心臓の拍動は規則的に見えますが、その内部で直列に並ぶサルコメア(筋肉の最小収縮単位)が、どのように協調して動くかは十分に分かっていませんでした。本研究では、生きた新生仔ラット心筋細胞を局所的に約41℃まで温めたときに現れる高頻度サルコメア自励振動(HSOs)を利用し、各細胞で直列に並ぶ5個のサルコメアそれぞれの長さを、1秒間に500フレームで記録したデータを再解析しました。
5個のサルコメアには4つの隣接関係があります。解析の結果、HSOs中に検出した230件の状態遷移のうち216件(93.9%)は、4つの関係のうち1つだけが変わる「1リンク切り替え」でした。サルコメア同士の連携は一斉に組み替わるのではなく、主として1カ所ずつ段階的に更新されていたことになります。
さらに、切り替えに伴って相対的に短くなる場所と長くなる場所の隔たりを「補償到達距離 S」として定量化しました。補償到達距離を計算できた248件では、同じIAAI→IAIIの切り替えでも、長さ再配分が近傍にとどまる例(S=1.29)と、観察した5サルコメア鎖の広い範囲に及ぶ例(S=2.88)がありました。また、切り替え前に同じタイミングで動く隣接ペアが多いほど、補償到達距離が大きくなる傾向が示されました。
これらの結果は、アクチン・ミオシン分子の確率的な働きと、心筋細胞全体の安定した拍動の間に、複数のサルコメアが関わる中間的な協調過程があることを示しています。なお、本研究の結論は、今回観察した5サルコメア鎖の範囲に基づくものです。
図の上半分は、連続する5個のサルコメアで同じIAAI→IAIIの1リンク切り替えが起きた2例です。赤枠は、4つの隣接関係のうち変化した1カ所を示します。左では相対的な短縮(青)と伸長(橙)が近く、補償到達距離はS=1.29でした。右では両者が観察した5サルコメア鎖の広い範囲に分かれ、S=2.88でした。下半分左は補償到達距離の分布、右は切り替え前の同位相(I)リンクが多いほどSが大きい傾向を示します。
論文情報・引用
Seine A. Shintani. Structured neighboring-sarcomere switching is coupled to variable-reach internal length redistribution during hyperthermal sarcomeric oscillations in living cardiomyocytes. Biophysics and Physicobiology 23: e230024 (2026).
Advance Publication:2026年7月15日