探索者がW203号室に入り、壁にかけられた絵を一つひとつ検めていくと、確かにウィルソン・ジェンキンスの絵画が飾られている※。
※ 先に<芸術:絵画>で情報を獲得している場合は、すぐにどの絵かわかる。
額縁の埃や壁の日焼け跡などを入念に観察してみても、そこに最近人が触れたような形跡は残されていないことがわかる。
額縁を慎重に持ち上げれば、壁から絵画を取り外すことができる。そして額縁の裏側を調べ、右隅に小さな出っ張りがついていることがわかる——それに指で触れたとき、カタリと微かな音が鳴って、取り付けられていたらしい部品が外れた。その部品を改めて手のひらの上にのせると、それが紛れもなく鍵の形状をしていることがわかるだろう。
しかし、それを手に入れたとき、探索者の脳裏にふと何か言いようのない感覚が過る。疲労感、倦怠感とでも呼ぶのが最も近いのだろうが、それにしては何か思い当たる行動をしたわけでもない。しかし一度自覚したそれは、最早無視していられるほど存在感を消してくれることはなく、徐々に鮮明に感じられるようになってくる。
どうするかは探索者次第ではあるが、一度自分が寝泊りしている部屋、もしくは近場の寝台がある部屋に行き、仮眠か休憩をとったほうがいいかもしれない、と考えるのは自然なことだろう。
ひとまず寝台のある部屋に移り、身体を休めることにした探索者は、個室に入ったと同時にふっと息をつく。自分が感じている得体の知れない頭の重たさに、自覚しないうちに嫌悪感を覚えていたのだろうか、休めると思うと少し気分が楽になる。
そうして間もなく探索者は寝台に身体を横たえ、呼吸を楽にする。とはいえそれは眠気とは異なる感覚であり、意識自体は至って明瞭なため、眠れそうにはない。目を瞑って眠ろうとすることはできても、しばらく意識が離れていくことはない。
ここで、E-01の日数経過によるイベントで、探索者が既に "喪失" の再現を体験している場合、その再現に関連するものが出現したり、あるいは "喪失" 自体やそれに関連する人が探索者のそばで話しかけてくるなど、探索者を "喪失" とじっくり向かい合わせる時間にすると良いだろう。
E-01の日数経過によるイベントで、探索者がまだ "喪失" の再現を体験していない場合、探索者はどこか茫然とした意識のなかで不意に、 "喪失" についての記憶が過る。それが鮮明な像を結ぶのか、あるいは朧げなのかは探索者によるだろうが、いずれにせよ探索者はそれを思い返す自分がいま何故か全く不快さや物寂しさを伴わず、ただ純然と懐かしむような心持ちであることに気づく。
そうしているうちに、探索者にのしかかっていた身体や頭の重たさが、ゆっくりと時間をかけて次第に楽になってくる。強張っていた身体が安堵したかのように、息がしやすくなった。
これ以降の描写は、複数名で遊んでいる場合、ゲームマスターとプレイヤー1名のみが対話でき、またその内容を知ることができるのもその1名のみという状況を作り、全プレイヤーにも同様の状況で進行していく「個別処理」とすること。
探索者は楽になった身体を起こし、手に入れた地下への鍵を持って部屋を出る。
複数名で遊んでいる場合、他の探索者を探してみても見当たらない。他の探索者が鍵を持っていたとしても、いつの間にかそれが自分の手元にあったため、それを持ってひとまず西階段——地下への扉付近まで行くことになるだろう。
西階段に到着し、探索者は床に視線を落とす。そこに確かにある小さな窪みを持ち上げると——まだ鍵を差し込んでいないにも関わらず、何故か扉が開く音がした。多少なり困惑するだろうが、ともあれ探索者は扉を完全に開ききるまで持ち上げ、想像していたとおりといえばそのとおりの姿で待ち受けている地下へと続く階段を目にすることになる。
探索者は他にどうすることもないため、そのまま階段を下りていくことになるだろう。
——そして、下りた階段の先に、探索者はある光景を目にすることになる。
以降の描写は探索者に合わせて行うが、まず地下の階段を下りていった先には、探索者にとって最も重要な "喪失" が必ず再現されているものとする。
その "喪失" が人物であれば、人が再現されていて光景は別荘のままという描写でも良いし、光景から丸ごと思い出の場所にするほうが良ければ、そのように描写することになる。また "喪失" が概念ならば、現実には有り得ない情景(夢で見た世界など)を再現することもできる。とにかくそれが探索者の記憶にさえあれば全て再現可能、つまり描写に用いることが可能である。
