令和7年度のリーディングDXスクール事業において、本校はこれまでの研究実践の成果と課題を踏まえ、文部科学省が示す重点領域との整合性を図りつつ、以下のテーマに重点を置いて研究開発を推進してまいります。これらのテーマは、生徒の情報活用能力のさらなる育成、個別最適な学びと協働的な学びの深化・発展、GIGA端末・クラウド環境の日常的な活用と家庭学習との連携強化、校務DXと教員の働き方改革、そして生成AI等の先端技術の適切な活用と探究学習への展開という、本校が目指す教育DXの核心をなすものです。
表1: 令和7年度 リーディングDXスクール事業 本校の重点目標と取り組み概要
MEXT重点領域
本校の具体的な目標
令和7年度の主な取り組み
1. 情報活用能力を育成する指導の充実
批判的思考力を伴う高度な情報リテラシー(AI・データリテラシーを含む)の育成と、教科横断的な活用力の涵養
全教科におけるフェイクニュース検証プロジェクトの実施、データサイエンス的思考を育む探究活動の導入、生成AIの倫理的活用ガイドラインの作成と実践
2. 主体的・対話的で深い学びの実現に向けたGIGA環境の活用(「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実)
AI教材や学習ログを活用した個別最適化学習の深化と、多様な協働学習ツールの効果的な活用による対話的な学びの質の向上
AI型教材(Qubena等)の全学年への段階的導入と効果検証、学習ログ分析に基づく個別フィードバックシステムの構築、オンライン共同編集ツールを活用したプロジェクトベースドラーニング(PBL)の拡充、複線型授業モデルの多様化
3. 自治体の実態に応じてさらに活用促進を図る具体的な取組(端末の日常的な持ち帰りによる家庭学習の充実等)
GIGA端末の「文房具化」とクラウド環境の日常的活用文化の醸成、及び家庭学習とのシームレスな連携強化
全生徒による端末の日常的な持ち帰りルールの確立と家庭向けサポート体制の構築、クラウド型学習プラットフォームを活用した課題配信・提出・フィードバックサイクルの定着、オンライン学校間交流の定例化
4. 自治体の実態に応じてさらに活用促進を図る具体的な取組(教員の働き方改革につなげる取組、校務DXの推進)
校務DXの徹底による業務効率化と、それによって創出された時間を活用した教員の専門性向上及び生徒指導の充実
クラウドベースの校務支援システムの全機能活用とペーパーレス会議の完全実施、AIを活用した成績処理・資料作成補助ツールの試行導入、教員向けショートタイム・オンデマンド型ICT研修コンテンツの自校開発と共有
5. その他(先端技術の活用、不登校児童生徒支援等)
生成AI等の先端技術の教育的効果と倫理的課題に関する実践的研究、及び不登校傾向生徒への個別最適化された学習支援の強化
生成AIを活用した探究学習テーマの深化(例:地域課題解決策のAIによるシミュレーション)、不登校生徒向け学習コミュニティの運営、オンラインカウンセリングシステムの導入検討
この表は、本校の令和7年度におけるリーディングDXスクール事業の全体像を明確に示し、国の示す方向性 1 と本校独自の取り組みとの関連性を具体的にご理解いただくための一助となるものです。各重点テーマの下に設定された具体的な目標と主な取り組みは、本校が目指す教育DXの姿を具現化するためのロードマップであり、今後の実践報告の基軸となります。
現代社会において、情報活用能力は、学習指導要領においても言語能力と並ぶ重要な資質・能力として位置づけられています 1。GIGAスクール環境が整備された今、生徒たちが情報を主体的に収集・判断・表現し、自らの学びや生活に活かしていく力は、ますますその重要性を増しています。本校では、令和7年度、この情報活用能力の育成をさらに深化させ、教科の枠を超えた横断的な活用を推進してまいります。
単にICT機器の操作スキルを習得するに留まらず、情報の信憑性を批判的に吟味する力、多様な情報を関連付けて新たな価値を創造する力、そして情報を倫理的に扱う態度を育成することを目指します。特に、生成AIの急速な普及 1 を踏まえ、AIが生成する情報の特性を理解し、それを適切に活用するためのリテラシー(AIリテラシー)や、データに基づいて客観的に判断する力(データリテラシー)の育成は喫緊の課題です。これらの新しい情報リテラシーの側面を、従来の教育内容に積極的に取り込んでいく必要があります。
