第9回
第9回
第9回「学びのイノベーション」フォーラム
日時:2023年10月28日(土)12時50分-17時
場所:秋田県立秋田南高等学校(JR羽越線「羽後牛島駅」徒歩 10 分程度)
主催: 研究・イノベーション学会 イノベーションフロンティア分科会教育イノベーションサブ分科会
ひとつなぎの会(オンライン)
後援: 秋田県教育委員会
参加費:500円
申込:
①会場参加:第5回 学びのイノベーションフォーラム 秋田大会 2023年10月28日(秋田県) - こくちーずプロ (kokuchpro.com)
参加費は暫定500円としていますが、無料にする予定です。
②Zoom参加:https://www.kokuchpro.com/.../f13c355af15c0f7292f8d13f963...
参加URL:https://us02web.zoom.us/j/84248840438?pwd=OU1GSXNBZnFZT1hhdnlGMklUcTNBUT09
ミーティング ID: 842 4884 0438 パスコード: 693280
(開催数日前にDM、上記サイト他でも案内予定です)
<ねらい> “ウェルビーイングを考える!”
教育の目指すゴールとしてWell-Beingが議論されています。秋田県内外の取り組みを報告いただき、これまでとこれからの教育を考えます。オンライン参加の方含めて一緒に対話、人繫がりを深め共創しませんか。
<プログラム>
12:50 主催者あいさつ(ひとつなぎの会 小粥幹夫)
【秋田のこれまで!】
13:00-13:30「小さな村の地域性を生かした教育活動の展開 」
大沼一義(東成瀬村教育委員会教育長)
13:30-14:00「Willプロジェクトの効果」
荒川正明(秋田県立能代高等学校校長)
【ウェルビーイングの実践と未来】
14:00-14:40「Well-Beingな組織について」
平田恵子・高橋伊津子(秋田県立湯沢高等学校教諭)
14:40-15:20「Well-Beingで未来を創る」
齋藤みずほ(キャリアクエスト)
―休憩―
【未来の教育?】
15:30-16:00「データサイエンスと高校教育」
久富 望(京都大学大学院教育学研究科助教)(オンライン)
16:00-16:30「“探究的な学び”をどのように取り入れるか」
佐々木克敬(東北工業大学教授、前仙台第三高等学校校長)
16:30-17:00 総合討論
18:30頃から 懇親会 場所未定
参考資料 ウェルビーイングとは?
1. 新たな教育理念の追求
文部科学省の中央教育審議会は、科学技術イノベーション基本計画に示された社会の動向をガイドラインとして、教育振興基本計画や学習指導要領改訂に改訂に当たって、内閣府や他の省庁、経済界での議論も参考にしながら、新たな教育の理念や政策を打ち出している。情報技術の進歩による急速な社会変化により未来の予測困難となっている中で、第6期科学技術イノベーション基本計画は、Society5.0を①国民の安全と安心を確保する持続可能で強靱な社会、②一人ひとりの多様な幸せ(well-being)が実現できる社会として打ち出した。これを受けた内閣府(CSTI)は3本目の柱の「教育・人材育成」を取り上げ、省庁横断3政策46施策の中で探究・STEAMを深堀した。更に2023年度からの第4期教育振興基本計画では、日本社会に根差したウェルビーイングを基本コンセプトとした。
(参考)
科学技術イノベーション計画:https://www8.cao.go.jp/cstp/stmain.html https://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/kyouikujinzai/index.html
教育振興基本計画: https://www.mext.go.jp/content/20220603-mxt_soseisk02-000023170_01.pdf
2. ウェルビーイング 社会及び個人の在り様、相互循環する教育政策
<多様な幸せ>
科学技術・イノベーション基本計画をベースに、2023年3月に答申された教育基本振興計画では、①2040年以降の社会を見据えた持続的社会の担い手、②日本社会に根差したウェルビーイング向上が基本方針となった。前者における「多様な幸せ」は、後者でより具体的に「日本に適合したウェルビーイング」とより具体化された。OECDにおいて経済的豊かさに加えて自己肯定感や自己実現等など個人で獲得する良い状態として登場したウェルビーイングを、日本では他者や社会との繋がりの中で、利他、社会貢献などの協調的要素を加え、調和と協調をベースとする独自の道を示した。
図 日本独自のウェルビーイング https://www.mext.go.jp/content/20220715-mxt_soseisk02-000024006_2.pdf
<生徒の学びの意欲>
この独自の道は、協調の上に自己実現を目指す2階建ての構造とも言え、令和の学校答申の「個別で協調の学び」や、指導要領の「主体的・対話的で深い学び」に通じる。経済的豊かさに加えて心の豊かさ、自分だけでなく他者や社会全体の幸せ、現在から未来へと深化するものでもある。生徒の学びに向かう力(意欲)は、家族や仲間との繋がりに元気をもらい学び、社会に触れ、自分の役割を自覚する。健康、感謝の心はその基盤である。
図 協調系と獲得系幸福
発表:https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo17/gijiroku/mext_00003.html
