本論文では、整形外科・歯科インプラントに不可欠な「抗菌性」と「骨結合性」を同時に実現するため、チタンおよびその合金表面にヨウ素を高濃度で担持させる全く新しい化学・熱複合処理が報告されています。まず NaOH―CaCl₂―熱処理によって骨誘導性を示す層状カルシウムチタネート(CaTiO₃系)が形成され、この Ca²⁺ イオンを I⁺/I₃⁺ とイオン交換することで表面に 0.7–10.5 mass% のヨウ素を制御導入することに成功しました。XPS 解析ではヨウ素の多くが正電荷状態で存在し、同時に酸性・塩基性 Ti–OH 基が豊富に生成して等電点が pH 5.3 へとシフトしたこと、さらに表面の酸塩基機能が SBF 中でアパタイト析出を加速することが明らかになっています。
8.6 mass% のヨウ素を担持した Ti 試料は、90 日間で計 5.6 ppm のヨウ素を徐放しつつ、MRSA、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、ならびに大腸菌に対して 99 %以上の殺菌率を示しました。湿熱(80 °C、95 %RH)や PBS 浸漬(37 °C、6 か月)といった厳しい耐久試験後でも MRSA に対する抑制率は 97.3 % を維持し、長期的な抗感染能が実証されています。MC3T3‑E1 前骨芽細胞および L929 線維芽細胞を用いた培養試験では、有意な細胞毒性は観察されず、むしろ骨芽細胞の 3 日目増殖が促進されました。加えて全試料は 3 日以内に SBF 中で低結晶性アパタイトを形成し、in vitro での骨結合ポテンシャルを裏づけています。
このヨウ素含有カルシウムチタネート層は、Ti‑6Al‑4V や Ti‑15Zr‑4Nb‑4Ta といった医療用合金にも適用でき、スクラッチ試験では最大 119 mN の高い付着・耐傷性が確認されました。以上の成果は、骨へ迅速に結合しつつ術後感染を長期にわたり抑制できる多機能インプラント表面の実現可能性を示すものであり、特に感染リスクが高い人工関節や歯科インプラントに対して大きな臨床的意義を持つと期待されます。
論文情報・引用
Seiji Yamaguchi, Phuc Thi Minh Le, Seine A. Shintani, Hiroaki Takadama, Morihiro Ito, Sara Ferraris, Silvia Sprianoi. Iodine-Loaded Calcium Titanate for Bone Repair with Sustainable Antibacterial Activity Prepared by Solution and Heat Treatment. Nanomaterials, 11(9), 2199, 2021.
https://doi.org/10.3390/nano11092199