5. 大腸菌にコムギのシャペロンを加えてみよう

投稿日: 2016/08/22 1:03:50

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大腸菌とコムギで,新しくできたポリペプチドがフォールディングする際に,何かが違うというわけなのですが,当然ながら,何が違うのか調べようということになるわけです.

ですが,違うところはけっこうたくさんあります.

だいいち,リボソームはかなり違います.真正細菌のリボソームは70Sですが,真核細胞のリボソームは80Sです.開始反応のメカニズムもかなり違います.

ですが,ポリペプチドがリボソームのトンネルを抜けて出てくることは同じです.それに,大腸菌のタンパク質合成系でもアミノ酸をつなげてリボソームから放出することはできています.平野さんの実験では,ポリペプチド鎖の伸長速度も,同じ温度ではほとんど同じです(大腸菌の系のほうがtRNAや伸長因子が薄かったりしたかもしれません).それでも差が出たということは,やっぱり,トンネルから出てくるところから後の過程が違うのが原因と思われます.

1.のところで書いた通り,大腸菌とコムギでは,シャペロニン(Hsp60)がかなり異なります.ですが,それだけでなく,リボソームトンネルを抜けた後の過程は,他の点でも異なります.大腸菌の場合,リボソームトンネルの出口でtrigger factorというタンパク質が待ち構えていて,Pro残基のところのcis-trans異性化を促進しています(基本的にはtransでそろうはずです).しかし,真核細胞にはtrigger factorはありません.大腸菌では,できたばかりのポリペプチド鎖はDnaK-DnaJ-GrpEという複合体と相互作用することになっています.一方,真核細胞にはHsp70(DnaK),DnaJ(Hsp40)がありますが,多様性があって,大腸菌の場合とどう違うのかよく知りませんが,少なくとも大腸菌よりは複雑なやり方になっています.

個人的には,大腸菌無細胞タンパク質合成系で可溶になるものは,コムギ無細胞タンパク質合成系でも可溶になるように思ったので,結果を受けて最初に持った疑問は,シャペロンを真核型のものに置き換えたら大腸菌は生きられるのだろうか?,ということです.

それだったら,大腸菌のシャペロンを,次々に,真核型(成り行き上コムギの)シャペロニンに置き換えてみたらどうなるのか,試してみたくなりました.

それで,どれなら置換しても大丈夫そうか,考えたのですが,多様性のあるHsp70-Hsp40よりは,シャペロニンが優先だろう,と思いました.だいいち,コムギのHsp70が全部わかっているかどうかもわかりませんでした.Hsp60については,8種類で全部であって,それぞれそれらしいcDNAが取られているのが判っていました.

そういうわけで,コムギのCCTの8つのサブユニットを全部大腸菌で発現させることを試みようと思いました.どうせなら,そのうえで,GroEL-GroESを潰せるか試みようと思いました.これがそもそもの発想です.

ですが,よく考えてみると,そういう大腸菌が普通に増殖するのなら,真核型マルチドメインタンパク質を可溶発現できるようになってもいいじゃないか,と思えてきました.その場合,GroEを潰す必要はないので,シャペロニンの遺伝子を組み込んだものが増殖できればよいことになります.さらに,真核型の他のシャペロンの遺伝子も導入してみればよいだろう,というわけです.もしうまくいくのなら,これは立派な合成生物学だぞ,と思いました.