、単にICTツールを導入するだけでなく、それらを活用して具体的な教育課題の解決に取り組み、生徒の学びを豊かにするためのデザインを重視していることを示しています。成功事例だけでなく、所沢市立山口中学校のデジタル教科書活用における「学習活動の目的が生徒に十分に伝わらず」といった課題の共有 31 も含め、実践から得られた知見は、本校自身の継続的な改善努力、そしてリーディングDXスクールとしての「モデル化」1 の役割を果たす上で極めて重要であると認識しています。