情報モラル教育については、これまでの取り組みを継続・発展させるとともに、生成AIの利用に伴う著作権やプライバシーの問題、フェイクニュースや誤情報への対応など、新たな課題にも対応できる指導内容を研究・実践します 1。他校の先進的な事例、例えば富士見丘中学高等学校における段階的な情報関連学習のカリキュラム 14 などを参考に、生徒の発達段階に応じた体系的な情報活用能力育成プログラムを構築し、全教員で共有・実践してまいります。
情報活用能力の育成は、特定の教科に限定されるものではなく、あらゆる教育活動において求められるものです。学習指導要領が「教科教育の場面で活かす」1 ことを重視しているように、探究学習 9 をはじめとするプロジェクトベースの学習活動は、生徒が情報収集、分析、整理、発表といった一連の情報活用スキルを総合的に活用し、実践的に学ぶ絶好の機会となります。本校では、各教科の特性を活かしつつ、教科横断的な視点を取り入れたカリキュラム・デザインを推進し、生徒が実社会の課題解決や複雑な事象の探求に情報活用能力を応用できるような学習場面を豊富に設定してまいります。
GIGAスクール構想の核心的理念である「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実は、本校のリーディングDXリサーチにおける最重要テーマの一つです 1。令和7年度は、これまでの実践を踏まえ、これらの学びをさらに深化・発展させるための具体的な授業デザインや学習活動を追求します。
「個別最適な学び」の実現に向けては、AI教材(例えば、本校でも一部導入実績のあるQubena 18 やその他のアダプティブラーニングシステム)の本格的な活用とその効果検証を進めます。これらのツールは、生徒一人ひとりの学習進度、理解度、興味関心に応じた課題を提示し、きめ細やかなフィードバックを提供することで、生徒が自身のペースで効果的に学習を進めることを支援します。AI教材から得られる学習ログ(スタディログ)を分析し、個々の生徒のつまずきや特性を早期に把握し、教員による的確な個別指導や支援に繋げる方法論を確立します。
一方、「協働的な学び」においては、オンラインツール(例えば、Google Workspace 20 やJamboard(⇒FigJam) 21 など)を効果的に活用したグループワーク、ディスカッション、共同編集活動を各教科で積極的に展開します。これらのツールは、時間や場所の制約を超えたコミュニケーションを可能にし、生徒が多様な意見に触れながら思考を深め、共に課題解決に取り組む力を育成します。たつの市立龍野東中学校で実践されている「複線型の活動」11 のように、生徒が自らの興味や課題に応じて多様な学習ルートや活動を選択できるような、柔軟な授業モデルの探求も進めます。
これらの「個別最適な学び」と「協働的な学び」を真に一体化させるためには、単にツールを導入するだけでなく、学習環境全体の柔軟性を高め、教員の役割を変革していく必要があります。ICTツールは、生徒の多様な学習ニーズに対応し、効果的なグループワークを可能にしますが 1、それを最大限に活かすためには、教員が知識伝達者から学習のファシリテーターへと役割を転換し、生徒の学びを支援・伴走する存在となることが不可欠です(例:「教師はノンストップで機関指導を行うことで支援が必要な児童のサポートを行い」10)。このような学習形態を支えるためには、教員向けの専門研修の充実に加え、教室の物理的なレイアウトや時間割編成の見直しも視野に入れる必要があるかもしれません 7。
さらに、「個別最適な学び」を支援するツールから得られる学習データは、「協働的な学び」の質を高めるためにも活用できます。AIチューター 19 やデジタル学習プラットフォーム 23 は、個々の生徒の進捗や理解度に関する貴重なデータを提供します。教員はこれらのデータを分析することで、協働学習のグループ編成を戦略的に行い、多様な視点や能力を持つ生徒同士が互いに学び合えるような環境を創り出すことができます。例えば、ある概念を既に習得している生徒と、まだ苦戦している生徒を意図的に組み合わせることで、ピア・ティーチングを促進し、双方の理解を深めることが期待できます。このようなデータ活用を推進するためには、生徒のプライバシーに配慮した倫理的なデータ収集・分析・活用に関する校内ガイドラインを整備し、教員のデータリテラシーを向上させる取り組みが不可欠となります。
GIGAスクール構想によって整備された1人1台端末は、鉛筆やノートと並ぶ「令和の時代の文房具」として、授業中はもちろんのこと、休み時間や家庭学習など、あらゆる教育活動の場面で日常的に活用されることが理想です 21。本校では、この「日常使い」の文化を醸成し、クラウド環境の利点を最大限に活かすことで、学習効果の向上と家庭学習とのシームレスな連携強化を目指します。