また、これはゲームマスター向けの判断基準として補足する情報だが、"喪失" はイス人が開発した記憶の収集装置が人間の記憶を求め、暴走していることを知っている。他にも、記憶収集装置に関する知識を多く共有されているため、自分が何の役割でここに再現されたのか、何をしなければならないかということを正しく認識している。そして再現された "喪失" は、どのような手段であるかは探索者やゲームマスターの裁量によって異なるが、必ず以下の情報を探索者に与えてくる。
- この別荘から脱出するためには、"喪失" を殺害・破壊・否定する(=喪失する)しかない
- そしてその選択をした場合、脱出した後に(任意の探索者)は "喪失" に関する全ての記憶を失い、二度と取り戻すことはできなくなる
つまり、これはゲームマスター向けの情報だが、このシーンは「自分の人生にとって最も重要な "喪失" を、再び失う決断を自ら下すか」「あるいは、"喪失" とともに生きたいと願うか」ということをプレイヤーに問う意図がある。その意図に添う範囲で、かつプレイヤーが不快にならない・互いの関係性に軋轢が生まれないようなものであれば、どのような演出を考案するかはゲームマスターに全て委ねられている、ということである。
註
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このシーンの演出で注意してほしいのは、プレイヤー・ゲームマスター間で不快な表現などに関する意見を事前に共有しておくことである。例えば、「フィクションでも家族・恋人を手にかけることには抵抗がある」というプレイヤーがいるとすれば、ゲームマスターはそれを事前に把握しておいて、手にかけるロールプレイを強要・推奨しない演出を用意してほしい。
本作は、プレイヤーが納得のいく選択をしたからこそ見られる物語を紡いでほしい、との思いで制作されたものであり、プレイヤーが不快になる行為を助長・奨励するつもりは毛頭ない。ゲームマスターはそれを踏まえ、厳に配慮して演出を考えてほしい。また、ゲームマスターもプレイヤーの嗜好・希望があったとして、自らが不快と思う行為を演出に含む必要はない。
もしこれを伝え、他にも探索者から質問があるようなら、ゲームマスターは以下の範囲内で回答することになる。
ここは探索者の記憶に基づいて再現された場所である。それを探索者は心のどこかで確信しながら、しかし一方でこの光景が虚実であるようには思えない——思いたくない、と願っている自分がいることもまた自覚するだろう。
この別荘にかけられた鍵は、記憶の収集装置に用いられているイスの偉大なる種族、つまり異星の種族のテクノロジーを外部に漏洩させないための、いわゆる警備システムである。イス人は彼らのテクノロジーを人間から隠すために、この警備システムを解除する鍵を「対象者にとって最も大切な記憶」の姿に設定することで、解除条件を難易度の高いものにした。それに加えて、「対象者にとって最も大切な記憶」に関連する記憶を全て失うようにすることで、仮にその条件をクリアして鍵を解除できたとしても、「対象者にとって最も大切な記憶」が鍵として現れれば、そこで得たテクノロジーに関する知識がその記憶と結びつくため、知識も忘却させることができる。この2つの利点から、イス人は「 "喪失" を失うこと」を鍵の解除条件としたため、人間(正確には全ての高知能な知性体)はそれ以外の手段で鍵を解除することが不可能となっている。
ない。探しても徒労に終わるだろう。
"喪失" が関わる限り、全ての記憶を失う。ここで再現された "喪失" も、偽物か本物かどうかということに関わらず、探索者の認識として "喪失" に関する記憶にはなってしまっているため、この別荘での経験も全て含まれる。勿論過去の記憶も全て消える。
ここで "喪失" とともに過ごすことになる——のだろうが、つまるところこれより先のことは "喪失" にも不明である。もっとも、"喪失" によっては探索者とともにいたいという強い願いから、自分が復活するとか、何も変わらないが自分が一緒にいるようになるだけだとか、耳障りの良い言い方をするだろう。
——ただ、自分に与えられた本来の役割を果たしたい。それだけ。
ここで、探索者は決断を下さなければならない。
考え得る選択肢はふたつ。ひとつは、「 "喪失" をまた手放し、その全てを忘れることになっても、ここから出る」という決断。もうひとつは、「 "喪失" とともに生きる、あるいは死ぬ覚悟を決める」という決断である。ここで探索者が決断をしなければ、これ以降の物語は動かない。
そして前者の選択を決断した場合、探索者は<正気度>でロールを行うことになる。成功で1D3、失敗で1D10+1の正気度を喪失する。
ここからは、探索者の選択によって異なるエンディングを迎えることとなる。
全探索者の選択が決断され、各シーンが終了した時点で、個別処理から全プレイヤー共通の全体処理に戻し、【エンディング】に移行。