関連:https://www.youtube.com/watch?v=AF2-S1EGGiE
<先生のウェルビーイング>
生徒の学びの意欲高揚は、家族とともに先生の大きな役割である。「知識」に限らず、「思考」「態度」などを支援するには、先生自身が調和と協調をベースとするウェルビーイングの実践者であることが必要である。先生仲間の繫がりの上に、生徒をワクワクさせる授業への改善を図る事が第一歩であろう。次のような活動がボトムアップからトップダウンに繫がり、更なる政策推進が期待される
① 日本の教育とウェルビーイングの未来を考えるシンポジウム
幸福学を研究されている慶大SDMの前野教授を中心に、1年間に亘って12回のオンラインの連続シンポジウムが開催され、現場の先生の活動報告を中心に、支援ボランティア、教育評論家、政策の専門家も加えた討論が行われた。
第1回日本の教育とウェルビーイングの未来を考えるシンポジウム - YouTube https://www.youtube.com/watch?v=eafn0RI0N8o
② 第9回学びのイノベーションフォーラム(10月28日秋田開催)
筆者を中心に、本学会のイノベーションフロンティア分科会の主催で、東日本大震災以降毎年、学びのイノベーションフォーラムを開催、霞が関の議論を現場の先生に伝える、キーマンとの対話の場を提供してきた。第6回からは地方開催に移行、本年も秋田で、本報告発表の前日28日に開催、先生のウェルビーイングテーマとして取り上げ、これからの秋田の教育について語り合う。
3.内田由紀子中教審委員の発表、講演
<参考資料> 中央教育審議会教育振興基本計画部会議事第4回(2022年7月25日)
資料:https://www.mext.go.jp/content/20220715-mxt_soseisk02-000024006_2.pdf
発表:https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo17/gijiroku/mext_00003.html
関連:https://www.youtube.com/watch?v=AF2-S1EGGiE
【内田委員】 皆さん,おはようございます。京都大学の内田と申します。本日は,同じく京都大学のジェルミー・ラプリー教授との共同の形で発表させていただきたいと思いますので,どうぞよろしくお願いします。「教育政策におけるウェルビーイング」ということでお話をさせていただきます。
私は社会心理学を専門としておりまして,特に比較文化の知見から日米,様々なウェルビーイングがあるのではないかということで,その指標作成などにも携わってまいりました。また,ラプリー准教授においては,グローバルな視点での日本教育について検討し,ユネスコやOECDの分析などもされております。今回,ウェルビーイングというものが基本計画に取り入れられるということですが,これは教育にとっても大変重要なテーマであると思います。一方で,ウェルビーイングとは何かというコンセプトがはっきりと明確に共有されているかというと,必ずしも今の日本の現状においてそうではないと思います。ウェルビーイングというのは新しい物差し,コンセプトなので,その浸透には一定の時間はかかると思うのですが,非常に重要な概念として受け止めています。
ウェルビーイングを考えることは,経済だけではなくて心の充足,生活への評価,感情状態,様々な形で受け止めて考えることです。また,自分の生きる道だけではなく,家族や友人,自分の住むまちや国,学校現場,どのようにすればよい状態でいられるのかについて考えるような包括的な概念とも取ることができます。この点において,ハピネスが,より短期的で個人的で,今現在楽しいというような状態であるのに対して,ウェルビーイングはより包括的で,個人のみならず,個人を取り巻く場が持続的によりよい状態であることを目指すものです。ですので,教育現場というものを考える上でも非常に重要な概念となります。
また,ウェルビーイングが,今が楽しいという個人・現在的なものだけではなくて,将来に希望を持てる,クラスや地域の人の幸せを願う,このまちや学校,世界をよくしていきたいというような深まりをもつことによって,利他性を考慮に入れた上で検討することができると思います。
ウェルビーイングを考える際の注意点があります。それは幾つかよくある誤解があるということで,1つ目は意味の問題です。どうしてもウェルビーイングというと,楽しくやっていればいいのかというような話になってしまうのですが,必ずしもそうではありません。ウェルビーイングで包括している概念というのは,生きがいや人生の意義,ユーダイモニアと言われるもの,こちらの比重が高いものでございます。もちろん,だからといって,日々の楽しさというものを犠牲にしてはいけませんので,このバランスを考えながら,よりよい人生の意義を追いかけていく,これが教育のテーマとしても重要であろうと思います。
また,2点目といたしまして,意味は国や地域の文化により異なっており,世界的なランキングは非常に気にされることが多い一方で,日本における教育現場のウェルビーイングをきちんと考えていく必要があるというのが重要な視点です。
3点目といたしまして,多様なウェルビーイングの求め方を認めるということです。これまでは一定程度,こういうことをやればいい,こういうことをやれば人は幸せになるというような条件整理のような議論になっていたと思うのですが,そうではない。今回の教育を考えていく上では,様々な人が様々な形で社会に参画し,多様なウェルビーイングを求めることができる。ウェルビーイングというゴールに向かって,様々なルートがあるのだということを認められるような教育現場をつくっていくことが必要だと考えております。
