近年、蛍光ナノテクノロジーの進歩により、拍動中の生体心筋内でサルコメアをナノメートル精度で観察する手法が実現しました。本論文では、マウスやラットを対象としたin vivo 心筋ナノイメージングの開発経緯と応用例を体系的にまとめています。従来のエコーやMRIでは空間分解能がおよそ100 µmに留まり、興奮収縮連関を担うサルコメア長の100 nm変化や細胞内Ca²⁺動態を捉えることが困難でした。本技術は、量子ドットや高感度EMCCDカメラを組み合わせることで、心拍ごとに発生するサルコメア長変化とCa²⁺トランジェントを同時に可視化し、拍動中の心筋機能を分子スケールで解析できる点が特長です。
著者らはまず、表面に貼付した蛍光ビーズを追跡する手法で心外膜のμmレベルの動きを計測し、その後、α‑アクチニンに融合した蛍光タンパク質や量子ドット標識によりサルコメアZディスクの位置をナノメートル単位で追跡する方法へと発展させました。生体内での高時間分解能計測により、長さ依存性活性化の第一相が1拍ごとに再現される様子や、Ca²⁺波とサルコメア応答の局在的非同期が明らかにされ、フランク–スターリング機構の新しい理解に貢献しています。
本技術は、遺伝子改変マウスモデルや心不全モデルへの応用により、病態進行過程でのサルコメア異常やカルシウム制御破綻を直接検証できる可能性を示します。将来的には、薬物や遺伝子治療がサルコメア力学へ与える影響をin vivoで評価するプラットフォームとして、基礎研究とトランスレーショナル研究の双方で重要な役割を果たすと期待されます。
論文情報・引用
Shimozawa T., Hirokawa E., Kobirumaki‑Shimozawa F., Oyama K., Shintani S.A., Terui T., Kushida Y., Tsukamoto S., Fujii T., Ishiwata S., Fukuda N. In vivo cardiac nano‑imaging: A new technology for high‑precision analyses of sarcomere dynamics in the heart. Progress in Biophysics and Molecular Biology, 124: 31‑40 (2017).