空の短歌コレクション

あなたの空は

どんな空

第2集

(随時更新中)

ときどきコメントやオマケコレクションがついています。

『空はともだち?』に空の短歌について多くの考察を書きましたが、そこにとりあげた歌、とりあげきれなかった歌、空の歌には魅力がたくさんあります。

「抱卵魚」という言葉を見て絵にかいてみました。
実物は知りません。
おまけのミニコレクションにはこのアイコンをつけます。

消化器を抱いていないと青空に落ちてゆきそう 見ていてほしい

郡司和斗『遠い感』2023

関係ないけど、空と消化器の取り合わせから、攝津幸彦の句「ひとみ元消化器なりし冬青空」を想起した。
以前、『空はともだち?』という評論集をまとめたとき、詩歌の言葉の世界で、「空」と「瞳」の連想脈は強まりつつあると感じたが、「空」と「瞳」と「落」は、なんとなく良好な三角関係を形成しそうな気がする。

われはわれを零してゐたりこぼし果てそこにそのまま青空在らすため

ルビ:青空【そら】

渡辺松男『蝶』2011

※もしかして、この歌に応答している?
夏に見る大天地(おほあめつち)はあをき壺われはこぼれて閃く雫  窪田空穂『まひる野』1905

空が空追いかけてのたれ死ぬことを晴れるといったよ ドラマのひとは

杉山モナミ 「かばん」2020年9月

ねむりから醒めないロボット鋼青の胸うすぐもるように秋空

井辻朱美『クラウド』2014

とても愛したので顔の部分には星空がはめこまれるほどでした

飯田有子『林檎貫通式』(新版・書肆侃侃房)2020

旧版にない、新たに追加された「宇宙服とポシェット」より

燃やされた手紙の文字は何処へいくの ごみ収集車はみんな空色

工藤玲音『水中で口笛』2021

食人のたのしみ知らぬ文明の青空のもと闘茶につどふ

山中智恵子『玉蜻』1997

真っ青な空に浮かんだ採石場ぼろぼろの鉄・鋼・生きたい

鈴木智子『砂漠の庭師』2018

高度4メートルの空にぶらさがり背広着しゆゑ星ともなれず

寺山修司『寺山修司青春歌集』

ついでのミニコレクション

星になれない

「星にならない・なれない」と詠む歌がときどきあると思ってさがしてみました。

びかびかの星にもなれぬ水煙をあげて来たりし象は倒れき 山下一路『あふりかへ』1976
霜は花と咲きて凍れる冬の詩を星とならざる射手にささげむ 三枝昻之『やさしき志士たちの世界へ』
春の星座になりそこなった白熊が眠るよ春の星座の下で ひぐらしひなつ『きりんのうた。』2003

笑い上戸は星になりそびれるんだ親知らずなんか抜かなくていい 瀬戸夏子『ずぶ濡れのクリスマスツリーを』 

 次の歌は「星」でなくて「星間物質」ですが。
にんげんは爆発しないで死んでいく星間物質になれない理由  杉崎恒夫『パン屋のパンセ』
星間物質【ルビ;ダークマター】

「星にならない・なれない」というのはつまり例外であり、「星になる」が原則である。そういう考えが前提になっていますよね。

「星にならない・なれない」を理解するには「星になる」を理解しなくちゃ、ですよね。

話が前後しましたが「星になる」も探してみました

このうへもなき行のただしさいつか空にゆきて星となりたる 前川佐美雄『植物祭』
行【ルビ:おこなひ】
人間が死んだら星になるのなら夜でも空は明るいはずだ  松木秀『RERA』
洗いすぎてちぢんだ青いカーディガン着たままつめたい星になるの  北川草子『シチュー鍋の天使』
星となりて逢はむそれまで思ひ出でな一つふすまに聞きし秋の聲 与謝野晶子『みだれ髪』
想われているかも知れぬわがからだ星となり極北の空よぎり飛ぶ  高安国世『北極飛行』1960
沈黙が金になるまで真夜中の長距離バスが星になるまで 植松大雄(出典調査中)
君とゐて日本語の星空となるわが口蓋のプラネタリウム 小川真理子『母音梯形』2002
舞いあがるいちょうの黄が星になる都会の空も僕もだまし絵  神﨑ハルミ(出典調査中)
黄【るび:きい】
流星となりて銀河を渡らんと彦星俺は酒をあおりいつ  依田仁美『異端陣』2005
酒【ルビ:しゅ】

大空は恋しき人の形見かは物思ふごとにながめらるらむ

酒井人真(ひとざね) 『古今和歌集 』

だれからもあいてにされないしずけさよ しかけえほんのなかのあおぞら

喜多昭夫『君に聞こえないラブソングを僕はいつまでも歌っている』2014

ついでのミニコレクション

「空」と「嘘」

「空」は何とでも合う題材ですが、「空」と相性のよい概念があります。
そのひとつが「嘘」。よく目にするような気がしたので、ちょこっとさがしてみちゃいました。
この下から3首、「空」+「嘘」の歌が続きます。



