『空はともだち?』に空の短歌について多くの考察を書きました。
そこにとりあげた歌はもちろん、とりあげきれなかった歌も、空の歌には魅力がたくさんあります。
100 「のんちゃん」の天井ちかくにだっこちゃん空をかかへて蘭月の真夜
99 さうだきみは五月の空だ眼が快晴脚が快晴よく食べるのだ
98 公園の上空にいた鳥の群れが毛穴のように遠くへ行った
鈴木ジェロニモ 作者ブログ(note)「鈴木ジェロニモ自選短歌180首」2023/3/11
97 大文字ではじまる童話みるように飛行船きょうの空に浮かべり
96 抱きよせたのは大空のようなもの床に拡がる真っ赤なコート
95 不来方のお城の草に寝ころびて
空に吸はれし
十五の心
ルビ:不来方【こずかた】 十五【じふご】
94 Tシャツを脱いで暮れゆく空を見て寝ころぶ レゴのかけらのように
93 背中からブランコ乗りが抱き締めて星一つない夜空へ攫う
92 高度千メートルの空より来て卵食ひをり鋼色の飛行士
ルビ:鋼色【はがねいろ】91 水甕の空ひびきあふ夏つばめものにつかざるこゑごゑやさし
90 落つれども蜻蜒に将のまなこあり飛ぶことのなき空を濃くせむ
ルビ:蜻蜒【やんま】
89 大股の一歩が青空を超えてゆくみずたまりの今なんという怖さ
88 砂浜で両手を空に広げたら クルクルまわせ 地球をまわせ
87 こんなにもふたりで空を見上げてる 生きてることがおいのりになる
穂村弘『手紙魔まみ、夏の引っ越しウサギ連れ』2001
86 まっ白い腕が空からのびてくる抜かれゆく脳髄のけさの快感
85 降りだした空を映してむきだしの便器に溜まるうつくしい水
84 春空がぷうんぷうんと鳴る日なり子の人生も進みゆくなり
83 突然に秋のきている街空は青くて冷たい火事じゃないの
82 銀河系から脱皮せよ「さよなら」の「さ」と「よ」と「な」と「ら」舌で書く空
81 もう声が出ないわたしの頭の上をまたいでゆきぬ青空紳士
ルビ:頭【ず】
80 鳥は空を遠ざかりゆくことばにはぼくが知らない約束がある
79 真昼のような青い夜空だ あの人にそうだなおっぱいをあげたいな
78 掃除機をかけつつわれは背後なる冬青空へ吸はれんとせり
77 また折ってしまった白墨 かがみ込むわれに教卓下の星空
76 夜 空がおんなのこならば指先で突いてるだろうかがやくほくろ
柳谷あゆみ『ダマスカスへ行く 前・後・途中』2012
75 夏に見る大天地はあをき壺われはこぼれて閃く雫
ルビ:大天地【おほあめつち】
73 心臓に空が満ちると呟きのすべては夏の頌歌となる
ルビ:頌歌【ほめうた】
72 性欲が目薬のように落ちてきてかみなりのそらいっぱいの自殺がみえる
瀬戸夏子『そのなかに心臓をつくって住みなさい』2012
71 ばらいろのマーブル模様の雲がいる夕空こそがわれらの体壁
70 総務課の田中でしたら青空の見える所にいるはずですが
69 大空に何も無ければ入道雲むくりむくりと湧きにけるかも
68 換気扇戸外の風の勢いにまわりたり空がちらちらと見ゆ
67 手のひらを広げて空を押さえつけはみ出た光が顔で暴れる
66 歩いたらわたし手紙になりたいよ空をくぐってあなたにとどく
65 鉛筆で描かれた駆け馬のようなあなたの空が青く満ちている
柳谷あゆみ『ダマスカスへ行く 前・後・途中』2012
64 空色の切手を貼ろう遠い遠い知らない町までひとすじに飛べ
63 自転車を燃やせば秋の青空にぱーんぱーんと音がするなり
62 ひとりではささえきれない碧空のため世界に無数の噴水あがる
61 空に胸おしあてにけりうつしみのによにんのごとき空の弾力
60 喩えではなくてちぎれてゆくひとの、さようなら一枚の青空
59 すべり台終わったところが空を向く ことばのない国から来たの
58 どうやってあそこに置いてこれたのかわからないものばかりの空だ
57 青空は大莫迦だから頭入れあたまは五月の空の大きさ
56 あを空に突きこんでゐる筈の頭だがまだ何んのかげも閃いて来ぬ
ルビ:閃【ひらめ】
55 千人の十二歳の解く算数の鉛筆の音が冬空を圧す
54 壊されてゆくとき家の内臓が空に呑まれているのが見える
53 あなただけ真正面からみてあとのすべてのものは見下ろしてる 空
52 人間は自由すぎても困るから青空に軟禁されている
51 この人はあなたが産んだ人ですか うつろな青空の瞳たち
