本総説は、筋原線維や有糸分裂紡錘体など“液晶構造”を備えた生体運動系の動的特性を階層横断的に整理し、液晶物理と分子モーター生理を結びつけた枠組みを提示しています。筆頭著者の石渡らは、横紋筋サルコメアを例にとり「スメクティック A 型液晶」としての配列秩序を概観し、カルシウム濃度やADP/Pi 条件下で現れる自発振動―Spontaneous Oscillatory Contraction (SPOC)―の発見と三連微分方程式モデルによる理論化を紹介しました。続いて、微小管が示すネマティック液晶的配向を背景にした有糸分裂紡錘体のミクロレオロジー解析、ならびに外力による染色体分配タイミング制御など、アクティブ液晶としての特異な弾性・粘性応答を議論しています。
後半では、細胞サイズエマルションや巨大リポソームを用いた“人工細胞”内でのアクトミオシンリング自己組織化を取り上げ、境界条件(球状閉空間)がフィラメントの持つ長尺弾性と相まって収縮環を自然発生させる原理解明を報告しました。さらに、これら階層的研究を通じて得られた普遍的なデザイン原理――すなわち「力のバランスと拮抗」が各階層で新たな機能を創発させるという視点――が示され、今後の再生医療やバイオソフトマテリアル設計への応用可能性も論じられています。
論文情報・引用
Shin'ichi Ishiwata, Makito Miyazaki, Katsuhiko Sato, Koutaro Nakagome, Seine A. Shintani, Fuyu Kobirumaki‑Shimozawa, et al. Dynamic properties of bio‑motile systems with a liquid‑crystalline structure. Molecular Crystals and Liquid Crystals 647, 127‑150 (2017).