本論文では、整形外科および歯科用インプラントに広く用いられるチタン表面に、骨結合能・抗菌性・骨形成促進能という三つの機能を同時に付与する方法をご紹介しています。著者らはまず NaOH 処理によって層状のナトリウムチタネートを形成し、次いで Ca と Sr を置換させた後に 600 °C で焼成することで、カルシウム欠損型カルシウムチタネート(CD‑CT)層を得ました。さらに Sr(NO₃)₂ と AgNO₃ を含む pH 4 の溶液に浸漬することで、骨形成を促進する Sr²⁺ と広範囲に抗菌作用を示す Ag⁺ を同時に導入した厚さ約 1 µm の緻密な被覆層を生成しています。
得られた被覆層はシミュレーテッド体液中で 3 日以内に骨様アパタイトを自発的に形成し、E. coli に対して 5.9 log の生残低減を示す強力な抗菌性を発揮しました。また、14 日間で累積 1.29 ppm の Sr²⁺ を持続的に放出し、MC3T3‑E1 前骨芽細胞に対しては増殖阻害や細胞毒性を示しませんでした。ラマン分光および XPS 解析により Sr と Ag が固溶した CD‑CT フェーズの存在が確認され、スクラッチ試験では約 40 mN の高い付着強度を示したことから、臨床応用にも十分耐え得る耐久性を備えていると考えられます。
従来のハイドロキシアパタイト溶射層が経時的な溶解や感染リスクを抱えていたのに対し、本手法は化学溶液と熱処理のみで均一な多機能表層をチタン内部や多孔体の奥まで形成できる点が特長です。骨との直接結合を可能にするアパタイト形成能に加え、感染制御および骨リモデリング促進が一体化した本コーティングは、次世代の人工股関節ステムや口腔インプラントにおける長期的な成功率向上に大きく貢献すると期待されます。