本研究は、骨粗鬆症など骨が弱くなった患者さん向けの新しい骨修復インプラント材料の開発に焦点を当てています。チタン合金(Ti-6Al-4V)は強度と生体適合性に優れるため人工関節や歯科インプラントなどで広く使われていますが、骨との直接的な結合性(骨伝導性)が弱く、特に骨粗鬆症骨ではゆるみやすいという課題がありました。また、高齢社会の進展により、インプラント治療と同時に骨吸収抑制薬(ビスホスホネート系薬剤)の長期投与が望まれるケースが増えています。
この論文では、まずTi合金表面を特殊な化学処理(Ca–heat処理)によって三次元ナノネットワーク構造をもつカルシウムチタネート(cd–CT)層に変換し、その上に薬剤(ミノドロン酸)を添加したゼラチン層をコーティングすることで、有機–無機複合体の新しい多機能表面を実現しました。ゼラチン層は熱架橋処理を施すことで徐々に溶解し、薬剤を長期間にわたって安定的に放出できます。作製した複合コーティングは、機械的な耐傷性・接着性に優れるだけでなく、体液模倣液(SBF)中で迅速かつ広範囲にアパタイト(骨の主成分)を形成することができ、骨への優れた親和性を示しました。薬剤放出試験では、治療効果のある濃度のミノドロン酸が1週間以上にわたって放出されることが確認されています。
さらに、無機cd–CT層と有機ゼラチン層が物理的・化学的に強固に結合しあうことで、インプラントのゆるみや早期脱落を防ぐ構造的なメリットも備えています。本成果は、チタン合金インプラントの表面改質によって骨への結合性と薬剤治療機能を同時に実現し、将来的には骨粗鬆症患者向けの次世代インプラント材料の実用化に大きく貢献することが期待されます。
論文情報・引用
Yamaguchi S., Akeda K., Shintani S.A., Sudo A., Matsushita T.
Drug-Releasing Gelatin Coating Reinforced with Calcium Titanate Formed on Ti–6Al–4V Alloy Designed for Osteoporosis Bone Repair. Coatings, 12(2):139 (2022).
https://doi.org/10.3390/coatings12020139