細胞を理解する

投稿日: 2014/08/27 12:13:46

結局,生物学が解明すべき原理は,細胞が作る(準)アトラクターとその引き込み領域が,どのようなものであるか,だと思うのです.どのように形成・安定化されるのか,どのように不安定化するのか,どのような分子によってどのようなメカニズムで成り立っているのか,どのようなメカニズムで環境条件によって異なるアトラクターに落ちるのか,遺伝情報の変化によってどのように変化するのか,などです.

すみません.「アトラクター」とか「引き込み領域」という言葉がわからない人は,前出のカウフマン著「複雑系と進化の論理」を読んでください.理解するためには「状態空間」というような言葉も必要かもしれません.こんなことを書いている僕自身も十分理解しているわけではありません.ここで考えているのは古典的な意味での環境が変わらなければいつまででも安定なアトラクターではないことになると思います.もう少し定義を広げたものかもしれません.アトラクターも,引き込み領域も,環境が変わらなくても時間を追って変遷すると考えるほうが正しいと思います.あまり安定でない準アトラクターと呼ぶほうがよいのかもしれません.カウフマンは古典的な意味でしか書いてません.

そして,それを理解するためには,細胞内外で起こる反応の速度定数(場合によっては反応機構)が必要なはずです.すべての反応の速度定数は必要ではないですが,どの反応の速度定数が必要無いか,何を無視してよいかに関する情報は必要だろうと思います.一つ一つの反応の速度を測る必要があると思うわけです.さらに,そういう情報を元に,コンピュータでシミュレーションすることになるんだと思うわけです.

たくさんの情報からコンピュータが細胞らしきものを再現したとしても,それだけでは「理解」したことにはなりません.たぶん,その中から,切り分けられる部分構造を切り分けて,それぞれの働きを別のもので近似できるようでなければ,理解したことにはならないと思います.

要するに,複雑系としての細胞を分子から理解することが必要だと思います.

このシリーズ記事の目的は,高井が何を考えているのかを示すことだったはずです.

タンパク質合成系の再構成をやるといい始めてから,再来年で10年なのですが...要するに,再構成無細胞タンパク質合成系が,複雑系としての細胞をきちんと理解するために必要だと考えている,ということなのです.