青じゃ青じゃ
青の短歌コレクション+オマケコレクション
随時更新
随時更新
他のコレクションと重複する場合があります
名古屋の月には名古屋の青が含まれてゐて東京よりやや美しい 荻原裕幸
木蓮は白でよかつた庭さきに青いのがあんなにきてたまるかよ 平井弘
うざいだろ? それでいいんだ蒼穹にゆばりを流しこんでる。神も 藪内亮輔
目覚めたら顔のむこうが青だった 世界は顔と青だけだった 谷川電話
沼はあとから私についてきた。背なかが青くそまるのを感じた 前田夕暮
夏のまんなか素足は体をすこしだけほうり投げる あおびょうたーん 杉山モナミ
赤青の蛇口をまわし冬の夜の湯をつくりおり古きホテルに 吉川宏志
コップ越しに青澄む世界亡き母の入れ歯洗浄剤を落とせば 大野道夫
ものみなの青きふるさと老いてなほ親いますゆゑかなしきふるさと 岡野弘彦
ブルーシートの海原を征く艦隊は喫水線より下をもたざり 斎藤真伸
友達がブルーシートでくるまれた可能性とその春のからあげ 加賀田優子
ゼロか死か青柳町こそかなしけれ〇四〇―〇〇四四 松木秀
一人して留守居さみしら青光る蠅のあゆみをおもひ無に見し 斎藤茂吉
白昼の海古びし青き糸のごとたえだえ響く寂しき胸に 若山牧水
冬空の澄み極まりし青きより現はれいでて雪の散り来る 窪田空穂
この人はあなたが産んだ人ですか うつろな青空の瞳たち 東直子
洗いすぎてちぢんだ青いカーディガン着たままつめたい星になるの 北川草子
腕を通せば歓迎されているように青いセーターひんやり柔らか 雪舟えま
やさしさが蒼ざめている 点描で描いた72色の言いわけ 北川草子
とはいえ、そもそも地名が詠みこまれる歌はそう多くありません。
「東京」だけはなぜか短歌では人気で多く詠まれていますが、そのほかの県名等はあまり詠まれていません。(2022年12月データ、全短歌データ123889首中、「東京」を含む歌は401首、「名古屋」を含む歌は14首でした。)
また、地名と言えば、市町村名など、地域規模もばらばら。とうてい探しきれず、まして、「青」といっしょに地名が詠まれている例、というのはなかなか見つかりません。
というわけで、以下は東京と沖縄のみ。たまたま見つけたら追加することにします。
■東京(6首ありましたが、出典が不確かだった1首は掲出しませんでした。)
血はぜんぶ絵の具にかわる真っ青な海に溺れる東京タワー 安井高志『サトゥルヌス菓子店』2018
東京の明かりにBANBANぶつかって青林檎まぶしくてさみしい 藤本玲未『オーロラのお針子』2014
東京の星灯りでは詩が書けないブルーインクで枕を染める 風野瑞人(NHK全国短歌大会2013年入選作品)
東京の地下に涼しき灯をともす何のやさしさぞ青き車輌の 馬場あき子『地下にともる灯』1959
■沖縄(青といえば沖縄ですよね)
十七ではじめて行った沖縄は青かった ただキセキのような青だった あまねそう『2月31日の空』2013
私の解釈では、「青いの」は幽霊かな、というのが私の解釈。
詳細は平井弘短歌鑑賞のページにあります。
「庭」に何かが来る歌はものすごくたくさんあるので、「庭先」(異なる表記も含む)に絞って検索した結果からピックアップ。
庭さきに雀の頭うごいてゐるそれを身ながら飯食べてゐる
北原白秋『雀の卵』1921
庭先にいくつもの手がやってきて互いの指をよせあっている
笹井宏之『ひとさらい』
庭先をよぎる猫あり夕されば模様をかへてまたあらはれむ
目黒哲朗『VSOP』
もうぼくは静かなそなえを知っている 庭先までは今日が梅雨入り
小野田光『蝶は地下鉄をぬけて』
赤んぼの頃から俺のおしっこはおむつを宣伝するために青い
嵯峨直樹『神の翼』2008
※青の反対の色は赤、と思うのは主に、寒と暖とか動脈と静脈とか、概念の対比関係からくるものかもしれません。色において〝反対〟と呼びうる関係としては、「補色」というものもあります。これは、色相環の反対側にある色で、組み合わせると色のあざやかさが強調 されるそうです。青の補色は橙色です。
で、青+おしっこの歌は色があざやかな補色的対比関係で採用され、これから増えるかも、とヤマをかけています。ヤマは当たるも八卦です。
掃除機をかけつつわれは背後なる冬青空へ吸はれんとせり
小島ゆかり『ヘブライ暦』1996
姉さんはソフトクリームを巻きまくる 青すぎる野を永遠に背負う
鈴木智子『砂漠の庭師』2018
生きている化石と呼ばれ背後には青空がある公孫樹とペリカン
小島なお『展開図』2020
人体はあからさまなる楽器にて青空を背に来るパパゲーノ
永井陽子『ふしぎな楽器』1986
崩れゆくビルの背後に秋晴れの青無地の空ひろがりてゐき
