本研究は、骨や歯科のインプラントに求められる「強度」「骨への親和性」「長期的な抗菌性」という三つの課題を同時に解決するために、孔径が外側から内側へと900、600、300μmへと連続的に変化する勾配多孔構造を持つチタン製スキャフォールドを新たに設計・製造しました。さらに、その表面にはシンプルな化学処理によってカルシウムとヨウ素イオンを同時に担持させることに成功しています。この独自設計により、力学試験ではヒト海綿骨に近い低弾性率と高い圧縮強度、さらに10kN×100万回の繰返し荷重にも耐える高い疲労強度が得られ、荷重支持を伴う臨床応用にも十分耐えうることが示されました。
また、模擬体液中では3日以内に全ての内部表面でアパタイト(骨の主成分)が形成され、迅速な骨結合能が示唆されます。特筆すべきは、ヨウ素イオンが表面から初期バーストと拡散制御の二段階で徐々に放出され、耐性菌MRSAに対しても99%以上の殺菌効果を3カ月以上持続できた点です。孔径勾配構造を持つことで、外側の大孔が骨組織の侵入・固定を促進し、内側の細孔部が抗菌イオンの長期維持に寄与するという、「骨伝導性」と「抗菌性」のトレードオフを高度に両立しました。さらに細胞実験においても、生体適合性や骨芽細胞の分化促進効果が確認されており、感染や無菌性ゆるみを同時に克服できる次世代インプラント材料として大きな展開が期待されます。
論文情報・引用
Mahmoud Gallab, Phuc Thi Minh Le, Seine A. Shintani, Hiroaki Takadama, Morihiro Ito, Hisashi Kitagaki, Tomiharu Matsushita, Shintaro Honda, Yaichiro Okuzu, Shunsuke Fujibayashi, Seiji Yamaguchi. Mechanical, bioactive, and long-lasting antibacterial properties of a Ti scaffold with gradient pores releasing iodine ions. Biomaterials Advances, 158, 213781, 2024.