クラウド環境(例えば、Google Workspace 20 など)は、資料の共有、課題の提出・フィードバック、生徒と教員間、あるいは生徒同士のコミュニケーションを飛躍的に効率化し、その質を高める可能性を秘めています。これらの機能を積極的に活用し、生徒がいつでもどこでも学習リソースにアクセスでき、教員が個々の学習状況を把握しやすい環境を構築します。
端末の日常的な持ち帰りについては、家庭学習の充実という観点から、その効果的な運用方法を研究・推進します 1。単に宿題をデジタル化するだけでなく、家庭での探究活動や反転学習への活用、オンラインでの補習や発展学習の機会提供などを検討します。保護者がお子様の学習進捗を把握し、家庭での学習をサポートしやすくなるような情報共有の仕組み(例:学習管理システムを通じた進捗の可視化 14)も重要です。ただし、端末の持ち帰りに関しては、ランドセルの中身の軽量化や視力低下への懸念といった課題 14 にも配慮し、生徒の心身の健康を第一に考えた運用ルールを整備します。
さらに、オンライン環境を活用して、学校間の交流学習や、地域人材・外部専門家を招いた遠隔授業などを積極的に実施し、生徒の視野を広げ、多様な価値観に触れる機会を提供します 1。
GIGA端末とクラウド環境の「日常使い」を実現するためには、技術的・物理的な障壁を取り除き、学校全体で支援的な文化を育むことが不可欠です。安定した無線LAN環境や迅速なデバイストラブル対応体制の整備 25 はもちろんのこと、端末の適切な使用方法やデータ管理に関する明確な校内ルールを策定し、全教職員・生徒・保護者で共有することが前提となります。また、教員自身が自信を持ってICTを授業に自然に取り入れられるよう、継続的な研修とサポートが欠かせません。
家庭学習との効果的な連携は、単に宿題の提出方法をデジタル化するに留まらず、学校と家庭が一体となって生徒の学びを支える「連続的な学習ループ」を創り出すことを目指します。持ち帰り端末 1 は、反転学習モデルの導入、補足的な学習リソースへのアクセス、時間外の協働学習などを可能にします。保護者が学習進捗を確認できるプラットフォーム 14 は、家庭と学校の連携を強化し、生徒の学習に関する継続的な対話を促進することが期待されます。家庭での学習課題は、教室での活動を補完し、生徒の興味関心を引き出すような魅力的なものとなるよう工夫してまいります。
教育DXの推進は、生徒の学習活動の変革だけでなく、教員の働き方改革と校務の効率化にも大きく貢献するものです。文部科学省も、教育DXと教員の働き方改革を一体的に進める方針を明確に示しています 1。本校では、グループウェアやクラウド環境を最大限に活用し、校務の徹底的な効率化を図ることで、教員がより質の高い教育活動に注力できる時間を創出することを目指します 1。
具体的には、会議資料のペーパーレス化、校内通達や情報共有のデジタル化、各種申請手続きのオンライン化などを推進し、印刷や配布、集計といった物理的な作業時間を大幅に削減します。これにより、意思決定の迅速化や、より円滑なコミュニケーションが期待できます。進路指導業務においてGoogleサイトを活用して情報共有を一元化し、業務時間を大幅に短縮した事例 10 や、旭川市立緑が丘中学校におけるGoogle Workspaceを活用した多岐にわたる校務効率化の実践 21 は、本校が目指す方向性を示す好例です。
教員研修のあり方についてもDXの視点を取り入れ、その効果と効率を高めます。従来の集合型研修に加え、オンライン研修、短時間で集中的に行うマイクロラーニング形式の研修、教員が各自のペースで学べるオンデマンド研修などを積極的に導入します 3。これにより、教員は必要な知識やスキルを、時間や場所の制約を受けにくく、より柔軟に習得できるようになります。
これらの働き方改革によって生み出された時間は、教材研究の深化、生徒一人ひとりと向き合う時間の充実、新たな授業開発への挑戦など、教育活動の質を直接的に高めるための活動に充当します 6。これが、校務DXが目指す好循環です。
