※ このイベントは、E-01のイベントで既に人が再現されている場合は省略可能
このイベントを発生させる前にD-04を終えていない場合、D-04のシーン描写を行ってからこのイベントが発動される。
深夜、探索者は暗い部屋のなかで不意に目を覚ました。物音が聞こえたとか、人の気配を感じたとか、特段そういった異変はなかったが、何故か妙に目が冴えてしまっている。再び眠りにつこうと努めても、その努力は徒労に終わるだろう。結局は諦めざるを得ず、身体を起こすことにする。
起き上がってから少しの間、まだ夜闇に包まれた部屋で茫然としていると、ふとどこかから風の音が聞こえることに気づく。
廊下に出ると、その風の音がどこから聞こえてきているかは大方見当がついた。おそらく、2階バルコニーのほうからだろう。
バルコニーに向かっていくと、そちらから優しい夜風が吹いて来、探索者の髪を微かに揺らす。眠れずに呆けていた身体には、その柔らかな冷たさが心地よく感じられる。
そうしてバルコニーに辿り着いたとき、探索者はある一点に視線を奪われる——バルコニーに用意されている椅子に誰かが腰かけ、そこからの展望を眺めている。
それを見てからバルコニーに出るか、部屋に戻るかは探索者の自由である。バルコニーに出る場合のみ、以下の描写が続く。
探索者がバルコニーに出ると、そこに腰かけていた人物は窓の開閉音に気づいたのか、探索者のほうに振り返る。
その人影は、端麗な容姿をした30代くらいの人物である。月光に照らされ、風に靡く長いブロンドの髪がいっとう明るく輝いて見える。探索者が来たことに多少ながら驚いているような表情だが、動揺しているわけではなく至って落ち着いた様子に見える。
「人間」の記憶の再現に初遭遇した探索者のみ、<正気度>でロールを行う。成功で0、失敗で1の正気度を喪失する。
「——あら、まあ。こんばんは、良い夜ね」
「初めまして、私はヘレン。あなたは?」
「……ああ、ずいぶん久しぶりに人に会ったわ。あなたさえ良ければ、少し私とのお話に付き合っていってくださらない?」
ヘレンと名乗った人物は、探索者にそう言って優しく微笑みかける。探索者がどのように答えるかは自由だが、付き合う場合にはヘレンは嬉しそうに椅子を勧めてくる。
「そうね——まず、あなたが疑問に思っていることをひとつ、先に答えるわ。"私は何故、ここにいるのか?" ……ごめんなさいね、私にもそれはわからないの。気づいたらここにいたの——まあ、他に気づいていることがないと言ったら、嘘になるけれどね」
「次は私が聞いてもいいかしら、(探索者の名前)さん。——あなたはどうしてここに来たの?」
「そう。なら、あなたはやっぱり——」
ヘレンはふっと微笑み、月に向かって顔を上げる。
「——ねえ、親切なあなたにもうひとつ聞きたいことがあるの。いまは何年?」
「1924年……ああ、12年も経ったのね」
「今度は私があなたに答える番ね。聞きたいことはある?」
以降、探索者からの質問にヘレンが答えるようになる。探索者からの質問として、推測されるのは以下のとおり。これ以外の質問には、【シナリオの背景 NPC3 - Helen Berkeley】を参照し、答えられる範囲で答えること。
「私にもよくわからないの。気がついたらここでひとりだったから——私にとっては、昔泊まったホテル。ただそれだけの場所としか言えないわ」
「ええ、あるわ。1912年の秋にね。だから、あなたの言ったことが本当なら、私は12年前にここに泊まった宿泊客——ということになるでしょうね」
「そうね——どこから話せばいいのかしら。まず、あなたはここで起きていることをどのように理解しているの?」
「私の考えでは——この世界が現実で、あなたが1924年にここへ自分の意志で訪れたのなら、ひとつ確信できることがあるわ。私はおそらく、『本当の』ヘレナではないということ」
「私には、1912年に恋人のウィリアムとここを訪れたあたりまでの記憶しかないの。それに、ここで目覚めてから、一度もお腹が空いたことがないのよ!驚きでしょう?だから、私は幽霊とか幻とか——まあ呼び方はなんでもいいけれど、きっとそういうものになってしまったのね」
「それが何故この場所なのかはわからないけれど、ここから出ることはできないみたいだから、この場所に何か理由があるのは確かだと思うわ」
「いえ。いつかはわからないけれど、しばらくすると意識が途切れるの。その間はおそらく、この別荘に私は居ないと思うから、ずっとこうしているわけではないわ」
「それがわかったら、あなたにいつでも会えるのにね?……ふふ、冗談よ。でも残念ながら、わからないわ。だから、もしあなたとこうしてお話している間に私が消えても、気を悪くしないでちょうだい」
「親切なひとね。そんなあなたにこのようなことを告げたら驚かせてしまうかもしれないけれど——実は私、自分が生きていないことはそれほど気にしていないの。元々病気で先がないことは知っていたから。けれどここでは——相変わらずものは見えないままとはいえ、少なくとも他の病気になったりしないわ。だから、思っていたより安らかな気持ちなのよ。勿論、ずっと独りでいるんですもの、寂しくないと言ったら嘘になるけれどね。でも、今日はあなたがこうして私とたくさんお話してくれるから、久しぶりにとっても楽しい気分だわ。それだけで、私はあなたに感謝したいくらい」
「ウィリアムのこと?ううん、そうね——彼のことだから、いまはもう他の人と家庭を築いたんじゃないかしら?そのほうが私は嬉しいわ。だって、彼に先立ったことに罪悪感なんて持ちたくないもの。ふふっ」
ヘレンとの会話は以上。
探索者が会話を終えて立ち上がるなら、その別れ際、<聞き耳>が高い探索者には、ヘレンの小さな呟き——「ここで何が起きても、気を強く持つのよ」という言葉が聞こえたかもしれない。その言葉の意味を聞こうとしても、ヘレンは穏やかに——しかしどこか寂し気に微笑んで見せるだけで、答えてくれそうにはない。
ヘレンは会話が済んだところで探索者に眠るよう促すが、探索者が質問を終えてもそばにいることや、会話を続けることを望む場合はそれも可能である。しかし、雑多な世間話をしているうちにふと返答が返らなくなり、ヘレンのほうを見ても既にそこに彼の姿はなくなっている。バルコニーには、静かな夜の風だけが通り抜けていく。
探索者から他に行動の要望がなければ、このシーンは終了となる。