選択的レーザ溶融(SLM)で造形した純チタンは、粒子が部分的に溶融して固化するため Ra が約 5 µm にも達する粗面をもともと備えています。本研究では、その多孔質かつ高粗度の SLM‑Ti に H₂SO₄/HCl 混酸処理を行った後、600 °C でアニールする「MAH 処理」を施し、形態・化学両面から“骨と親和する”表面を作製しました。SEM と表面粗さ測定から、混酸がミクロ多孔を形成して Ra を 8.6 µm 以上に高め、続く熱処理で表層がチタン水素化物から正帯電のルチル TiO₂ へ転換したことが確認されました。この処理により水接触角は 95° から 1° 未満へと劇的に低下し、SBF 浸漬 1 日以内に全面アパタイト被覆が生じる高い骨結合能が発現しました。
前骨芽様 MC3T3‑E1 細胞を用いた評価では、粗面化と活性化が相乗し、初期 0.5 h から細胞が梁状に伸展して粒子間をブリッジし、3 日後には未処理 SLM‑Ti や鏡面 cp‑Ti を上回る増殖が観察されました。MAH 表面では 10–14 日目に Alp 活性が顕著に上昇し、21 日目には石灰化結節量が最大となり、RT‑PCR 解析でも Alp、Runx2、Ocn、Opn が有意に高発現しました。さらに Wnt/β‑catenin 系や増殖関連 cyclin D1 の発現も亢進しており、トポグラフィと正帯電ルチル層が協調して骨芽細胞分化シグナルを活性化したことが示唆されます。
これらの結果は、SLM による個別化デザインと混酸・熱による生体活性化を組み合わせることで、インプラントが骨欠損形状に適合するだけでなく、早期から骨と化学的に結合し、周囲骨芽細胞の分化・石灰化を促進できることを示しています。臨床応用が進む酸化発展型 Ti 表面の中でも、特に形状自由度と高い骨誘導性を兼備する点で、次世代の整形外科・歯科用カスタムインプラントとして大きな可能性を有します。
論文情報・引用
Seiji Yamaguchi, Phuc Thi Minh Le, Seine A. Shintani, Hiroaki Takadama, Morihiro Ito, Sara Ferraris, Silvia Spriano. Bioactivation Treatment with Mixed Acid and Heat on Titanium Implants Fabricated by Selective Laser Melting Enhances Preosteoblast Cell Differentiation. Nanomaterials, 11(4), 987, 2021.