栗木京子『夏のうしろ』2003
うしろよりにらむものありうしろよりわれらをにらむ青きものあり
宮沢賢治 (→鑑賞)
夏と青空、夏と青年など、「夏+青」は定番中の定番なので、歌がいっぱいあります。
ここにはどちらかといえば珍しい発想のものをピックアップ。
夏は死に薬指にはおそろいの刺青入れて夏を生きてる
ナイス害 サイト「うたの日」2015年08月14日
絶妙な雲の繊維を綴じこんで青大理石の夏空のファイル
井辻朱美『クラウド』2014
夏の飲みものの広告に海や空や空気のすこしずつちがう青
岡野大嗣『たやすみなさい』2019
青バスの女車掌のひらめけるスカートの影に夏ちかき街
吉岡実(出典調査中)
静脈青く夏深みたりひそやかに世紀終りの蝕は終んぬ
山中智恵子『玉菨鎮石』1999
夏空の青さ未来のほの暗さ混ぜてみたなら軍艦の色
松木秀『RERA』2010
夏蝶のうちかさなれる藍青をささへてとはに風の左手
水原紫苑『うたうら』1992
わかき父あり時に激してわれを殴つよろこびと夏あをき柘榴と
ルビ:殴【う】
塚本邦雄『感幻楽』1969
今のうち眠っておけよと声がする晩夏へ向かう青い護送車
鈴木美紀子『風のアンダースタディ』2017
指さきのあるかなきかの青き傷それにも夏は染みて光りぬ
ルビ:傷【きず】/染【し】
北原白秋『桐の花』1913
コップごしに何かを見るといえばユーミンの有名な歌がありますね。
「◯◯越しに△△を見る」という歌を、ブログのほうでコレクションしました。
上記のリンク先の鑑賞に、この歌の鑑賞も含まれています。
上記のリンク先にあります。
オマケコレクション準備中
上記のリンク先の鑑賞に含まれているもの
★近代歌人の蝿の歌
「青+淋しい」の歌も少し
★青+淋しい ★相性抜群 寂しさと青 寂しさと青については近いうちに整理します。
上記のリンク先の鑑賞に含まれています。
オマケ準備中
オマケ準備中
以下拙著『青じゃ青じゃ』より抜粋
カーディガンとセーターの歌。どちらも、ひじょうに心の弱まった状態を描いていると思う。
「洗いすぎて……」の歌は、翼が縮んでしまった天使がひとりぼっちで死んで星になるかのようなさみしさ極まる歌だ。そのように表現することで、その孤独が言葉に受容され、そのぶん救われてもいると思うが、この歌に「青い」がなかったらその救いは作動しないと思う。
「腕を通せば……」の歌の癒やしもなかなかである。セーターといえば普通は温かいもので「ひんやり」という表現は珍しい。「青いセーターひんやり柔らか」という体感は、自分でも意識していないような心の疲れをそっと癒やし、それが「歓迎されている」という感覚なのだろう。癒やし感といえば普通は暖色系で、たとえば「赤いセーターほっこり柔らか」として温かさによる癒やし感を表すのが一般的だろう。が、湿布にも温湿布と冷湿布があるように、「青いセーターひんやり柔らか」の癒やしはニュアンスが違うと思った。
以下まだまだ準備中
見えてしまったらすみません。
伊舎堂仁『感電しかけた話』2022
荻原裕幸『永遠よりも少し短い日常』2022
水原紫苑『うたうら』1992
ルビ:躯【み】
依田仁美『乱髪~Rum-Parts』
久保哲也 作者ブログ(2019新聞歌壇掲載)
涌田悠 第63回短歌研究新人賞 次席作品より
海賊より空賊がいい 寝転んでこの空を青く青く蹴る男子 千葉聡
『短歌は最強アイテム』2017
サンダルの青踏みしめて立つわたし銀河を産んだように涼しい 大滝和子
『銀河を産んだように』1994
突然に秋のきている街空は青くて冷たい火事じゃないの 杉﨑恒夫
『パン屋のパンセ』2010
秋冷、という言葉を選ぶとき西南西に死海は碧い 千種創一
『砂丘律』2015
きょう雪の降らない寒さパブロンのうがい薬の青をうすめる 谷口純子
『ねずみ糯』2015
〈ある〉ことは深いしずかなる病つかわなくなりし青苔の井戸 渡辺松男
『自転車の籠の豚』2010
話はじめが静かなひととゐたりけりあさがおの裏のあはきあをいろ 藪内亮輔
『海蛇と珊瑚』2018
湖(うみ)の底にガラスの家を建てて住まば身体うす青く透(す)きとほるべし 前川佐美雄
『植物祭』1930
起動するディスクの音は清潔でぼくはきている蒼い岬に 加藤治郎
『昏睡のパラダイス』1998
君の手の中で折りたたまれてゆく青い傘より素直な気持ち 俵万智
『かぜのてのひら』1991
なぜここに青いすべり台があるのだろう こんなさびしい雪の野原に 宮地しもん
『f字孔』2014
ひとりきてひとりたたずむ硝子戸の中の青磁の色のさびしさ 湯川秀樹
『湯川秀樹歌文集』2016