校務DXの成功には、学校管理職の強力なリーダーシップと、学校全体の変革へのコミットメントが不可欠です。一部の教員による個人的な努力に頼るのではなく、学校運営の仕組みそのものを変革していくという強い意志が求められます。教員が新しいツールや業務フローの導入に際して、その意義を理解し、自ら積極的に活用しようとする姿勢(「教員側がその良さに気づくこと」10)を引き出すためには、トップダウンの指示だけでなく、丁寧な説明とメリットの提示、そして試行錯誤を許容する風通しの良い組織文化が重要です。
さらに、校務DXは単なる業務効率化に留まらず、教員間の専門的な協働の質を高めることにも繋がります。クラウドベースのプラットフォーム 3 は、教材や指導案の共有、共同での授業計画作成、そしてよりダイナミックで建設的な職員会議(「対話的・協働的な職員会議・教員研修の実施等」1)を促進します。これにより、教員間の知識や経験の共有が活発化し、学校全体の指導力向上と、より強い連帯感の醸成が期待できます。本校では、DXを通じて教員間の壁を取り払い、より協調的で専門性の高い専門職共同体を構築することで、最終的には生徒の学びの質の向上に貢献することを目指します。
近年、急速な進化を遂げている生成AIをはじめとする先端技術は、教育現場においても大きな可能性を秘めています。文部科学省も、情報活用能力育成の観点から、生成AIの教育利用について一定の方向性を示しており 1、本校においても、その適切な活用方法と探究学習への展開について、令和7年度に重点的に研究を進めてまいります。
生成AIの導入にあたっては、生徒の情報活用能力、特に情報を批判的に吟味する力(クリティカルシンキング)や倫理観を育成することを大前提とします。AIが生成する情報の特性(メリット・デメリット、得意なこと・苦手なこと、潜在的なバイアスなど)を生徒自身が深く理解し、それを踏まえて責任ある活用ができるよう指導します。この点において、AIリテラシー教育は情報モラル教育の重要な一部となります。
具体的な活用場面としては、探究学習における情報収集の補助、多様な視点からのアイデア生成の壁打ち相手、レポートや論文などの文章校正支援、プログラミング学習におけるコード生成やデバッグ支援などが考えられます。他校の事例では、3Dデザイン講座や、生成AIと3Dプリンタを活用したモノづくり体験 13、探究活動におけるデータ収集やプログラム作成への活用 14 など、多岐にわたる試みが見られます。本校においても、これらの事例を参考にしつつ、生徒の主体的な学びを深めるためのAI活用を探究します。
特に探究学習においては、テーマ設定の段階でのブレインストーミング支援、関連情報の効率的な収集・整理、多様な分析視点の提供、そして成果物の表現方法の提案など、AIが各プロセスで生徒の思考を刺激し、探究の質を高める「思考のパートナー」としての役割を果たすことが期待されます 9。
これらの取り組みを円滑に進めるためには、教員自身が生成AIの特性を理解し、教育活動に効果的に取り入れるためのスキルを習得することが不可欠です。そのため、教員向けのAIリテラシー研修を計画的に実施し、校内で活用事例や指導上の留意点を共有する体制を構築します。
生成AIの教育利用は、生徒の批判的思考力と倫理観の育成と表裏一体で進められるべきです。AIは強力なツールである一方、その出力には誤りや偏りが含まれる可能性があり、また、安易な利用は盗用や思考力の低下を招く危険性も指摘されています。生徒がAIの生成物を鵜呑みにせず、自ら情報の真偽を確かめ、多角的な視点から検討し、倫理的な配慮をもって活用する能力(情報活用能力 1 の一部としてのAIリテラシー)を養うことが、AI時代における教育の重要な責務です。「リテラシーや理解の違いによる学校間格差」28 が生じないよう、本校では生徒に「AIを使う方法」だけでなく、「AIと共に考える方法」を指導することを重視します。
また、生成AIは、生徒の探究学習を個別最適化し、その可能性を大きく広げることができますが、そのためには教員による適切な指導と足場かけ(スキャフォールディング)が不可欠です。AIを「思考のパートナー」27 として活用することで、生徒は多様なアイデアに触れ、複雑な課題にも主体的に取り組むことが期待できます 9。しかし、教員の適切なガイドがなければ、生徒はAIを表面的な情報検索ツールとしてしか利用できなかったり、AIの提案に過度に依存してしまったりする可能性があります。教員には、AIツールの操作方法だけでなく、AIを効果的に組み込んだ探究プロセスのデザイン能力や、AIの利用に関する生徒の批判的思考を促す指導力が求められます。本校では、AIが人間の知性や創造性を代替するのではなく、それらを拡張・補強するツールとして機能するよう、探究学習におけるAI活用のあり方を研究してまいります。