興奮収縮連関を真に分子レベルで理解するには、カルシウム動態とサルコメア運動を同じ座標系で測る必要があります。本研究は、FRET型 Ca²⁺センサー yellow Cameleon‑Nano を Zディスクに局在化させることで、ラット新生仔心筋細胞内の局所カルシウム濃度と単一サルコメア長のリアルタイム同時計測を初めて実現しました。四種類の YC‑Nano を比較した結果、解離定数 140 nM の α‑actinin–YC‑Nano140 が最も広いダイナミックレンジと十分な蛍光強度を兼ね備え、スキャン速度 33 fps で 17 nm 精度のサルコメア長ナノメトリーを可能にすることが示されました。
本手法により、Ca²⁺トランジェントはミオフィブリル全長にわたり同期して伝搬する一方、隣接サルコメアの伸縮タイミングは微妙にずれているため、従来の「平均長」解析では変位量を約半分に過小評価していた事実が明らかになりました。また電気刺激(5 Hz)や自発拍動、高温(37 °C)条件下でも計測系が安定動作することを確認し、β刺激(イソプレナリン)による Ca²⁺動態の加速とサルコメア長伸張速度の約2倍増加を定量化しています。さらにアクトミオシン活性化剤 Omecamtiv Mecarbil や局所 Ca²⁺ウェーブの観察を通して、薬理・温度操作が単一サルコメアレベルの興奮収縮連関に及ぼす影響を詳細に検証しました。
これらの成果は、胎生期から成獣へと至る心筋発達過程や心不全・不整脈の初期病態を、サブセルラー領域で可視化するための新しいプラットフォームを提供します。加えて、アデノウイルスベクターによる in vivo 応用への道筋も示されており、将来的には拍動心臓内での「ナノイメージング心電図」として病態解明や創薬スクリーニングに貢献すると期待されます。
論文情報・引用
Seiichi Tsukamoto, Teruyuki Fujii, Kotaro Oyama, Seine A. Shintani, Togo Shimozawa, Fuyu Kobirumaki‑Shimozawa, Shin’ichi Ishiwata, Norio Fukuda. Simultaneous imaging of local calcium and single sarcomere length in rat neonatal cardiomyocytes using yellow Cameleon‑Nano140. Journal of General Physiology 148 (4), 341‑355 (2016).