私自身は比較文化を専門にしてきました。これまでの様々な国際比較ランキングは,やはり北米的な幸福感,個人の自由や選択,競争の中でもまれ,それらが翻って社会を豊かにするという獲得的な幸福感に基づいた検討が行われてきた中で,日本においては,むしろ他者とのバランスや回り回って自分にも幸せがやってくる,あるいは利他性というような協調的な幸福感が重視されてきたということを示してきました。
獲得的な幸福で見ると,私の人生はすばらしいとか,望んだものを手に入れてきたというようなことは教育の中でもこれまでは目標とされてきたことかと思います。一方で協調的な幸福においては,身近な周りの人をどれだけ大事にできているか,安定した日々を送れているかという,少し違う角度から検討しています。こうしたことは,実際に測定指標の国際比較にも反映されています。例えば,獲得的な幸福感,人生の満足感尺度で測定をすると,日本や韓国,東アジアの社会は得点が低いということでずっと今まで言われてきました。しかし協調的な幸福感を使うと大体平均値が同じになるということで,しかも,日本発の概念であるにもかかわらず,他の国においても重要視されていることが分かります。
しかしながら,人生の満足感尺度というのは,これまでグローバル指標として教育現場においても使われてきたということがあります。例えばOECDは,満足状態をウェルビーイングと読み替えて,PISAの2015年の中でも使用しています。これによって,例えば東アジア地域は勉強のスコアは高いが精神的なウェルビーイングが低いという結論が導き出されてきたということが,私とラプリー教授の分析などでも示されています。そして,ユニセフのメンタルヘルス指標も,PISAの2015年のスコアから情報を取っています。これで見てみると,やはり同じように,日本は最後から2番目のスコアになってしまうということで,こうしたランキングがメディアなどでも取り沙汰されることがありまして,日本の教育が駄目なのではないかという話が先行する状況が出てきております。
しかしながら,こうしたこれまでの流れに対して,新しい動きも出てきております。獲得的幸福からより協調的な幸福を考えようというのは,実は日本だけではなく世界的な動きとなっています。ユネスコのアジア太平洋地域のプログラムでは,2017年PISAの後に,幸福を改善するためのプログラムを開始しています。そして,これはラプリー准教授の分析ですが,学校で楽しいと感じているという,これまでの人生満足とは異なる指標を用いて検討してみると,学校が楽しい,「そう思う」「強くそう思う」の合計は,日本,香港,台湾という,今まで低いと言われてきた東アジアの文化でも十分にOECDの平均値のスコアよりも高いことが分かります。このことから見ても,指標がいかに大切で,どういうものを使うかによってかなり結果が異なってくることは御理解いただけるかと思います。
そして,協調的な幸福感というものは,世界にも徐々に発信がなされてきています。ギャラップ社が実施している世界幸福レポート,こちら毎年リリースされる非常にインパクトがあるものなのですが,今年から「balance and harmony」というチャプターが登場しました。これは,日本の協調的な幸福の概念に触発されて,新しくこうしたことを世界の中でも取り入れていこうということで,このチャプター6には私も筆者として参画させていただいたのですが,非常に大きな動きになっているのではないかと思います。
このように,これまでの獲得志向的な幸福,そして協調志向的な幸福,このバランスを私たちは今こそ考えるべきではないかと思っています。日本の自己観のモデルというのは,私はよく,2階建ての家のようだという話をさせていただくことが多いのですが,基礎になっている1階の部分が人と協調する,他者の幸せを考えるというような利他性につながるものであるのに対して,2階の部分はより良い機会を求め,多様な生き方を認める,より新しくグローバルなものです。独立 この両方が必要なのだということが重要な視点かと思います。
また,これに関連することとして,地域の幸福という測定指標をつくってみようということで,これまでもやってきたのですが,例えば,地域の中で感じられる幸福の中には,地域の中での社会関係資本,信頼関係という基盤があって,それを基にして,新しくほかの人に対して,何か利他的な行動や振る舞いをしてみようという向社会的な行動にもつながっている。この循環関係により地域全体がよくなるというモデルを,実際にいろいろな大規模な調査から示してきました。こうした知見を生かして,日本における学校現場をどう考えるかということにも展開できるのではないかと思っています。
例えば,これは一つの案なのですが,教育とウェルビーイングの概念を整理するとどうなっているのかを検討してみることも考えています。まずは,生徒のウェルビーイング,これは非常に重要なことだと思います。子供たちの幸福なくして私たちが教育を語ることは,なかなか難しいと思います。その中には,これまで言われてきたような獲得的な幸福にまつわるような自己実現,あるいはスキルというものもあるわけですが,一方で協調的な幸福感に関わるような多様なつながりと協働とか社会貢献とか利他性というものも,生徒のウェルビーイングに含めることができるのではないかと思います。