これからもさみしいうそをついていく東西南北一枚の空

兵庫ユカ 作者ブログ「.bypass」2010/7/18



しんぷるな青杉としんぷるな空 とてつもなく大きい嘘のしずけさ

渡辺松男『歩く仏像』2002



清潔なハンカチのような嘘をつく この青空をなくさないため

浅羽佐和子『いつも空をみて』2014

やがて森の設計図となる旅客機が東の空にともされてゆく

嶋稟太郎『羽と風鈴』

かの夏の空の青きを言ひ継ぎしのみに果てたるらしも「戦後」は

成瀬有『流されスワン』1982

なるほど、そういえば、戦争とか、非常に悲惨な現実とかを、空の青さで詠み流すことがあるような気がします。

ついでのミニコレクション

戦争と空(+戦争と青)

私は戦後生まれですが、言われてみれば確かに、戦争を詠む歌で青空をよく見かける気がします。

戦争に限らず言葉に尽くせないような悲惨な出来事があると、それでも何事もなく澄んだ空の真っ青というものを言葉にする、という心理が働くのでしょうか。
また、追悼歌に空が詠み込まれる傾向もあります。こちらは、死者を清い空へと見送りたいからなのかもしれません。多くの人命の失われた戦争を詠むとき、この心理も関わって来るでしょう。

テキスト検索で探せる範囲ですが、少し探してみたところ、「戦+空」だけでなく「戦+青」の歌がけっこうあるようでした。

ただし、「空」も「青」も、何にでも使える万能の人気語ですから、戦争との組み合わせも多くてあたりまえ。多いだけでなく、ここになぜ「空」が(「青」が)必要かという必然性を検証しなくちゃいけないでしょう。それはここでは無理だから、とりあえず、いくつか目についたものをおげておくだけにします。

大きなる鏡には蒼穹全体をうつして鏡の奥に特攻 渡辺松男 短歌ムック「ねむらない樹」2022・8
ルビ:蒼穹【そら】

敗戦日 空また晴れて日晒しの青姦のやうな日本も見ゆ 日高堯子 『睡蓮記』2008
ルビ:青姦【あをかん】

なにごともなかった空に無数の風船そして戦争は終わったの? 吉田竜宇「率」2号

戦争を知る人はみな老人の 空がこんなにうすい夏です  東直子「短歌往来」201409

人も猿も戦い疲れ死ににけり無音の空に昼の月泛く  谷岡亜紀『ひどいどしゃぶり』
ルビ:泛【う】

青きミルク卓にこぼれて妹が反戦をいう不可思議な朝 大野道夫『秋階段』1995

おりたたみしき空を鞄につめこみて軍のときは逃げる覚悟だ

渡辺松男『歩く仏像』

折りたたみ式の空とは!

ついでのミニコレクション

「空をたたむ」ということを詠んだ歌を探してみました。

またすこしふるくなるからいちまいの空をたいせつに折りたたむ  村上きわみ(出典調査中)

空そのものを畳むとは言っていないが、以下の歌と句もやや空を畳む感あり

初春や夢に眠りて夢を見る空にタオルをたたみ続ける 東直子 『春原さんのリコーダー』

空の箱たたむと見ゆる冬の橋 鳴戸奈菜(出典調査中)

星座って夜空でいちど見分けたら痛みのような気もするのです

久保哲也 作者ブログより(2018新聞歌壇掲載)

夏の空には私のこゑもしみていて半世紀その青を見てゐる

荻原裕幸『永遠よりも少し短い日常』2022

上がりかけてバーを抜かれた遮断機が青空の果てをつらぬいている

斉藤斎藤『人の道 死ぬと町』2016

フーディーニの柩の奥は青き空どこまで行けば死は終わるのか

谷口純子『ねずみ糯』2015

明日あると思う心の不可思議に空を浮かべて歩いてゆかん

澤田順 (出典調査中)

ある星は
われのみひとり大空を
うたがひ行くとなみだぐみたり

宮沢賢治「宮沢賢治全集3』(ちくま文庫)

「青空の脚」といふもの
ひらめきて
監獄馬車の
窓を過ぎたり

宮沢賢治「宮沢賢治全集3』(ちくま文庫)


日差しのことかなあ。日差しは脚に見立るなら、青空を透明な巨体として見立てていることになる。
なお「空の便」(航空機を利用した人や物資などの輸送 )を空の足 」という場合がありますけど、関係ないでしょうね。

この空にいかなる太陽のかがやかばわが眼にひらく花々ならむ
明石海人『白描』 

この項は随時更新中です。

たまにチェックしてみてください。

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