50 真っ青な空からポジが降ってきてネガの私と出会えたならば
49 少しづつわれを変へたるきみなりき 晩秋の空去年よりあをき
ルビ:去年【こぞ】
48 麦を刈りおえて見ており青空が青空の子を生みだす力
47 ふさふさの群青色が流れてく空は一頭のさみしい馬
46 ひとつだけ送電塔の描かれたあの画用紙の端までの空
45 俺の心はきれいじゃないなんて上等だ わたしは空に目くばせをした
雪舟えま『はーはー姫が彼女の王子たちに出逢うまで 』2018
44 神様はおひとりですか電柱は空を抱えておおいに撓る
43 首長きガラスの瓶の立つ窓に藍いろふかき空しずまりぬ
42 青空の冷めたい心が
貨物車を
地平線下に吸ひ込んでしまつた
41 人ごろしの血を吸った蚊がいずこかを漂う空の青きひかりよ
40 青空とブルーシートにはさまれてサンドイッチのたねだねぼく
39 うざいだろ?それでいいんだ蒼穹にゆばりを流しこんでる。神も
ルビ:蒼穹【おほぞら】
38 きみのこともっとしにたい 青空の青そのものが神さまの誤字
西村曜『コンビニに生まれかわってしまっても』2018
37 男あり広場の空にステッキを構え鴉とたたかいており
36 たくさんの空の遠さにかこまれし人さし指の秋の灯台
35 あの遮断機まで走るんだ群青が空のすがたで追いかけてくる
34 かまくらの大きほとけは青空をみ笠と著つつよろづ代までに
ルビ:著【き】
33 しみじみと三月の空ははれあがりもしもし山崎方代ですが
32 抜けるほど青い空って絶望と希望を足して2で割った色?
31 淡雪をあるけば臍があたらしい 空と抱きあう力士に出会う
ルビ:臍【ほぞ】
30 腋の下をすくつて空に抱きあげて滴るやうにあなたが笑ふ
29 もしかして今は私が留守なのか寒晴れの空ただただ青い
28 巨いなる卵を空に生むここちそこいらぢゆうの山が笑へば
ルビ:巨【おほ】
27 青白色 青白色 とぞ朝顔はをとめ子のごと空にのぼりぬ
ルビ:青白色(セルリーアン)
葛原妙子『をがたま』(未刊歌集 短歌新聞社版『葛原妙子全歌集』1987に収録)
26 夜なかでも空には雲のあることが子供のころにかなしくありき
25 しらじらという空の様子は死んでゆく肉の臭いにすこし似ている
24 たれかいまかすかにささやく青空の底の秘密を(あなたはゐない)
23 空に秋、ほぼみちてをり「うん」としか言はないひとの目を深くして
22 青白い空にうつろうのはやめて ぼくの毛細血管をみて
21 大空の斬首ののちの静もりか没ちし日輪がのこすむらさき
ルビ:没【お】
20 めぐりきてここはしずかな銀歯世界おはなしは空からはじめましょ
19 生きのびたひとの眼窩よ あおじろくひかる夜空のひとすみに水
18 ランボーはむかしいもうとの妻であり青空を統べる骨ひとつあり
瀬戸夏子『そのなかに心臓をつくって住みなさい』2012
17 青空を低めてわれを神にする術もあれよと野の上にいのる
ルビ:術【すべ】
16 ストローで吸ふ夏の空失つた感触を指す日本語がない
15 青草をのぼりつめたる天道虫ゆくりなく割れここからが空
14 溶血の空隈なくてさくら降る日やむざむざと子は生まれむとす
13 さよならはあおぞらに取って代わられて今日の私は人よりも鳩
12 あぶらげの一枚ぜんぶ大空にひろがっているみそ汁の春
11 あをぞらがぞろぞろ身体に入り来てそら見ろ家中あをぞらだらけ
ルビ:家中【いへぢゆう】
河野裕子『母系』2008
10 生命はやがてなくなるたうとつに空があなたにかぶさるやうに
ルビ:生命【せいめい】
9 冷えている眼鏡にうつっている朝の小さな空をからだに嵌める
8 父の愛でたるインヴァネスとていかんせん空を翔ぶにはおもきに過ぐれ
ルビ:愛【め】
6 鉄塔に腰かけをれば大陸がごうんごうんと空およぐ見ゆ
5 彗星の尾の掃きゆきし空あふぎつひに語り得ざるものがたり
4 油でもさすか空しかみえないしけれどわたしは空ではないし
3 不純物ひとつもなくて怖かった試験管から見上げる空は
2 青空に満ちくる声を聞きながらバットでつぶす畑のキャベツ
1 われ思ふわれもつまりはそのかみの青空のかけらみたいなものだ
ブログひょーたん
空に骨?
空を詠む歌にはなぜかよく骨が出てくるため、その理由を考察してみました。
17 縄文の人らはどんな言葉にて語りしやこの空のあをさを